第490話 ご存じないのですか!?伝説

 宇宙を駆けるピタパンは、どんどん魔王に近づいてく。

 魔王がすごい形相をして、周りに生えている触手をばんばんこっちに叩きつけたり、光の槍みたいなのを無数に投げつけてきたりするんだけど……。


 これはさっきから防いでいるので、全然問題はない。


「あちょちょー!」


※『気の抜けた怪鳥音出た!』『声はほんわかしてるのに、出力される結果がとんでもないやつw!』『うおおおお触手も光の槍みたいなのも全部払っていくぞ!』


 だって狙いが私に集中してるし。

 分かりやすい攻撃が当たるはずないのだった!


 ついにゴボウを伸ばせば届くところまで来たので、私は「あちょっ!」と振り回した。

 先端がカスっと魔王の鼻先を掠めたら、向こうが猛スピードで遠ざかった。


『何よこれ!』


 なんか叫んでいらっしゃる。


『何なのこれ!? おかしくない? なんであんたみたいなのがいるわけ!? 何もかも……あたしが段取り組んでたなんもかんも全部あんたがぶっ壊して……! あんたが出てきてから、全部めちゃくちゃになって!! つまんない! つまんないつまんないつまんない!!』


 魔王が叫んでいらっしゃる。


「そりゃあ、人生は面白いことばかりでは無いので……」


『平然とあたしに説教かますんじゃねーっ!!』


 魔王の人激おこなのだ。

 金色の瞳がギラギラ光ってる。


『もういい。もうもう、何もかも全部ぶっ壊してやる!! あたしは次の遊び場を探すもんね! あーくそ! 最後でケチついた!! ここをぶっ壊してあたしは去るから!!』


 私達に向かって逆さに立っている魔王が、手を頭上に伸ばした。

 つまり私達の方向ね。


 指をパチーンと鳴らしたら……。

 周りの空間から何かがたくさん出てくるではないですか。


 これは……魔王が立っているぐにゃぐにゃな足場みたいな……。


※『ま、魔王が分身した!』『宇宙が魔王で埋め尽くされるぞ!』『ひぃーっ、はづきっちとベルっちの分身より全然かわいくない!!』『一体でもあんなヤバかったのに、こんなに出てきてどうするんだ……!?』もんじゃ『見える範囲で、宇宙が二で魔王が八……!! 太陽系を押しつぶす気か!!』


「あひー! なんか大変なことになってますけど!」


『あはは! あはははは!! 絶望しろ! なーんだ、遊んでないでさっさと決着つけたら良かったんだ! そしたらお前みたいなつまんないやつと、宇宙まで放り出されてやり合わなくて良かったのに! そら! あたしの分身! この星系を破壊しろ!! 跡形も残さず!! もう遊びじゃねーし! ここからは一方的にやってやるから!!』


 たくさん出てきた魔王が、光の槍みたいなのをたくさん装備してるんですが?

 これは大変!


「ベルっちベルっち!」


『ほいほい。言わずともわかーる』


 私の背中から、ベルっちの腕が二本出てきた。


※『はづきさん! 産地直送のゴボウです! 世界を守って下さい!!』『ゴボウ農家が地球を代表してはづきっちに命運を託したぞ!』『だが我らもゴボウ農家と心は一つ!』さといも『みんなのパワーをゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』『ゴボウに!』


 四本のゴボウを装備した私。

 そこに急激にパワーが集まる!


 あっ、なんか同接数が二桁億なんですけど。

 でも、以前に億になった時以上の力を感じる。


※『うちのじいちゃんもばあちゃんも後ろから見てるから!』『我が家の赤ちゃんも応援してる!』『うちのシロとマーくんも!』『当研究所の試験ロボが動き出して応援の動きを!!』


 なんだなんだー!?


 手にしたゴボウが光り輝き、ぐぅーんと伸びる。

 地球の色々なものの応援を受けたみたいな、そんなパワーを感じる……。


「うわおー! 先輩やっちゃえー!!」


 もみじちゃんの声援に、はぎゅうちゃんとぼたんちゃんとビクトリアが唱和して「「「やっちゃえー!!」」」と声が響き渡る。


「じゃあやります! あちょ!」


 ぶおん! と四本のゴボウが振り切られた。

 ぐんぐん伸びた光、どこまで行ったんだ? 魔王群の一角に刺さったなーというのはわかる。

 そしたら、周りを囲んでた分身魔王の一角がごそっと削れた。


『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』

『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』

『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』

『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』× …………。


 私達の両側面に、バッチリ宇宙が見えた。


※もんじゃ『一閃で四割! 宇宙が五で魔王が五まで減った!!』おこのみ『うおおおおおおおおはづきっちー!! やれやれはづきっちー!!』たこやき『まとめなんて作ってる場合じゃねえ! 多窓で妹と同時に応援するわ!』


 さらにあちょーっと振ったゴボウが、分身魔王をごそっと削る。


『な、な、な、なんだそれーっ!! そんなんズルでしょーっ!! ありえない、ありえないありえない!! あたしほどじゃなくても、大魔将連中くらいの強度がある無量大数の分身が……!! あっという間に削られていく……!!』


 魔王が目を見開いて私を睨んでいる。

 もう全然余裕とかない。


 わなわな震える指先を私に向けた。


『いくらなんでもメチャクチャ過ぎる……!! 何よ、あんた! あんた、一体なんなのよ!!』



 ※



 まさしく世紀の一戦を観客たちが見ている、コンサート会場。

 そこで、一人の男が立ち上がり、そして叫んだ。


「おい、こいつ……ご存じないぞ!!」


 広島VS大阪のシャツの上にジャケットを羽織った彼の声は、広大なコンサートホールの隅々まで響き渡った。

 いや、どういった力だろうか?


『おい、こいつ……ご存知ないぞ!!』


 彼の声が通信に乗り、世界へと広がっていく。

 Aフォンから、スマホから、テレビから、その声が聞こえた。


『おい、こいつ……ご存知ないぞ!!』


※『ご存知ない……?』『おいおい』『ざわ……ざわ……!!』


 お約束を知る者たちが立ち上がる。

 全世界で。


 そしてコンサート会場の外では、巨大化したジーヤの頭上に二人の男。


 二丁拳銃と、黒いコートにロングバレル。

 多くの配信者を蹴散らし、残るは勇者パーティとこの二人のみとなったが……。


『馬鹿な……!! わしが破れてもマロン様がやってくださると……そう思っていたのに……!!』


「終わりのようだな。どうやらお前の主人は、俺の妹を知らなかったらしい」


「おやおや、そいつは大問題だ。来るぞ、アレが」


 既に眼前では、勇者パーティの一斉攻撃が始まろうとしている。

 大魔将ジーヤは満身創痍。

 さらに致命的なポジションをこの二人に奪われていては、その生命も風前の灯火と言えた。


『ああああああ! マロン様、なりません!! この世界で、その段取りを踏んでしまうことは……!!』


 強烈な連続攻撃がジーヤに叩き込まれる。

 大魔将は天に向けて手を伸ばしながら、最後にその声を聞いた。


 世界中から発せられる声だ。


 それはそう言っていた。


『ご存知ないのですか!?』


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