第10話 コラボ配信でボス攻略伝説 後編

「怨霊っぽい! 凄く怨霊っぽい!!」


 這い出してきた黒い影は、お婆さんのようにもおじさんのようにも見えた。

 二つの影が重なり合ってる?


『ア、アアアアアアアアア』


 大変気持ち悪い。


「さあ、行きますわよ、はづきさん!」


「お、おっす!」


※『体育会系の後輩かよ』『カンナちゃんは真面目だなあ』『はづきっちも頑張れ』


 うおお、頑張るぞ!


「はづきさん! わたくし、魔法を使いますわ! 例によって詠唱が長いので、前衛をお願いしますわーっ!!」


「あっはい! あれをやってるとカンナちゃん隙だらけだもんね!」


 前に出る私、怨霊は這いずりながら、ぐんぐん迫ってきた。

 速い速い!


「こわっ! あちょっ!」


 ゴボウで叩く。

 あっ、横に避けた!


『オアアアアアアーッ!!』


 怨霊の攻撃!

 大きく伸び上がって、私目掛けて触手みたいになった腕を叩きつけてきた。


「あひーっ」


 私はすぐに腰を抜かす。

 尻もちをついた頭上を、触手が薙ぎ払っていった。


 さらに、斜め前方から触手が叩きつけられてくる。


「あひー」


 私はごろごろと後転しながら回避する。


※『ででで、出たー! のたうつイモムシ!』『ランダムすぎて後転を触手が追いきれてないぜ!!』『絵面やべえ』


 くっそーこいつら好き勝手言いやがってー!!

 触手は不思議なことに、全く速くない私の後転にまるでついてこれないでいる。


「こ、このっ、このっ、このっ!」


 後転後の這いつくばった姿勢で、ゴボウを振り回す私。

 触手が打ち払われ、怨霊が『オアアアアアーッ!?』と叫んだ。


※『めっちゃ効いてる』『こんなへっぴり腰のゴボウが怨霊に効くとか』『やっぱ、同接数で強さが決まるんだな』


 我ながら意外なんだけど、めちゃくちゃ善戦できてしまっている。

 構えも何もあったものじゃない。

 っていうか、我ながら苦し紛れのひっどい戦い方なんだけど……。


『ウオアアアアーッ! 読めぬ……動きが読めぬ……!』


「そりゃあもう、私、逃げたいなーってのと、配信上逃げちゃダメだなーって気持ちで葛藤しながらどっちつかずでここに立ってるんだもん!」


 ペチッとゴボウで叩いてダメージを与えたかと思ったら、座り込んでバタバタ逃げて、そのままゴボウを振り回して抵抗してきたと思ったら、にじり寄ってきてゴボウでまた叩いてくる。

 怨霊と私は一進一退!

 決め手はないけれど、怨霊は全く私のペースを掴めないでいる!


 アカデミーのチャットは、お陰で凄く盛り上がってるみたい。


※『人間ってあんな不思議な動きができるんだ!』『キモかわいい!』


 キモとか言うのやめてください!

 私一応かろうじて女子なので!


※『おっ、戦争か?』『はづきっちのことキモって言っていいのは俺らだけだからな』


 いやお前らでもダメだよ!?

 だけど、この同接パワーで怨霊とやりあえているのは確か。

 後で教育しちゃる!


 私は決意しながら、怨霊をゴボウでひっぱたきつつ起き上がった。


「詠唱完了! 行きますわよーっ! 漆黒円環撃(シュバルツクライスフォミガーリング)!!」


「えっ!? 今なんて!?」


 なんかドイツ語っぽい響きが聞こえたなーと思ったら、私の横を真っ黒な螺旋が駆け抜けていった。

 な、なんだこれー!


※『個人設定で黒く塗られているウォーターショットだね』


 おおー、さすがチャット欄、集合知ー。

 何でも分かるな。


「ネタバラシやめてくれません!? 営業妨害ですわよー!」


 カンナちゃんが憤慨した。

 だけど、この黒いウォーターショットは怨霊に炸裂すると、めちゃくちゃに効いたらしい。


『ウグワーッ!?』


 怨霊が起き上がり、2つの体に分かれる。


 おばあさんとおじさんだ!

 大家の親子かな?


「合わせますわよ、はづきさん!」


「あ、え? あ、はい!」


 なんか、言われるままに私は走っていって、おばあさんの頭をゴボウで叩いた。


『ウグワーッ!!』


「早い! 早すぎますわよはづきさん!? あーっ、おばあさんの方の怨霊が消滅しましたわ! わたくしも、ていっ!」


 カンナちゃんは慌てて、剣でおじさんの怨霊を殴った。

 危なくないように刃がついてないから、剣っぽい鈍器なのね、それ。


『ウグワーッ!!』


 おじさんの怨霊も消滅した。

 次の瞬間、二人がいたところにダンジョンコアが二つ、コロンと転がり落ちる。


 ミミックを倒した時とは、比べ物にならないくらい大きなダンジョンコア!

 ……ダンジョンコアって手に入れたらどうするの?


※『これで専用装備が作れるな!』『はづきっちの専用装備楽しみー!』


「そうだったんだ!? お前ら物知りだなー」


※おこのみ『【悲報】はづきっち物を知らない』


「うるさーい!? 初心者だって言ってるでしょー!!」


※『俺らが導かねばならぬ』『コメントだけだと援護にも限界が』『収益化はよ!』


「はづきさんのチャット、本当に賑やかですわねえ……。同接数に比べてチャットの流れる速度が速いですわ! ……というか、同接数凄く増えてません?」


「えっ!? ほ、ホントだぁぁぁ!」


 私は驚愕した。

 どうやら私が後転した辺りから、またSNSでプチバズって、キモいと言われた動きでさらに話題になり、人が増えたらしい。


 なんと……同接数が989人に達していた……!

 そりゃあ、怨霊相手にいい勝負できるわけだわ……。


 そして私のチャンネル登録者数も、なんと1111人に達していた。

 凄くない?


 私は慌ててその画面をスクショした。

 SNSで報告する。


『ついに登録者数が1000人超えました! 1111のゾロ目です! ありがとうございます!』


 すぐに、通知がたくさん付く。

 どれもが素直に私を祝ってくれていた。

 あったけえ……!

 SNSはあったけえ世界だぁ……!


 じーんとくるなあ。


「はづきさん、お疲れさまですわ!」


 カンナちゃんが手を差し出してきた。

 私はハッとして、自分の手を服でゴシゴシ擦ってから……。


「あっはい、お、お疲れ様です!」


 彼女の手を握り返した。


※『スクショタイム!!』『絵になるー!』『二人ともかわいい』


 称賛の声が温かい。

 世界は希望に満ちているなあ。

 これで明日も頑張れる……。そうだ、明日また登校日だったっけ……。


 私は一仕事終わった気でいた。

 だけどまさか、これが私の巻き込まれる大騒動の始まりだとは、想像もしていなかったのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る