第320話 きら星はづきの帰還伝説
色々な諸々を終え、私の出張はめでたく終了となった。
空港までは沢山の人が見送りに来てくれている。
「君が我が国のために尽力してくれたことを嬉しく思う。感謝する、ミス・ハヅキ」
ロイヤルな感じのおじいさんにそんな事を伝えてもらい、略式ながら勲章みたいなのを授与してもらった。
なんであろうか。
「ミス・ハヅキ。陛下は君にナイトの称号を授与したのだぞ」
「ナイト……?」
「本来は爵位を与えられて然るべきだが、君は外国人だからな」
なんか色々あるらしい。
その他、ブラックナイトさんにホワイトナイトさんと別れを惜しんだりする。
「あの抱きしめ心地が良かったハヅキにもう触れられないなんて! 悲しいわ!」
「ブラックナイトさんにくっつかれると動きづらいので……」
「姉が迷惑をかけたね。こっちでは本当にありがとう。日本でも元気でね」
ホワイトナイトさんはいい人だなあ。
影が薄いけど。
ビクトリアもシェリーと別れを惜しんでいる。
なんかシェリー、ダーッと涙を流してないか。
とにかく感情豊かな娘なんだろうなあ。
タマコさんも、現地のスタッフたちに別れを告げ……。
バングラッド氏は、なんか不思議な人たちと帰ったらネットで遊ぼうとか言い合っている。
なんだなんだ……?
『おうきら星はづき! こやつらはな、我に新たなアバターを提供した才人たちよ。我のゲーム仲間でもある』
私が近づいたら、彼らはワオーッと盛り上がった。
「本物のきら星はづきだ!」「ゲームは弱いけど本番ではハチャメチャに強いな君!」「成層圏を貫くゴボウブレードでイエローキングを真っ二つにしたのはスカッとしたぜ!」
「あっ、どうもどうも……!」
私はペコペコする。
配信見るからね! とか応援してもらいつつ、彼らとザッコの連絡先を交換したのだった。
なんか、凄腕の技術者らしいもんね。
兄に連絡したら、後々イカルガから色々外注することになる、と返答が来た。
バングラッド氏なしでも私を飛べるようにするとか、なんとか。
『今回のことで、敵は宇宙まで侵食していることが明らかになったからな。単独で成層圏を突破し、宇宙に出られるようにしておきたい』
「この人は私をなんだと思っているんだ……」
こうして私たちは機上の人となった。
みんなが見送る中、飛行機が離陸していく。
空を支配していた風の大魔将が滅んだので、空中ダンジョンもかなり減るだろうという話みたいだ。
大昔みたいに、自由に人が行き来できるようになるといいねえ。
「はづきさん、時差もあるでしょうから今のうちに寝ておいた方が」
「あっはい、寝ます!」
「私は待ってもらっていた仕事がたくさん溜まってるわ。ボイス収録に、インターネットラジオに、こっちのオーディションも行くんだった」
ビクトリアがしかめつらをしながら、予定表とにらめっこしている。
売れっ子声優への階段を駆け上がりつつあるもんねえ。
こっそり聞いた話では、来年春に公開するアニメのヒロインとしての収録がスタートするとか……。
なんということでしょう。
「ま、リーダーが日本に連れてきてくれたからこそ、私はこうやって充実した毎日を送っているんだもの。感謝しなくちゃね」
「そ、そうだったのかー。でもグッズが出たら買うね」
売れっ子声優として活躍することでネームバリューを上げて、それでパワーアップしてるタイプがビクトリアなのね。
新しい形の配信者かもねえ。
私はそんな遣り取りをした後、バングラッド氏からのゲームのお誘いを固辞して寝た。
爆睡した。
18時間くらい寝た。
目覚めるともう日本が近い!
『おう、目覚めたか! 本当によく寝るやつだな。ビクトリアもタマコも寝たから、我は一人でクラフト系のゲームをやっておったぞ。ああ、ウェスパースがもうすぐ迎えに来るそうだ』
「ははあ、ウェスパース氏が」
目覚めた私用に、機内食が運ばれてくる。
もちろん私用の量になってるので、凄くボリューミー。
器の大きさが一回り大きいし、盛られている量が大盛りなのだ。
ドリンクをまずぐっと飲み干してから、パクパク食べる。
下味のちゃんとついたフィッシュ&チップスに、きちんと味がついた煮豆みたいなの。
あとは塩コショウが振ってある目玉焼きと、味のついている茹で野菜!
「向こうで食べたブレックファストを私向けにめちゃくちゃ改善したみたいなお料理だ……」
「実際、はづきさん向けにしたんでしょうねえ。ああ、イギリス旅行良かった。命が掛かった任務だったけど、同時に観光もできたし」
タマコさんも目覚めていて、大変満足げだ。
夢の中でもイギリス旅行してたらしい。
ビクトリアはギリギリまで寝るつもりらしくて、ほぼフラットになった座席の上で寝返りを打っている。
ファーストクラスの広いシートを知ると、もうエコノミーに戻れない……。
贅沢を知ると恐ろしいことになるね。
少ししたら、飛行機が軽く揺れた。
窓の外では、ウェスパース氏が飛行機と並んで飛んでいるじゃないか。
迎えに来たんだなあ。
私とバングラッド氏が手をふると、彼は左右に揺れてみせた。
うんうん、日本に帰ってきたって気がする!
「ドラゴンを見て郷愁を感じるの、なんとも不思議ですねえ……」
タマコさんがしみじみ呟いたのだった。
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