第201話 はぎゅうちゃん初ダンジョン伝説
「見事に家一軒がダンジョンになってますねー。廊下なんか50m走できるくらい長くて広いです。あっ、第一犠牲者発見です!」
私が指さした先に、柱時計に取り込まれて半分オブジェになっているおばさんがいた。
「アヒェーホ、ホラー映画の展開!!」
はぎゅうちゃんが面白い悲鳴をあげた。
※『なんだ今のw』『蚊の鳴くような声がしたw』『はぎゅうちゃんそういうキャラかあ』『ダンジョンに慣れろ、慣れるんだ!』『初々しくてカワイイなあ、でっかいけど』
概ね好評。
「やったねはぎゅうちゃん、キャラ付けバッチリだよ」
「しししし、師匠~! 人が、人が柱時計と同化してるの、平気なんですかー!」
「よくあるもん。慣れちゃうかなあ」
お邪魔しまーすと声をかけ、廊下に土足で上がり込む。
そうすると、私がやって来たのを感知したらしいモンスターがあちこちから現れた。
ゴブリンだ!
懐かしい……。
最近だともっと強烈なのばっかり相手をしてたから。
早速前に出て、私はゴブリンとゴボウでやり合うことにした。
「モ、モ、モ、モンスター!! ヒェェェェ~」
※『意外と悲鳴のバリエーション多いぞ!』『がんばれがんばれ!』『応援してるぞ新人~!』
おお、怖がるはぎゅうちゃんに、お前らの声援が集まっていく!
「じゃあはぎゅうちゃん、ゴブリンをお願いします」
私はゴブリンたちの攻撃をゴボウでいなしながら振り返った。
※『後ろ手で見もせずにゴブリン三匹を捌いてるなw』『もう達人のそれなのよw』
「あ、あたしにできますかねえ……。い、いや、ここでやらなければ新生活を始められないんだ……! うおおおお、やるぞおおおおお!! 今までのあたしじゃねえええええ!!」
闘志を燃え上がらせるはぎゅうちゃん!
すると、被っているイノシシヘッドの目もらんらんと輝き、豚鼻からぷすーっと蒸気が吹き出した。
すごい仕掛けだ!
凝ってるー!!
※『イカルガ、さらに技術力を上げたな!?』『はぎゅうちゃんのやる気に連動して武装が動くのかあ』『かっこいいぞ』
はぎゅうちゃんは廊下に飛び出すと、「うおおおおおおやけくそだああああああ!!」とか叫びながら突進した。
イノシシヘッドの牙がグーンと伸びる!
彼女が加速して、本物のイノシシくらいの速度になり、ゴブリンの一体に頭から突進した。
『ゴッ、ゴブゥ!? ウグワーッ!!』
見事衝突!
一発でゴブリンが吹っ飛んで、空中で光の粒になって消えた。
「つ、つぎぃー!!」
振り返るはぎゅうちゃんの肩アーマーからトゲトゲスパイクが飛び出し、ゴブリンの一体を引っ掛けて空にかち上げた。
天井高くなってるなあ、このダンジョン。
落ちてきたゴブリンは、イノシシの牙で串刺しだ! バイオレンス!
『ウグワーッ!!』
ゴブリンが光になった。
残る一匹は慌てて逃げ出そうとしたので、私がゴボウでペチッと叩いた。
『ウグワーッ!!』
消えた消えた。
「お見事はぎゅうちゃん!! がんばった!」
「ふーっ、ふーっ、ふーっ」
なんか正気を失った赤い目をして、私をぎらーんと睨んでいるんですが。
「どうどう、落ち着いて落ち着いて」
※『攻撃色が消えておらぬ』『来るぞはづきっち!』『暴走モードだ!』
「うおおおおおおー!」
「あひー、落ち着いてー!」
混乱はぎゅうちゃんが突進してきたので、私はゴボウで受け止めた。
ぎゅっとゴボウを押し出すと、彼女は自分の勢いをそのまま返されて、ポーンと吹っ飛んでいく。
※『跳ね返した!』『もう合気のそれなのよw』もんじゃ『剛だけではなく柔の技まで自在に使いこなす女子高生配信者はづきっち』たこやき『なんか彼女、見るたびに新しい技が増えてるんだよね』
「アヒェー」
はぎゅうちゃんは、突き当りにあった柱時計にぶつかって粉々にしたのだった。
「うおお、あ、あたしは一体」
「イノシシに意識を呑まれていたのだよ……。すっごいパワーだけど、イノシシになっちゃうとほら。リスナーさんとお喋りできないからね。撮れ高がね」
「あっはい!」
※『俺等が思っていたのと全然違う方向の指導を始めたぞw』『うーん、流石配信者の鑑』おこのみ『ダブル美少女の対決は怪我をしないならなんぼやってもいいね!』『はづきっち、技でいなしたのか力で押し返したのかさっぱりわからんw 両方か?』
どうも、もみじちゃんと違う方向の配信者適性がある娘らしい。
だけど意識が才能についていかない感じかな……。
「はぎゅうちゃんは才能があるけど、経験が足らなくてそれに振り回されちゃってるのです。凡人である私が経験の大切さを教えて行きましょう……」
「はい師匠! 頼りになるなぁー。授業料は後でコーラでいい?」
「コーラ大好き!」
※『凡人の概念が崩れる……!!』『世界トップクラスの異能が何か言うとるw』『そして新人にコーラで買収される異能者よw』
ちなみに柱時計に組み込まれていたおばさんは、命に別状はなかった。
なんか妙なトラウマを刻まれたらしくて、「こ、この家にいるのはいやああああ」とか叫んで飛び出していったけど。
「じゃあ続けて行ってみましょう。私たちは春休みなので、割りと時間に余裕があるんです。今日はゆっくりダンジョンを攻略して、はぎゅうちゃんの可能性を見極めて行きます……」
※『後輩思いだなー』『自分ひとりだと一瞬で終わらせるからな、はづきっちはw』『基本せっかちなんだよなw』
せっかち、確かに。
原因の一つはお腹が減るからでもあるし。
今日は長丁場になるかも知れないと思って、お弁当を作ってきている。
「次の部屋が終わったら、はぎゅうちゃんとお弁当タイムです」
「師匠のお弁当食べられるの!? やった!! 師匠の料理美味しいんだよねえ」
※『師匠の手料理の美味さを知る弟子キャラだ!』『普通は弟子が作るんじゃないのかw』『はづきっちだからなあ』
お隣の部屋はリビングだった。
そこでは大きなオーガが待ち受けていたので、はぎゅうちゃんにお任せした。
「うおおおおおー!」
イノシシスタイル!
オーガと真っ向からぶつかり合っても力負けしてない。
なかなか、こういうやり方をする配信者はいないので、新鮮なのだ。
あっ、同接の応援パワーでオーガを押し切った!
壁とサンドイッチして粉砕したみたいだ。
そしてしばらく壁にガンガン突撃した後、ハッと我に返ったみたい。
「お、己に勝ちました!!」
「えらい!!」
※『えらい』『速攻で暴走を克服してて草』『最強の師匠がついてるもんなあ』『おや? はぎゅうちゃんが突撃した壁が崩れて……』
「アヒェー!! 人が塗り込められてます!」
「第二犠牲者だねー。助けよう」
おじさんを一人救助した。
腰が抜けておりましたので、私が両手を、はぎゅうちゃんが両足を確保して、ぶらぶらしながら外に運び出した。
やっぱりこのダンジョン、犠牲者を殺すつもりはないみたいだね。
トラウマを植え付けて性根を叩き直したいだけみたい。
ダンジョンは、生み出した人の性格が反映されるのかもねえ。
※『モンスターは殺意があるが、基本的に優しいダンジョンだな……』もんじゃ『これは、新事実が判明しつつあるかもしれない』
こうして私たちは、さらにダンジョンの奥へと向かうのだ!
できればはぎゅうちゃんに、ボス戦まで経験してほしい……!
その前にお弁当をいただきましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます