第200話 年度の終わりと新人チラ見せ伝説

 イノッチ氏の配信者ネームは、猪又はぎゅう、ということになった。

 はぎゅうとは何か。

 萩のことらしい。


「今後、配信でははぎゅうちゃんと呼びます。本名はご法度なので注意するように……」


「はっ、はいっ! 師匠がなんかいつものふんわりした雰囲気と違って、厳かな感じに!」


「配信終わったら一緒にコーラで祝杯あげましょうねえ」


「いつも通りだった!」


 そいうことで、はぎゅうちゃんのコスチュームも基本形が完成したのだ。

 会社のスタッフが増えると分業できるので、仕事が早くなるなあ。


 はぎゅうちゃんのイメージは、猪武者。

 元陸上部のイノッチ氏らしさを活かすべく、可愛くデザインされた和甲冑にイノシシの被り物をしている。

 元陸上部らしさ……?


 どこかで情報の行き違いがあったんじゃないかな……。


 髪の色は目の覚めるような赤紫色。


 うーん、私がピンクで、もみじちゃんが赤毛で……赤系が被ってないか……?

 あ、いや、もみじちゃんは調整が入ってきて、髪の色がちょっと茶色系になっているのだった。


 なぜなら、茶色系のほうがこんがり焼けたパンっぽくて美味しそうだから。

 焼き立てパンをイメージしたグラデーションが髪色にかかるらしい。

 本人こだわりの指定である。

 紅葉コンセプトは衣装に反映するらしい。


 チョーコ氏は牡丹の花だから、あえて白で行くとか。

 運営も赤系統が被りまくることに気付いたか……。

 次の新人さんは青がいいな。


「じゃあ行きましょうー。今日はですね、電車に乗って埼玉県でやります」


 ということで、イノッチ氏改め、はぎゅうちゃんと二人で電車に揺られた。

 電車というかモノレールだけど。

 二人でぺちゃくちゃとお喋りなどする。


 出会ったばかりの頃は大変ぎこちなかったが、今は何の緊張もなくやり取りができるぞ。

 私の圧倒的成長を感じる……!!


 ちなみに話題の内容は、配信時の武器の話だった。

 なぜか、はぎゅうちゃんはコスチュームに武器が搭載されてないらしい。


 その代わり、帽子みたいに被ってるイノシシヘッドの牙が伸びる。

 これはもしや……。


 和甲冑の肩アーマーから棘が出る。

 これはもしや……。


 すね当てが衝角みたいになる。

 これはもしや……。


「突進しろってことみたいですね」


「アヒェーハードル高くないですか!?」


「高いけど、私も初配信は至近距離だったからなあ」


「師匠はずっとクロスコンバットしてますもんねえ」


「うん。特に魔法も不思議な技も使えないからね……!」


 消去法的にゼロ距離でゴボウを使った殴り合いをするスタイルに落ち着いたのだ。

 ということで、モノレールを降り、バスに乗り換える。


 某球場が近いところまでやって来た。

 湖がありますなあ。


「この辺の住宅地にダンジョンが発生したという話をリスナーさんから聞いたわけです。じゃあバーチャライズ行ってみよう」


「うす!」


 二人でバーチャライズする。

 うおおー。

 完全武装モードのはぎゅうちゃん、なんというか……でかい!


 イノッチ氏状態でも背丈が173センチあったんだけど、それが甲冑で縦横に大きくなったもんだから、かなり大きい感じなのだ。


「おっ、なんか強そうになった感じがするなあこれ! なんで胴体の鎧が軽めで胸元が見えやすくなってるんだろう……」


「その方がカワイイからだよ……」


 もっともな疑問だけどね。

 イノッチ氏もなかなか大きい。

 甲冑で抑え込んでいるけど、それだけに見える谷間とかは大好きなリスナー陣も多いのではないか……。


 私は分析してしまうな。

 私ともみじちゃんは露出度が低い、ストイックなタイプだからな……!


「あっ、本当にはづきっちが来た!! どうもどうも!! 祖母の家がダンジョンになったお前らです!!」


 テンション高めの女の人がいた!


「どうもこんにちはー。今日はよろしくお願いしますー。おばあさまの家がダンジョンになったんですか」


「そうなんです。先日祖母が亡くなったんですけど、遺産相続を巡って親族が骨肉の争いになって、そうしたらどうも幽霊になってこれを見てたらしい祖母が激怒して家をダンジョン化しまして。親族がみんな囚われているんですよー」


 ひええー、遺産相続争いは大変だあ。


「そ、それではづきっち。隣のなんだかイカツイ女性は……!? めっちゃかっこいいんですけど」


「えっ、あたしかっこいいですか!? ウヒョヒョ、ありがとうございます」


「可愛くなった」


「ふっふっふ、彼女はうちの期待の新人ですよ。あなたが新人さんを見たリスナー第一号です」


「どえええええええ! 嬉しい! 光栄です! あの、一緒に写真撮っても……」


「どうぞどうぞ……」


 このチェキとかが、ダンジョンを紹介してくれた人への報酬になったりするもんね。

 三人でダンジョンをバックに写真を撮って、さあ配信するぞとなった。


「お前ら、こんきらー! 今日はリスナーさんに紹介してもらったダンジョンを攻略しますね。今年度最後のダンジョンになりますねー。感慨深い」


※『こんきらー!』『こんきらー』『そっか、年度最終ダンジョンかあ』『感慨深いなあ』『はづきっちも一周年だな』『一周年イベントとかある?』


「多分事務所でイベント用意してるんじゃないですかね?」


※『マジ!?』『やった!』『絶対見る!』『ところではづきっち、すぐ後ろで仁王立ちしている女性は一体……?』


「あっ!!」


 振り返ったら、はぎゅうちゃんが物珍しそうにコメント欄を眺めていた。

 チラ見せどころじゃない!

 モロ見せだあ!


「はぎゅうちゃん! 正式発表前のサプライズなんだからいきなり全身像を見せるのは……」


「ヒェッ! そうでしたかあ! すんませんすんません師匠」


 ビュッと画面外に消えるはぎゅうちゃん。

 コメント欄を見たら、流れがめちゃくちゃ速くなっていた。


※『イカルガの新人だ!!』『まさか武者ガールが来るとはなあ』『はづきっちより頭一個でかかったぞw』『もみじちゃんが中に二人入るな』おこのみ『そしてでかかった!!』


 見るところを見ている人がいるな……?


 こうして始まる、年度末ダンジョン踏破。

 はぎゅうちゃんお披露目のイベントなのである。


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