第202話 はづきの探索伝授伝説

 美味しくお弁当も食べ終わり。

 ダンジョン、奥へ奥へと向かっております。

 はぎゅうちゃんもかなり慣れて来ました。


 彼女は突撃するスタイルだけど、これはアバターの手足が攻撃を弾く盾にもになってるみたいなので、本人の立ち回りが大事だなあと思う次第。


「はぎゅうちゃんは私に一番近いスタイルなので、やり方は私が手取り足取り教えます」


「本当!? ありがとう師匠ー!!」


 飛び跳ねて感激するはぎゅうちゃん。

 大きいので、ジャンプするたびに手が天井に届いてるんですけど。


※『師弟百合か……』『どっちかというと普通に師弟関係になりそうな気もするw』『はづきっちは何気にストイックだからなー。ダンジョン内でお菓子とかお弁当食べるけど』


 ダンジョンをどんどん進むと、次々にモンスターが出てくる。

 どれもこれも見慣れたモンスターで、ダンジョンを生み出した生前のおばあちゃんがファンタジーに親しかったとかは聞かないし、なんでこういうラインナップなんだろうなーと思うのだった。

 多分、モンスターはダンジョン化すると勝手に生えてくるんじゃないかな。


 そんな考えをよそに、はぎゅうちゃんは快進撃をしていた。

 ガードはまだまだだけど、力づくで押し切る。

 私の同接パワーを受けてるから、とにかく正面突破がどんどんできる。


 コラボ配信だと、メインの配信者の同接パワーを半分とか受けられるんだよね。


「あ、あたし強いかもー!!」


「私の同接が応援してるからね。デビューしたら自分でこの同接目指して頑張らないと、攻略大変になるよ……」


 同接数によるダンジョン難易度の変化は、私がよーく知っているのだ……。

 今は何万人も見てくれてるから、そりゃあ強くなれる。


「なので、帰ったら私が練習付きあったげる」


「ありがとうございまあす!!」


※『師弟愛を感じる』『やさしみ』『何気にはづきっちの訓練はきつそうな気がするな』『防御の訓練だろ? おそらく配信者界の防御力で頂点に立つはづきっちが師匠だぞ』『配信一年であれだけの修羅場をくぐって、本体への被弾が未だにゼロだもんな……』


 ダンジョンの最奥みたいなところに到着した。

 すると、そこは座敷になっていて座布団の上におばあちゃんがいる。


『配信者さんが来たようだねえ……』


 おばあちゃんが座布団ごと、ふわーっと浮かび上がる。

 この座敷だけ、天井の高さが5mくらいあるなあ。


「し、師匠! 届きませんあれ!」


「そうそう。空を飛ぶデーモンも多いから、突撃一本槍だと大変なの。もみじちゃんは色々なパン型ガジェットを使いこなして万能だからね」


 突破力は無いが、あらゆるシチュエーションに対応できるもみじちゃんは何気に優秀なのだ。

 惣菜パンが変形する謎ガジェットは、海外勢からファンタスティック!とかオーマイガー!とか言われてる。


 突進力のイノッチ氏ことはぎゅうちゃん、最後のチョーコ氏は一体どんなスタイルになるんだろうなあ。


『さあ行くよ。私のダンジョンを突破できるものかねえ。ああ、残りのバカな子孫は畳に塗り込めてあるよ。よく見てごらん』


「あっ、確かに畳色に塗られた人の顔がちょこちょこ床から出てる」


 これは踏んでしまいそう。

 みんな「うおおー」「うああー」「くるしい、くるしい」「ママごめんよう、もうしないよお」「もう遺産はいらないよう」とか言ってる。

 これはおばあちゃんの狙い大成功では?


 ほら、おばあちゃんデーモンが空の上で優しい微笑みを浮かべてるもん!


「あ、あのー! 遺産とかそういうのは……」


『これ、記録に残っているのかい? じゃああんたを呼んだ孫に全部相続させるよ。この子達はみんな遺産相続を放棄したからね。ね? そうだよね?』


「もう遺産はいらないよう」「帰してー、おうち帰してえ」「たすけてえ」


 悲痛な声が畳から聞こえる。


「はい、じゃあ全国に向けて遺産に関する話も流れて、アーカイブも残りますんで……。個人情報とかは迷宮省がどうにかしてくれるので」


『そうかいそうかい。じゃあ何も心残りはないねえ……。それじゃあ……やろうかい』


 空を飛ぶおばあちゃんの目が、ギラリと紫色の輝きを放った。

 来る!

 おばあちゃんが!


「し、師匠!! どういう世界観ですか!?」


「私もこういうのは初体験かも知れない……。ええと、おばあちゃんの周りに色々出てきたでしょ。多分茶道具が……あれが飛んでくるから回避して」


 私の言った通り、おばあちゃんは茶道具とか、桐のタンスとか、三面鏡とか、座卓とか、どれもアンティークで高そうなのをぶんぶん飛ばしてくる。


※『これはここで余計な遺産になるものを全部粉砕するつもりだぞw!』『こういうダンジョンほんと初めてだなあ』『ダンジョン化を使いこなしているぞ、このばあちゃんw』


「アヒェー! ウギアー! ギエー!」


 ちなみにはぎゅうちゃん、回避ができなくて、全部の攻撃を真正面から受け止めて悲鳴を上げていた。

 鎧やスパイクやトゲで、飛来する家具を粉砕しているから無事みたいだけど。


 色々教えていかないとなあ。

 私はゴボウで攻撃を弾きながら、おばあちゃんに近寄っていった。


 おばあちゃんデーモン、安らかな表情で私を出迎える。


『私が私でいられるうちに、やっとくれ。そろそろどす黒い感情に支配されて、私もデーモンっちゅうのになってしまいそうだからねえ』


「了解ですー。あちょっ」


 私はゴボウを投げた。

 ぴゅーんと飛翔したゴボウは、おばあちゃんを貫く。


『はあ、これで思い残すこと無く逝けるよ……』


 おばあちゃんはそう言葉を残して消滅した。

 うーん、含蓄の深いダンジョンだった。


「うおお……うおおお……調子に乗ってました……すみません……」


 家具に埋もれたはぎゅうちゃんが呻いてる。


「うんうん、調子に乗るところから鼻っ柱を折られるところまでセルフでやってくれるの、本当にありがたい……」


「師匠はどんどん上がり調子だったのに、こんな風に図に乗っちゃったりしなかったんですか?」


「私、序盤で無茶な挑戦しまくってひたすら分からされたから……」


※たこやき『トマト配信とかな』


 それそれ。

 懐かしいなあ。

 どれもこれも、一歩間違ったら死んでた気がする……。

 私は運が良かった……!!


 だけど、そういう命がけのトライアンドエラーは私一人で十分なので、後輩はきちんと教育する方針なのだ!


「じゃあ今日の配信はここで終わりです! みんなおつきらー! これからはぎゅうちゃんをデビューまでに仕上げるべく、特訓してきます!」


※『おつきらー!』『鬼のコーチ!』『はづきっちは優しいだけではないのだ……!!』


「お、お手柔らかに……」


「勉強はお手柔らかに行くけど、配信はスパルタで行きます!」


「アヒェー」



 

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