第379話 自家製ロケットでエーテル回収伝説

「えー、皆さんに集まっていただいたのは他でもありません」


 ここはイカルガビル屋上。

 私、もみじちゃん、そしてカモちゃんとウェスパース氏がいる。


「今、宇宙は火の大魔将の眷属に、完全に包囲されている状態にあるみたいで、エーテルの情報とか色々取ってこれないらしいんですね」


「そうだったんだー」


「僕の好きなオンライン麻雀も、魔法回線使ってやってるからちょいちょい不安定なんですよね」


「うむ、魔なる者どもは世界の外からやって来る。故に外なる地の法則で侵略する世界を書き換えようとするのだ。かつて外より飛来した大いなる竜が幼いわしにそう教えてくれた」


 さて、この面子の共通点はなんでしょうか!

 正解は、みんな魔法っぽいものに詳しいことです!


 カナンさんでもいいんだけど、彼女が使う精霊はこの世界にあるものを利用するわけだから。


 もみじちゃんは謎のパワーでダンジョンを改変するし、カモちゃんはゲーム的なのとか運の流れみたいなのをエネルギー化する。

 ウェスパース氏はそもそも魔法の専門家みたいなもの。


「そういうことで、私達で宇宙からエーテルを採取しよう! っていう活動です。あ、今、配信回ってまーす」


※『うおおおおお』『うおおおおおお』『イカルガ公式チャンネルでいきなり科学番組みたいなの始まったぞ』『さらっと地球は包囲されているとか言ったな!?』『それ国が隠してる情報だったりしない!?』


「あっ、そうだったかも知れません!! みんな、忘れて忘れて~」


※たこやき『絶対切り抜き動画になる』


 そんなー。

 でもまあ、今回の配信が成功すればよし!!


「じゃあ気を取り直して、行ってみましょう!」


※『しかしすげえ面子だな』『当たり前みたいな顔して直立したドラゴンいるんだけど』


「うちの相談役のウェスパース氏です。たまにオンラインで対戦してる人がいると思うけど」


※『あ、俺戦ったわ』『あのえっぐい攻めのウェスパースか!』『マスター2000クラスのプレイヤーだぞ』『ドラゴンだったんかw』『イカルガなんでもありだな』『これだけの逸材が配信もせず、内部スタッフをやっている企業』


 皆さんの同接パワーが溜まっていく。

 ではこの力を使ってですね。


「むにゃむにゃ……せつ! フライングブタさん!!」


『ぶいーっ!!』


 ブタさんが四人でスクラムした感じで召喚された。

 ここにもみじちゃんが……。


「えいっ! 惣菜パン……鹿スペシャル!」


 こ、これは、アバターで作られたコッペパンタイプの惣菜パン!

 しかせんべいをイメージしたパリパリの揚げ玉みたいなのが入ってるお肉と野菜のサンドイッチで、食感がとても楽しい。

 これをロケット本体に見立てるのね。


「じゃあ僕は……。ほいっ!!」


 カモちゃんが無造作に取り上げた牌がばらまかれる。

 それが表になったら、東東東 南南南 西西西 北北北 中中になっている。

 これがブタ惣菜パンロケットの周りを回転し始めた。


※『うおおお字一色』『四喜和では?』『いきなりツモったらこれだから天和では』『四暗刻でしょ』『最近ずっと運を落としながら勝負してたから、運が溜まってたな……』


「ここで溜まった分を消費しておかないと、みんなと遊べないですからね」


※『麻雀ばかりするなw』『ダンジョン行けw』


『最後にわしがちょいちょいっと魔法を振り掛けてだな』


 サラサラーっと粉みたいなものを掛けるウェスパース氏。

 そうしたら、私たちのアバターの組み合わせみたいなロケットに一体感が出てきた。

 いいですねいいですねー。


※『これ、もしかしてすごいものを見てるんじゃないか?』もんじゃ『普通に前代未聞だ。配信者がリアルタイムでアバターの打ち上げロケットを作って、それを本物のドラゴンが仕上げてるんだ』『普通の配信みたいな顔して世界的な挑戦をやるなw』


「ちょっと思いついちゃって……。じゃあ発射しますね。3,2,1,発射!」


※『早い早い早いw!!』『カウントに一切の溜めも余韻もないのよw!!』『あっあっ、へんてこロケットの足元から火が!』


 へんてこロケット!!

 いいですねー。


「へんてこロケット、ゴーゴー!!」


『ぶぶぶ、ぶいー!!』


 ブタさんたちが頼もしい雄叫びをあげて、ロケットは飛んでいったのでありました。

 あ、これはですね、私のAフォンが追跡して行ってて配信中です。


 大気圏を突破して、宇宙まで突き進むへんてこロケット。


※『うおー! 翔べ、翔べロケットー!!』『下からだから常にブタのお尻が四つ見えるのなw』『ブタが惣菜パンを抱えてるのよw』


 みんなの応援を受けたら、へんてこロケットの速度がぐんと上がった。

 そしてついに宇宙に到達!


 ブタさんの音声は、Aフォンを通じて私に届きます。


「あっ、なんかトプンッと行きましたね」


※『宇宙に突入する音がこれなのw!?』『明らかに水に突っ込んだ音!』『飛沫も上がらないのな』『宇宙に波紋が広がってるのが見える……』


 ここからは、私たちも配信画面を見ながら、Aフォンを通じてロケットを操作する。

 私たちが生み出した式神とかアバターでできたロケットなので、ちょっとは動かせるのだ。


「ブタさん、もうちょっと右、右!」


「あっあっ、デーモン出てきた? 揚げ玉発射ー!!」


「回れ僕の雀牌! 役満ガード!!」


 画面の中で、眷属たちが寄ってきて、へんてこロケットに魔法みたいなのを次々繰り出す。

 これはブタさんが超機動で回避して、雀牌が弾き飛ばす。


※『アニメに出てくる戦闘機の機動なのよw』『酔う、酔う!!』『あんな見た目なのにへんてこロケットヒロイックだなw』


 肉弾戦を挑んできた大きな眷属は、揚げ玉ミサイルで撃破した。


 そしてブタさんの一人が、お腹の辺りに抱えていた瓶を取り出して、エーテルをトプンとすくった。

 もみじちゃんのパンをちょっとちぎって蓋をする。


※『かわいいw』『なんでそんなキュートな仕草なのw』『回収作業がかわいいw』


「目的達成! 帰還! 帰還~!!」


『ぶい、ぶい~!!』


 了解の返答が戻ってきた。

 ロケットが逆噴射してそのまま戻って来る。

 大気圏突入の熱は、雀牌が次々に砕けながら肩代わりするよ!


 ちょうど最後の北が砕けたところで、ロケットは私たちのところに帰ってきたのだった。

 エーテルも回収成功!

 パンで蓋をされた瓶の中に、なみなみと詰まってますねえ。


※『真空を汲んできたみたいな理不尽を感じる……w』『人類の科学の歴史がまた1ページ……』『科学かあ?』


 ひとまず作戦は大成功だったのです。

 皆さん、ご協力ありがとうございます!


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