第208話 一日限りの斑鳩復活!?伝説

 嫉妬勢残党のデーモン、『ウオオーッ!! この場にいる全ての嫉妬勢よ、今こそ決戦の時ー!!』とか叫んだ。

 そうしたらギャラリーの中にいた一部の人たちが、『ウオオオ~』『濡れ手で粟で稼ぎやがって守銭奴めえええ』『若くて胸がでかいからって調子にのってんじゃないわよガキぃぃぃぃ』『運ゲーでイカルガ一発で落ちたの納得できねえええええ』

 ……なんて叫びながらデーモン化した。

 もう現場はパニックですよ。


 ただ、デーモンたちは私たち目掛けてウワーッとやって来るのに必死で、人間のことを気にも止めていない。


「みなさーん!! まずはその場でしゃがんで頭を押さえて小さくなりましょうー! デーモンはこっちに来ますんで」


 私の声がAフォンで拡大されて響き渡った。

 素直なお前らがみんなしゃがみ込む。


 デーモンはこれを見て、『あっ通りやすい!』『わははは、人がみんなひざまずいてるみたいだから気分がいいぞ』『人がゴミのよ(略)』とか言いながらこっちに来る。

 単純な人ばかりで助かった。

 嫉妬で向いてる方向が一緒になると、こんなものなのではないか。


 結構な数が来たので、うちの後輩たちがうわっと身構えた。

 その前に立つ人がいる。


 兄だ。


「雑魚は引き受けよう。きら星はづき。お前はボスを叩き、この状況を終わらせるんだ」


「お兄ちゃん大丈夫? ブランク長いでしょ」


「趣味でガンカタの練習はずっとやっていた」


「あっ、お兄ちゃんがたまに早朝、スタジオからいい汗かいて出てきてたのはそういう……」


「人しれぬ努力というやつだ」


※『斑鳩現役復帰ってマ!?』『うあああああ斑鳩さまあああああああ』『まさか復活劇を見られるとはあああああ』『一番のサプライズだってこれ!!』『尊いぃぃぃぃぃ』『嬉しい!嬉しい!』『生きてて良かった!!』


 お前らの中に、斑鳩の雛鳥(ファンネーム)たちが!!

 いっぱい潜んでて、みんな兄を偲んでたんだなあ。

 そりゃあ、復活劇は嬉しいに決まってる。


 兄が両手を伸ばすと、袖の中から二丁の黒と銀のハンドガンが滑り落ちてきた。

 袖の太さより大きくない?

 そういう演出だなこれは……。


「はああああああ斑鳩さまあああああああ」


 いかん、もみじちゃんが戦闘不能になった。

 兄、めちゃくちゃ人気だぞ。


「俺の双銃は引導代わり……!」


 なんか兄が銃を握ったまま腕をクロスさせた。


「地獄への誘ってやろう、デーモンよ!!」


 なんか兄が銃をビシイッと上下に構えた。


 コメント欄とか会場がもう、沸く沸く。


 迫るデーモン軍団の中に、兄は飛び込んでいく。


『斑鳩だとぉ!!』『今更何ができる!』『生き馬の目を抜く配信者業界で一年半のブランクは致命的だというのにロートルが格好をつけようとして出てくるのはよくある話ですねえ!!』


 めちゃくちゃ長文で喋ってるデーモンもいる!!


「ふっ、遊んでやる。そのロートルがどれだけの力を持っているのか、己の身をもって確かめるがいい! シルバータスク! ダークネスクロー!」


 なんかハンドガンそういう名前なんですか。

 兄は走りながら、射撃をした。

 バンバン撃たれて、『ウグワーッ』と倒れるデーモン。


『こなくそー!』


 接近して来た重装甲デーモンの攻撃を、宙返りして回避しながら、空中から二丁拳銃をバンバン射つ。


『ウグワーッ!? お、おのれ! この!』


 突き出した重装甲デーモンの腕の上に降り立つ兄!

 その腕を足場に、頭目掛けて銃を乱射した。


『ウグワワーッ!!』


 装甲を粉々にされて、デーモンダウン!


 次に、剣を持ったデーモン二体が襲いかかる。

 反転宙返りで着地した兄がこれを迎え撃った。

 わざわざ宙返りする理由とは……?


『同時攻撃は避けられまい!』『銃では接近戦ができまい!』


「ふっ、ガンカタとは……!!」


 振り下ろされた剣を、腕を交差させながら銃で防ぐ兄。


「拳銃が近接武器であることを知らしめるための近代武術だと知るがいい!! 銃や剣よりも強し!!」


『『なっ、なにぃーっ!!! ウグワーッ!!』』


「交差させる必要あった?」


「先輩! かっこいいのは全てに優先するんです!! デーモンの反応も百点満点なんですよ!!」


「お、おう」


 もみじちゃんに力説されてしまった。

 そういう決まりがあるものらしい。

 古典芸能なのかも……。


 ちなみに剣を受け止めた後、兄はそこから銃をバンバン撃ってデーモンを倒している。

 これがお前らの琴線に触れてるみたいで、バンバンスパチャが飛んだ。


 スパチャがAフォンの力で、なんか細長い小さいものに変わっていく……。

 これはなんだろう。


「弾倉ね……!」


 銃の国から来たビクトリア、詳しい。

 兄は撃ち尽くした弾倉を銃から落とすと、そのままデーモンの群れに向かっていった。


 走る足が弾倉を蹴り上げる。

 弾倉がデーモンにぶつかって弾ける。


『いてえ! な、なにぃーっ!? 俺に弾かれた弾倉を、走りながら高速でリロード!?』


「今のデーモンの解説も得点高いです!!」


 もみじちゃん!?


 また射撃する兄。 

 倒れるデーモン。

 うーん、見ごたえがあるなあ。

 この人、こういうやり方をしてたんだなあ。


「先輩、妹なのに斑鳩様の配信見たこと無かったんですか……」


「なかったねえ……」


 ちなみに兄以外にも、はぎゅうちゃんとぼたんちゃんが頑張っている。

 あっ、向こうでははぎゅうちゃんがかち上げたデーモン二体を伸ばしたイノシシの牙で空中串刺しにしている。

 ぼたんちゃんが散らした燐粉で、デーモンたちが苦しんでいる。


※『イカルガの新人二人は何気に悪役みたいなファイトスタイルだなw』『正統派だけど、突き抜けると癖が強くなるんだよなw』


 飛び交うスパチャと歓声の中、いつものお前らは冷静だなー。

 どんどんデーモンの数が減っていく。


 兄は絶好調。

 ローリングしながら銃撃でデーモンを薙ぎ払うとか、もはや曲芸だし。

 射撃の反動で立ち上がりながら、振り返らずに背後の相手を撃ったりしてるし。


 ハンドガンって色々できるんですねえ。


『お、おいきら星はづき! 俺を眼の前にしてるのによそ見をするな!!』


 ダンジョンボスのデーモンに注意されてしまった。


「あ、ごめんごめん。兄のやり方見るの初めてなので……」


『えっ、妹なのに……? 兄の七光りで有名になったんじゃないの……?』


「最初は一人でやってて同接三人で死にかけたりですねー」


『えっ、そんなに苦労してたの……? ちょっと後でアーカイブ確認しなきゃ……』


 あっ、ボスデーモンがシュワシュワと弱体化している。

 嫉妬パワーにゆらぎが出たっぽい。

 まあ、パワー全開でも弱体化でも一緒なんですが。


 私はデーモンの攻撃を適当にいなして、ポンと弾いてから『ウグワッ!? 力をまるごと返された!』その頭をゴボウでペチった。


『ウグワーッ!!』


 デーモンの耳と鼻から、瘴気みたいなのがシューッと抜けていく。

 よりによってそこなんだ……。

 面白い光景になってしまっている。


 やがて、デーモンはおじさんに戻った。

 それと同時に、デーモンの大群もやられてみんな普通の人になってしまった。


 ここになだれ込んでくる警察の人たち。


「確保ーっ!!」


 向こうでは、受付さんがドヤ顔をしていた。

 ちゃんと通報してくれたらしい。


「いい運動だった。後で風呂に入って筋肉をほぐしておかないとな」


 兄がとても爽やかな顔をしていた。

 そしてまだまだ、スパチャの雨が降り注ぎ続けるのだった。


 本当に人気だったんだなあ……!


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