第207話 集う、イカルガエンターテイメント伝説
きら星はづき一周年イベント、やります!!
この情報がなんかネットを駆け巡ったっぽい。
開催二日前の突然の広報に、世の中が騒然となった……とか?
選びぬかれた協賛会社はもう内情を知ってて、後から知った企業は慌ててアポを取ってきたんだって。
受付さんと補佐のお二人が必死になって一日中仕事をしていた。
お疲れ様です……!!
そして迎える、一周年記念配信の日。
イカルガエンターテイメントは、桜が並ぶ河川敷の公園を確保していた!
「じゃあみんな、バスの中でバーチャライズしてねー。外はリスナーさんとマスコミの人でいっぱいなのでー」
「わかったわ。リーダーがなんだか落ち着いているわね」
「招待したお前らも多いからね……。なんか見知った人間のオーラを感じるから」
「先輩、さらに人間離れしていきますねー」
「ま、師匠は何気に肝が据わってるもんなあ」
「でも、デビュー前の私たちが出てもいいの?」
にぎやかになったなあ!
私含めて五人いる!
「ぼたんちゃん、それはですねー。デビューイベントはチャンネル開設報告イベントになるからですね。ここでいっぱい目立とう」
なるほどなあ、とうなずく猪鹿蝶三人娘なのだった。
「うちもチラチラ見せてたら、わーっとチャンネル登録者集まったもんね。あ、二十万人行きました! 今!」
「今!? おめでとうー!」
「おめでとうモミジー!」「シカコすげえー」「シカコじゃないでしょ、ここではもみじ先輩でしょ! おめでとうございます」
「えへへ」
もみじちゃんが照れていた。
「じゃあ、気を取り直してバーチャライズ行きましょうー。皆さんお手を拝借……バーチャラ」
「バーチャライズ!」
「もう終わってますー」
「うおおおバーチャラーイズ!!」
「バ、バ、バーチャライズ……!」
「チョーコ今更はずがしがってんじゃないよ」
「今の私はぼたんだって言ったでしょ!」
三者三様だなあ……。
私が言い切る前に半分の人がもう終わってるし。
私はニコニコしながらバーチャライズを終えた。
さあ、バスから出よう。
私を先頭に、イカルガエンターテイメント所属の配信者五人がもりもりと降りてくる。
うおおおおおおおという叫びやどよめきが上がった。
パシャパシャシャッター音がする!
あれ? 撮影OKだったっけ……?
「Aフォンがカメラの機能を撹乱している。こちらの許可が出るまでまともな絵は撮れまい」
兄の声がした。
「ふーん、なるほど……って、だ、誰ですかあんたはー!?」
見知らぬ銀髪の男がいるんですが!
白いスーツに白いコートを羽織ってて、襟にはイカルガエンターテイメントっぽいバッヂが……。
「いっ、斑鳩様ーっ!?」
もみじちゃんが飛び跳ねた。
彼女のこんな甲高い声初めて聞いた!
「えっ、じゃあもしやお兄ちゃん?」
「そうだ。俺も顔バレは避けたいからな。このアバターを買い取っておいて正解だった」
ちなみに斑鳩登場に、周囲のどよめきも凄まじいことになっている。
なんか、一年半ぶりに表の世界に登場! みたいな感じらしい。
「道を開けてくれ。配信が始まったら写真撮影も許可しよう。今はこちらのプログラムに従ってもらう」
大変クールな物言いに、詰めかけた人々の中の女性層からキャーッっと黄色い歓声が上がった。
詰めかけた人々の中のむくつけき男性層からキャーッと野太い歓声が上がった。
ファン層幅広いのね!!
戸惑う報道陣。
うんうん頷いて古参顔してるwebライターみたいな人たちもちらほらいるぞ。
目頭を押さえたりしている。
あ、緑色の小人もいる。
うぉっちチャンネルさんもバーチャライズを覚えたのかあ。
それに、一般人に偽装して、今回のゲストの人たちもあちこちに……。
これは大イベントになりそうだなあ。
会場は今まさに桜吹雪が凄いことになっていた。
グリーンシートが敷かれていて、その上で撮影なのだ。
これ、グリーンなのは配信だとここに桜が敷き詰められた映像が合成されているからだって。
Aフォンが私の周りを回転し始めて、配信の準備はOK。
ここで私は、声を張り上げた。
「お前ら、こんきらー!」
周囲から一斉に、「こんきらー!!」と声が聞こえる。
※『はじまた』『こんきらー!』『こんきらー!!』『すげえギャラリーw』『リアルイベントだもんな……w』『周りが縁日みたいになってるぞ!』『テキ屋のフットワークすげえな』
テキ屋っぽく見えるのは、実は各小売店やゴボウ生産農家の人たちで、イカルガエンタ缶バッヂやちっちゃいぬいぐるみ、枕カバー、ポスターにきら星はづき型抜き、焼きゴボウなどなどが売られているのだ……。
営業さんたちが活躍した成果である。
「今日は、私の一周年記念イベントです。お、お集まりいただきありがとうございばっ」
※『噛んだ』『緊張が出てきたな』『いつものはづきっちになってきたぞ』『楽しみすぎる』
ええい、鎮まれー。
わーん、リアルなギャラリーまでドッと沸くからこれは大変ですぞー!
「えっと、じゃあうちのメンバーの紹介を……。みんな自己紹介どうぞー」
「ビクトリアだよ! リーダー一周年おめでとうー!」
ビクトリアがむぎゅっと抱きついてきた。
「ありがとー!」
私は彼女を抱き上げてくるくる回す。
多分全ての配信者の中で、一番私が抱きしめた回数の多い娘が彼女だなあ。
周辺からどよめきと、オー、という感嘆の声が漏れた。
なんかぼたんちゃんがハッとした後、わなわな震えてる。
当然目ざといお前らは、これを見逃していないのだ。
※『新人さんが震えておる』『キマシ』『三角関係ですわ』『だがはづきっちにはカンナという正妻が……』『四角関係ですわ』おこのみ『ヒロインを巡るドロドロの百合関係は健全な範囲でやってほしいですね!』『同志が真面目なことを言っとる』
「鹿野もみじです! よろしくお願いします!」
もみじちゃんはちゃんと卒なく挨拶をした。
周りから温かい拍手。
続いて新人二人が続けて挨拶をして、詳しい自己紹介はデビューイベントで、となると周りがワーッと沸いた。
おお、二人とも緊張している。
「じゃあそういうことで一周年記念イベントをやって行きますが、えーと、プログラムだとここに設置してあるカラオケで歌ったり、抽選で当たったリスナーさんを呼んで質問会をしたりですねー」
私がこれからの予定を話していると、なんか会場の向こうで悲鳴が上がった。
あっ、おじさんが警備の人の静止を振り切って乗り込もうとしている。
「きっ、きら星はづき~!! てめえ、俺がこんな苦労して生きているのにのうのうと何の苦労もせずに有名になって大金をせしめたあげく俺が何年も温めていたネタをマシンガンみたいな速度で消化してバズりやがって~!! うおおお許せねえー!!」
あっ、なんかおじさんの輪郭が?
モヤモヤ~っと変わって、デーモンになった。
「あー、嫉妬の人の残党みたいですねー」
色々緊張してた私だけど、デーモンが出てきたらスッとリラックスできた。
「先輩が憑き物が落ちたみたいな顔してる」
もみじちゃんの呟きに、今まで黙っていた兄が頷いた。
「常在戦場だ。というか戦場で落ち着くようになっているな。これはこれで良くない」
いいの!
ということで。
デーモンとの公開バトルスタートです。
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