第436話 いよいよ審査伝説

 遠い場所。

 ここではない世界。


 眼の前に映し出された、配信者オーディションを眺めながら、魔王マロングラーセが頬杖を突いている。


『ねえじい、これ何やってんの? なんか? あたしに対抗する? そういうチームを選ぶとか言ってんだけど』


『ご推察の通りですな。ゴボウアースめは、御身に抗うため世界を傷つけず戦える者達を選びだそうとしております。どうしますかな? かの会場をダンジョン化して人間どもを滅ぼすこともできますが』


『あー、無理無理』


 魔王は画面の隅っこにワイプ映像で映し出される、ピンクの髪の少女を指差す。

 そろそろ大人の女性になりつつある風貌。

 口をポカーンと空けて、「はえー」とか言ってる。


『きら星はづきがいるっしょ。じい、やられるよ』


『……それほどですか』


『余力を十分に残して、じいの7つの頭が7回ぶっ飛ばされる。で、きら星はづきはその後にのんびりお茶とお菓子をキメてリスナーとお喋りするっしょ』


『な、なんですと!?』


 魔王の側近とも言える大魔族ジーヤ。

 その彼が足元にも及ばぬ実力者と魔王が評価する、きら星はづき。

 それはもう既に、魔王そのものではないか。


『ふーん、いいじゃんいいじゃん。ゴボウアース、やる気じゃん。今まで遊んできた世界の中で、飛び抜けて気合の入り方が違うわ、ここ。超強い世界だよ』


 ニヤリ、と笑うマロングラーセだった。

 そんな彼女の傍らで、スマホが鳴った。

 偽造身分証を使って契約した、格安スマホである。


『あ、いっけね。バイトの時間だわ。んじゃあたし、今日も元気にバーガー売ってきます! いらっしゃいませぇ~! バーガーエンペラーへようこそ~!』


 魔王は姿を消した。

 しばし、ポカーンとするジーヤ。


『あのお方は……本当に侵略を楽しんでおられる……。マロン様をも受け入れて楽しませる世界、ゴボウアース……。なるほど、最高の遊び場であろうな』



 ※



 ということでですね。

 ここに十人揃いましたよ。


「えーと、じゃあ審査をやっていこうと思うんですけど、皆さん自己紹介をお願いします~」


 全員が公式、非公式関わらずAフォンを所有してるので、自動翻訳装置が働く。

 便利~。


「スーダンから来ましたタリサでーす! よろしくぅ~!」


 アフリカ人の女の子が手を振った。

 色とりどりに編まれたドレッドヘアで、服装もカラフルなジャケットで下はぴっちりとして体型が出る感じのスキニーなパンツ。

 肘や膝にプロテクターがされてて、実戦的な装備なのだ。


 笑顔が可愛くて、声も可愛い。

 ワーッと盛り上がる会場。


 ここで、審査員の一人が質問をしてきた。

 若い男の人。なうファンタジーの母体になってる、現代ファンタジー株式会社のCEOのクーカイと愛称を付けられてる人だ。


「えーと、アフリカはもう全員スマホ持ってるレベルで普及しているって聞きますけど、タリサさんの人気はどれくらいですか? それと配信スタイルと特技をお聞きできれば」


「はーい! タリサはですね、登録者二百四十万人です!」


 うおおーっとどよめく場内。

 そりゃあ驚くよね。

 日本なら五指に入るくらいの登録者数だ!


 あ、私はもう自分の登録者数数えてない!


「んで、タリサの配信スタイルは呪術とガンです! 教官に教えてもらって、専門の動きをマスターしてるよ! あとはおばあちゃんから習った精霊を使う呪術を組み合わせて……」


 ここでタリサちゃん用に、向こうに的がせり上がってきた。

 お邪魔用のドローンが、盾をぶら下げてうろついている。


「いっきます! 精霊たちー! 力を貸してね!」


 タリサちゃんがそう叫ぶと、腰からカラフルな粉を取り出して巻き上げた。


 それがぐるぐるぐるーっと渦巻くと、タリサちゃんの前に展開した。


「フォーメーション、コンドル!」


 発砲音。

 実弾だ~!


 弾丸が渦巻く粉を通過したら、それそのものが翼を生やした何羽もの鳥に変化した。


 カラフルに彩られた鳥が、それぞれの軌道で次々に的へ突撃、炸裂!

 時間差着弾ですねー。

 もちろん、全弾命中。


 さらに鳥は戻ってきて、弾丸に戻るとタリサちゃんの手のひらの上に落っこちた。


 おおーっと感嘆の声が漏れる会場。

 この他、軍隊仕込みのプロフェッショナルなアクションを拝見できたのと……あとはタリサちゃんはとにかく足が速い!

 むちゃくちゃに速い。


 アバターを被らないで配信するスタイルらしいけど、足や体には武装としてのアバターを身につけている。

 これと呪術を組み合わせて、一瞬ならチーターの速度で移動できたり、ガゼルとかみたいな跳躍力を発揮できたりするんだそうで。

 うん、強い強い。むちゃくちゃ強い。


 一位通過納得。

 世界的に見ても完全に上位の実力者でした。


「なるほど、納得です。強いなー。あの、今度うちとコラボしましょう」


 クーカイさん、サラッとタリサちゃんにアピールしていた。

 タリサちゃんもそこは望むところらしくて、快諾。

 いい関係が生まれそうですねー。


 次はユーシャちゃん。


「ど、どうもー! ユーシャ・ブレイバーです! ええと、わたしはこれです! 現代魔法と専用のドローンで……」


『ユーシャちゃん急ぐのです! これが本番だったらモンスターは待ってくれないのです!』


「わ、分かってるよーアフームたん!」


 ドローン登場とともにざわつく会場。

 それは、真っ青でもふもふした空を飛ぶマスコット動物だったからだ。


『行くですよユーシャちゃん! ふおおー、勇者剣、ゴボウセイバー召喚!』


 ゴボウ!?

 これは私をリスペクトしてますねー。


※『はづきっちのドヤ顔がワイプで映し出されてるw』『なんて嬉しそうな顔をするんだw』


 ちなみに、抜き出されたのは白銀に輝く剣で、柄の部分に☆マークが付いている。

 あ、五芒星バーの意味もあるのね。


 どうやらあのマスコット、私が上げたダンジョンコアを装着した格安ドローンらしい。

 進化したんですって。

 で、マスコットとともに、用意された障害を突破していくユーシャちゃん。


「無駄な動きが多いけど……。派手なのはタリサも好きだな~」


 タリサちゃんのツブヤキが聞こえてきた。

 そうでしょうそうでしょう。

 ユーシャちゃんのアクション、さらに勇者とかヒーローっぽい感じで磨き上げられて行ってるもんね。


 標的の盾を切ったら、なんか盾が爆発するし。

 マスコットのアフームたんの能力は、相手を凍らせて足止めすることで、束縛したところにユーシャちゃんの雷をまとったゴボウセイバーが炸裂!


 うんうん、強い強い。


「いきなり見どころたくさんの二人ですねー」


 私が満足気に呟くと、審査員の皆さんも興奮した様子で頷くのだった。

 さあさあどんどん行きましょう!


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