第176話 VRダンジョンで遭遇、魔将さん?伝説
ついでにVRダンジョンも歩いておくことにした。
「えーとですね、幾つかダンジョンが発生しているみたいなので、どれかに潜ってみようと思うんですけど……アンケートでー」
※『そんな幾つも出てるのか』『VRもまあまあ物騒だなあ』
ワイワイコメントをもらいつつ、手前、ちょっと奥、一番奥から選んでもらった。
一番手前ね。
オッケーです。
「じゃあ一番手前のダンジョンに入りますねー」
VRで発生したダンジョンは、そのゲームシステムを乗っ取る。
なので、該当のゲームの表示がバグったみたいな見た目になるのだ。
どれどれ……?
これは対戦格闘ゲーム……?
私が未体験の世界だなあ……。
ダンジョンに入ろうとしたら、『ウグワーッ!!』と叫んで誰かがその中からふっ飛ばされてきた。
空中でアバターが粉々になって消えてしまう。
「ひぇーなんだなんだ」
※『あいつ、個人勢のやつじゃん!』『そこそこ名前が知れてる配信者だったはずなのに!』もんじゃ『アバターを粉砕されるほどのダメージは尋常ではないぞ。はづきっち、気をつけろ』
「あっはい。慎重に行きます……」
そろーっとダンジョンに潜る私なのだった。
そこは、十二個くらいのステージがある格闘ゲーム。
眼の前にはパネルみたいになって、ステージが並んでる。
配信者とか一般の人がたくさんいて、みんなが頭上に表示される対戦を眺めていた。
私も並んで、対戦を眺める。
丼が一人増えたくらいだと誰も気にしないみたい。
画面の中だと、なんか剣を持った鎧武者みたいな人が配信者を相手にしてる。
ほえー、自分のアバターで参加できるんだなあ。
で、配信者の人があっという間にざくざく斬られて、蹴り飛ばされた。
『ウグワーッ!!』
あっ、頭上を吹っ飛んでいった。
さっきの外に飛び出した人も同じパターンだったみたいだ。
「なんか大変なことになってますねー」
※『一発で異常事態が起こってるダンジョン引き当ててて草』『はづきっちが行くところ大事件が起こる』『このダンジョン、モンスターはあいつ一匹っぽいけど……』
お前らがワイワイ言い合っているのを、私が眺めていると……。
『敵はモンスターだぞ!! 俺たち全員でかかろう!』『そうだそうだ! 一対一はゲームの世界だ。これは現実だろう!?』
なんか集まった人たちの間でそう言う話が盛り上がっている。
なるほどなるほど。
※『集団で挑むのか!』『はづきっちもついていくの?』『数でかかるはやられる方というお約束がだな……』
「私は人混みが苦手なので……。ここで見ていますー」
※『だよねー』『真打ちは最後に登場するからな』
そんなかっこいいものではない……。
なんかたくさんの人にぎゅうぎゅう押されると、必要もないのに焦ったりしてしまうじゃないか。
私がぼーっと眺めていたら、対戦にはその場にいた人たちがどんどん加わる。
『俺たちの力でモンスターを倒そう!』『VRだと俺等でも戦えるもんな!』『うおおー! やるぞやるぞ!』『飛び道具で遠距離から攻撃すれば……』
結果、私だけがポツーンと残されて対戦画面を見上げている。
うわー、画面内凄いことになってるぞ。
※『プレイヤーが9でステージが1じゃんw』『こういうのは無双されるフラグじゃね?』『だよなあ……』
「あの中にいたら身動きとれないもんねえ。お手並み拝見と行こう……」
※『はづきっち、それ悪役のセリフw』
画面の中では、お前らが予想した通りの光景が展開していた。
銃弾とかミサイルとか魔法がどんどん飛んでくるんだけど、これを剣で次々切り払う鎧武者。
ついにプレイヤー側は手数をグーッと増やしてきて、剣一本ではどうにもならない感じになった。
そうしたら、鎧武者の背中からバキーン!と音がしてあと六本の腕が飛び出してきたのだ。
八本の腕全部に剣を持って、攻撃を片っ端から切り落としている。
プレイヤー押され気味か!
「あ、ちょっと新しいポテチ取ってきますね」
※『VR配信中にVRゴーグルを外して出かける!』『自由過ぎるw』
リビングに確保してあったポテチの袋を持ってきたら、決着がつくところだった。
竜巻みたいに回転した鎧武者が、ステージごとプレイヤーたちをまとめて切り捨ててる。
あひー、なんて派手な演出!!
「ポテチ取ってきました! 終わりそうですねえ……」
※『おかえりー』『おかえりー』『VRじゃなかったら大惨事だよ』『モンスターにやられるとVRゲーム機故障するんじゃなかったっけ?』『こりゃ凄い数が壊れたな』
みんなのんきな雰囲気だ。
VRダンジョンはあくまでゲームの延長線だもんねえ。
現実みたいに人が死ぬわけじゃない。
なので、またゲーム機を直すと再挑戦できるのだ。
『弱い……。弱い弱い弱い弱い!! この程度の戦士しかこちらにはいないのか!! この魔将八手のバングラッド様がわざわざ出てきてやったというのに! ふん、このような世界、存在しても意味がなかろう。嫉妬めはやめろと言っていたが構うものか。我が破壊してくれよう』
「もぐぐ、なんか言ってる」
※『一人ダンジョンに残されたはづきっちだというのに、ポテチの咀嚼音が止まらない』『食べてるねーw』『正面対決不可避だろw』『はよ食べきれw』『あ、あ、来た来た』
その通りになってしまった……。
ポテチを食べているために身動きできない私の前に、全てのステージを破壊した鎧武者の人が現れたのだ。
『なんだ、お前は?』
「もぐもぐ……ちょ、ちょっと待って下さい」
もう少しでポテチ食べ終わるので……。
『確か、我の手勢を滅ぼした異世界の戦士も、そのような異様な姿をしていたはず……。貴様か? いや、まさかな』
「もぐもぐ……」
『この世界で戦った者たちは、話にもならぬ弱き者ばかり。ついには数に任せて飛び道具で攻撃とは! がっはっは! 弱い! そのあり方も心根も全て弱い……!』
「もぐ……あ、お待たせしましたー」
ポテチの袋をゴミ箱に捨て、口の周りをティッシュで拭いて、私も準備完了なのだ。
『やる気か? 先程の戦いを見ていたであろうに』
「ポテチ取りに行ってて見てなくて……」
『何を言っている? 貴様には緊張感というものを感じぬ! そのような有様で戦いの場に出てくるとは! 己の覚悟のなさを恥じるが良い! ツアーっ!!』
なんかぶわーっと攻撃が来た感じがするー!
私はゴボウを抜いておいた。
いきなり視界が明るくなる。
気がつくと私を包んでいた半球状の薄暗い空間が切り裂かれている!
ど、丼~!!
丼アバターを壊されてしまった!
「あひー」
私はゴボウをにゅーっと突き出した。
切っ先はふよんふよんと揺れている。
それが、なんか襲って来た8つの刃を同時に弾き飛ばした。
『ぬわーっ!?』
鎧武者の人がぶっ飛ぶ。
『わ、我の斬撃八刃を一本の棒切れで同時に弾いただと!? 我の力がそのまま跳ね返されてきたわ!!』
私はそーっとゴボウの状態を確認する。
あっ、先端が削れて白い身がちょっと出ている。
こんなの初体験。なるほど、目の前の人は凄く強いらしい。
『面白い! 面白いぞ! 戦いはこうでなくては! うわはははははは! 行くぞ行くぞ行くぞ!』
「あひー、大きい声出されると怖いんですけどー!」
なんか迫ってきてはもう攻撃をしてくる鎧武者の人。
私はこれをゴボウでぺちぺち躱しながら、ハッと気付く。
「久々にもう一本使えばいいんじゃん」
『何っ!? 我の攻撃を片手で凌ぎながら、背嚢よりもう一本の棒を!?』
「あちょっ」
攻撃の隙間が見えたので、そこに二本めのゴボウを抜き打ちで差し込む。
そうしたら、先端が鎧武者の人の胸鎧にコツンと当たった。
『ウグワーッ!! な、なんという破壊力!!』
胸鎧が壊れた!
中身はがらんどうみたい。
鎧武者の人は慌てて私から距離を取って、
『恐るべき戦士がいたものだ! 殺気も覇気もまとわず、常に平常心……。そうか、貴様が達人というやつか……!!』
何か勘違いされてませんか!!
※『はづきっちにライバルができちまったな』『向こうの片思いじゃんw』『しかしあの斬撃を凌ぎ切るはづきっち、動体視力どうなってんのw』『一瞬だけゴボウが八本に分裂してたよなさっき』
『名を聞こう!』
「あ、はい、こんきらー。そろそろ中堅冒険配信者のきら星はづきでーす」
『な、長い』
「じゃあきら星はづきだけ覚えて帰ってもらえれば……」
『おう、かたじけない……。我の名はバングラッド! また会おうぞきら星はづき!』
そう言うと、鎧武者の人は消えていった。
なお、この人の名前はリスナーが控えておいてくれるらしい。
持つべきものはリスナーだなあ……。
※『しかし、丼とは言えはづきっちに攻撃を当てるやつは初めてじゃない?』たこやき『丼は彼女の動きの肘から内側全部覆ってたからね……』『ハンデありのはづきっちを凌駕するか』『いやいや、どう考えてもはづきっちがおかしいからw』
こうして久々VR配信は終わったのだった。
何事もなくて本当に良かった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます