第175話 久々VRはどんぶり天国伝説

「お前ら、こんきらー! 今日はですねー。久しぶりにVRしてみようと思います。残念ながら、食べ物を口に入れてくれるビクトリアはもみじちゃんとコラボしてていないんで、今日はセルフで……」


※『こんきら!』『こんきらー』『概要説明した直後からスナックを食べる音がするw』『VRの風景と現実のはづきっちの二窓配信かあ』『すげえ、どういう技術なんだw』


「なんかうちのAフォンが新しいことできるようになったんですよ。便利ー。同接数が多いと、Aフォンが進化するみたいで……。あ、ロビーに到着でーす」


 私は新しい丼のアバターを被りながら、621ロビーに降り立った。

 するとそこは……。


「ななななな、なんじゃこりゃー!」


 見渡す限りの丼、丼、丼!

 マグロ丼、漬け丼、海鮮丼、牛カツ丼、カレー丼、親子丼……。

 ものっすごい数の丼が、ロビーにはひしめいていたのだ。


 私が丼になって現れたら、当然のようにその中に埋もれてしまう……。


※『そっか、はづきっちはずっとVRに潜ってなかったから知らないんだ』『丼アバターがブームなのよ』『各メーカーがこぞって丼モデルを出してる』


 どういうことなの。


※たこやき『はづきっちが流行を作り出したからね』もんじゃ『いいカモフラージュになるんじゃないか?』おこのみ『丼はこう、リビドーを感じない……』いももち『私はどんなはづきちゃんも大好き』


 いつもの人たちも新年から元気だなあ。

 たこやきはメールで年賀状も送ってきたし。

 丼と豚耳SDはづきの年賀状だった。


「そうなんですねー。じゃあ、私が離れてたしばらくの間で何があったか聞いて回りますー」


※『人見知りのはづきっちが聞き込みを!?』『大丈夫なのかw』


「自分も相手も丼だと不思議と緊張しないんですよね!」


※『確かにw』『人間に見えないもんな』『食べ物は得意だもんねw』


「あのー」


 近くにいた漬け丼に話しかけてみた。


『はいはい、なんだい』


「実は久しぶりにロビーに来たんですけど、最近変わったこととか起きてないですか」


『変わったことねえ……。あ、知ってると思うけどフリースペースが異世界と繋がっちゃってね、沢山の人がさらわれたんだ』


「知ってます知ってます」


 なんなら解決したのは私だ。


『そっかー。あれ以降、ダンジョン化は大人しくなってね。大罪勢っていうのも静かにしてたみたいなんだよね。クリスマスに嫉妬勢が大騒ぎを起こすってみんな警戒してたけど、はづきっちが大暴れしたからあちらさんもびっくりして引っ込んだんじゃないかって言われてるよ。ほんとすごいよねー』


「スゴイデスヨネー」


※『棒読みで草』『本人だって気付かれてないw』


『えっ、はづきっち本人!?』


 い、いかーん!!

 私の横にコメント欄が出現してるんだった!

 これは仕様上、配信中は消えません。


 私がきら星はづきであることが判明してしまい、周囲からわらわらと丼が集まってきた。

 あひー、ピーンチ!


 ……と思ったら、どうやら動くコメント欄もアバターとセットで売ってたらしくて、私そっくりのコメント欄付き丼がひしめき合う状態になった。

 また埋もれて分からなくなる私なのだ。


 大変活動しやすくなった。


※『ブームというのは恐ろしいな……』『とは言っても丼は全体の三割くらいだろう?』『三割が丼ならそれはもう異様な光景なのよw』


 丼がわあわあ喋り始めて、ロビーは収集がつかなくなった。

 誰がきら星はづきなのか分からなくなったのだ。

 しめしめ。


 私はこの状況を利用して、情報収集を再開した。

 ネットで噂を集めてもいいんだけど、こういうのはやっぱり足を使わなきゃね。


 夏休みにあちこち遠出してダンジョンアタックしたの、いい経験だもの。


『今年になってからはまたあちこちでダンジョンが出現し始めてるね』


「ほとぼりが冷めたからですかね」


『どうなんだろう……。デーモンが考えることは分からないなあ』


 年明けから、ダンジョン発生が再開したらしい。


『VRスペースの拡張が上手く行ってないんだよ。ベースのプログラムを走らせてからその上に構築してくんだけど、ベースが根付かない。不自然な動きで消えてしまうんだ』


「はあはあ」


 よく分からない。

 ビジュアル的には、フリースペースを拡張する感じらしい。

 プログラムは、インターネットの海に突き刺さる土台の柱。

 これが上手く完成しなくなってるらしい。


 どういうことだろう?

 そう言えば以前、フリースペースの外から視線を感じたような……。


「ちょっと栄養補給します」


※『バリボリ言ってる』『たくさんお食べ』『見えてないのに器用に食べるなあ……』『嗅覚で場所が分かるんじゃないか』『お茶もこぼさずにちゃんと飲んでるw』


 塩分と糖分が体の中を巡る~。

 ああ、食べ終わってしまった。


「元気が出てきたので、フリースペース行きましょう」


 フリースペースだと流石に丼は目立つのではと思ったけど……。

 なんとここは、ロビー以上の丼天国だった。


 見渡す限りの丼、丼、丼。


※『冬休みの終わりで学生さんが多いだろ? 子どもはみんなはづきっちのマネするから丼なんだよ』


「な、なるほどぉ~。丼がそれほどのブームになっていたとは……」


 私は丼の海をトコトコと歩き回る。


『ぐおおお、どこもかしこも丼ばかりではないか』


 困った顔をして彷徨ってる、悪魔っぽいアバターの人を見かけた。


『これではきら星はづきを見つけられない。レヴィアタン様、これは無理です、無理無理』


 なんかぶつぶつ言ってる。

 大変だなあ。


 私は他人事ながら同情しつつ、彼の横をスーッと通過したのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る