第174話 ビクトリアの大学見学伝説

 冬休みは短い。

 ビクトリアとシカコ氏を誘い、あちこちの福袋をゲットしたり見て回ったりなどしていたらすぐ終わってしまった。

 なお、この様子は後からバーチャライズ処理を行って、三人コラボ配信で三日間に渡ってお届けした。


 大変好評だった!


 ついでに、福袋争奪戦で生まれた負のオーラから家電量販店の一部フロアがダンジョン化したので、三人でサクッと攻略した。

 発生して数分で収まったのだ。


「リーダーの名声が高まる……」


「先輩流石過ぎるー。福袋の権化みたいなデーモンを福袋を傷つけないようにして倒したもんねー」


「福袋はほら、みんなの夢が詰まってるから……」


 ということで、新年早々のダンジョン配信もバズり、イカルガエンターテイメントはいい感じの船出となった。

 そう言えばもみじちゃんも、年越しイベントで私とデュエットした姿が受けて、登録者が増えたらしい。


「うちの登録者、今13万人になったんですよ! もっともっとがんばりまっす!」


 あと7万人だもんねえ。

 しかし、もみじちゃんがデビューさせたがっている新人とは何者なんだろう……?

 既に兄は顔合わせを済ませていると言っていたけど……。


 全ては謎に包まれている。


 そんな中、ついに冬休み終わりの日がやって来た。

 この日はビクトリアが留学予定の大学がオープンキャンパスをやっている。


 私は保護者としてビクトリアについていくのだ……。


「あなたビクトリアちゃんより二つ年下なのに保護者なのねえ」


 なんか母に突っ込まれてしまった。

 こういうのは心意気なので年齢は関係ないと思います!


 こうしてビクトリアとともに電車に乗り込む私なのだった。

 下り電車でちょっと行くと駅に到着。


 電車を降りて、道を歩く。

 大きな通りに木がたくさん植えてあって、落ち着いた雰囲気のところだ。


「ビクトリア大丈夫? 一人で通学できる?」


「が、がんばるわリーダー。みんながくれた機会だもの。私だってやれるところを見せるから」


「よーし、頑張ろう!」


 すぐに大学が見えてきた。

 こんな街中にあるのに結構大きい。

 林みたいなのに囲まれてて、一見すると外から学舎は見えないのね。


「ジャパンの大学はあんまり大きくないから可愛いね」


「えっ、大きくない!?」


 アメリカは何もかもスケールが大きいなあ。

 入り口で守衛さんにオープンキャンパス参加だということを告げて名前などを書く。

 おお、ビクトリア、日本語を書くのが上手くなっている。

 多分そこは英語でもいいと思うんだけど。


 ちょっと古びた感じの校舎を見て回る。

 ビクトリアは。


「ラノベの中に出てくる世界みたい! クラシックな建物好き!」とかウキウキ。

 私はもうちょっと新しい建物でもいいのでは? みたいなことを考えていた。


 それからそれから、オープンキャンパスなので講義にも参加していくのだ。

 大学生の人たちが案内を担当してて、色々教えてもらって講義室へ。


 ビクトリアが目をキラキラさせて講義を聞いている。

 私はキョロキョロしている。


 おお、意外と留学生っぽい人も多いし、あとはおじさんおばさんたちだ。

 オープンキャンパスは不思議な世界だなあ。


 普段教室で見かけない人たちばかり。


「リーダーはまだ勉強してないような内容だと思ったけど、分かった?」


「普通に分かったー。学食行こう学食」


「リーダー、頭はいいのにあんまりやる気がないんだよねー」


 そんな話をしつつ、ちょっと古めかしい学食へ。

 チキンソテー定食をご飯大盛りで食べて、小鉢で唐揚げを付けた。

 ビクトリアはラーメン。


「ビクトリアお箸上手くなったねー」


「練習したもの。ジャパンに来たらジャパンの食べ方をマスターするわ。アニメだってチョップスティック使ってたでしょう?」


 ずるるーっとラーメンをすするビクトリア。

 すする技をマスターしたか……。


 すると、そこに他の留学生らしい人が声を掛けてくる。

 明らかに日本人ではないのにお箸でラーメンを食べて、しかも麺を見事にすする姿に感銘を受けたらしい。


 インドの人だった。

 彼女を交えて三人でお喋りなどをする。


「インドでは今、大変です。強欲のシン・シリーズが暴れてます。あるとき強欲が急に弱くなって、私、その隙を見てこっちに来ました」


「ほえーそんなことが」


 強欲がいきなり弱くなった時ってなんだろう?

 どうやら12月に入ってかららしいけど。


 インドの人の話では、どこかに力を吸い取られたみたいだったそうだ。

 ちょうど強欲の大罪攻略に、インドのトップ配信者が挑んでいる最中だったという。

 結局強欲は逃げてしまって、倒せなかったらしいけど……。


「あれからあんまり、ダンジョンが生まれてません」


「ほへー不思議」


「アメリカも色欲がスレイされてから、凶悪なモンスターやダンジョンは減ったわよ」


 大罪勢がやられると平和になるのね。

 うちも憤怒のナカバヤシさんが倒れたらちょっとの間平和になったし。


「不思議なこともあるものだねー」


 私がひょいぱく、ひょいぱく、と唐揚げを片付けていると、隣から大変いい匂いが。

 インドの人がカレーライスを食べてる。


「あっ、カレー食べるんですか」


「ニッポンのカレー大好きです。甘くて食べやすい。ライスはまだちょっと慣れないけど」


「私もカレー好きだわ。ジャパンだとフライを乗せてカスタムするのよね」


 おっ、ビクトリアとインドの人が盛り上がり始めた。

 私は新たな交友が生まれたことを確信しながら、定食を平らげるのだった。


 二人は後に連絡先を交換することになったらしい。

 インドの人は別のキャンパスにある、留学生用の寮に住んでいた。

 今度遊びに来て、とビクトリアにお話をしていたのだった。


「ビクトリア、友達ができたねー」


「うん、初日から信じられない……。夢みたいだわ!」


 帰りの彼女はふわふわしていて、とても嬉しそうだった。

 私は後方師匠面でうんうん頷いていたのだが、最後にビクトリアが……。


「でも彼女、多分リーダーのことを同級生だと思ったわよ? 春になったら絶対、彼女びっくりすると思うわ!」


「確かにー。じゃあうちに連れてきてください……」


「オッケー!」


 ということになったのだった。

 うんうん、私たち陰キャも二人いれば強いのだ!


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