第136話 私って癒やし枠!?伝説

 0ナンバーの人たちが歌うとコメントに喝采が溢れ、私が歌うと……。


※『かわいい』『かわいい』『がんばれー』『娘の歌の発表会を見てるようだ』『どこでも聞いたことがない歌声』『誰にも似てないw』


 な、な、な、なんじゃそりゃー!

 どうも私は癒やし枠扱いされているようだった。

 あるいは珍獣のたぐいか!


 おかしい……。

 歌はシカコ氏と風街さんに付き合ってもらってかなり鍛えたのに。

 3日も歌い込んだのに。


「はづきさんは独特の歌声に磨きが掛かってきてるわね。唯一無二だわー」


 風街さんがとても感心している。

 う、嬉しくない感心~。


 私としては、普通にウタウマな人になりたいのだが。


「いいと思うねぇ~。みこにもそんな時代があったよ。ま、みこはエリィトだからあっという間にアイドルになっちゃったけどねえ」


「ほんとぉ?」


 はるのみこさんがDIzさんに言われて、ムキー!とか怒った。

 おお、なんかふにゃっとした喋り方とか親近感を感じる……!


「はづきちゃん、がんばるんだよー! みこは応援してるからねえ!」


「は、はい! 私も頑張ってみなさんみたいにかっこよく歌えるようになります!」


「人には向き不向きもあるけどねぇ……」


「は、ハシゴを外してきた!」


 私とはるのみこさんのやり取りで、コメントが大いに盛り上がった。

 こうしてカラオケ配信は終わり……。


 私はトップ配信者との(歌唱力という)圧倒的実力差を見せつけられたのだった。

 あひー、道は遠く険しい……。


 そもそも自分が歌うという発想がなかった私は、ヒトカラに行ったりもしなかったからな……。

 お風呂で好きなアニメの歌を歌うくらいだった。


 こ、今後は鍛えていかなくちゃ。

 決意を新たにして、0ナンバーの人たちとの夕食を終えた。

 圧倒的実力者なのにみんないい人だった……。


 なお、シカコ氏はずっとお人形さんのようだった。

 せっかく気合を入れておめかしして来たのに……!


「ううううう、はづき先輩、うちは悔しい! 悔しいです……!」


 ダーッと泣きながら抱きついてくるシカコ氏。


「おおよしよし。緊張でカチコチになって全然喋れなかったんだねえ……」


「ううううう、有名人に弱い……。憧れが眼の前に出現すると何も喋れなくなりますー。なんではづき先輩はできるんですかあ」


「私は配信者業界のことをさっぱり分からないので……。何も分からない。私は雰囲気で配信者をやってる」


「し、知らないが故だった! それにもうはづき先輩もあの方々と並ぶ業界のトップランナーですもんねー」


「わ、私がトップランナー!?」


「あっ、衝撃を受けてる! 自覚なかったんだ!」


 兄に連絡を入れてから、シカコ氏を家に送り、私も帰途についた。

 そしてお風呂の後でちょっとだけ雑談配信を開始する。


「お前ら、こんきらー!」


※『こんきらー』『こんきらー!』『!?』『パジャマはづきっちじゃん!』『寝る前配信助かる』『カラオケコラボでも超可愛かったがこっちもかわいい』


「あっ、パジャマのままだった……」


 私のパジャマは、母が買ってくるピンク色でフリフリがついたゆったり気味のやつだ。

 体が締め付けられなくて大変いい。

 いつも快眠なのだ。

 アメリカでも大いにお世話になった。


「そ、そんなことより! 今日は風街さんやライブダンジョンの0ナンバーの人たちとカラオケコラボしたんだけど」


※『見た見た』『あのメンツの中で堂々と歌うはづきっちの凄みよ』『歌声良かったなあ』『ちょっぴりずつ上手くなってる』


「えっ、上手くなってる!? ほんと? ぐふふふふふ、私もやるなあ……」


※『笑い声w』『そもそも本題なんだよw』『まーた話題が逸れておられる』


「あ、そうそう! あのね。やっぱりベテランの人たちは上手かった。それでかっこよかった。私もああなりたい! ということで、どうしたらああなれるかお前らの集合知を借りたい……」


※『あっ』『無理せんでええで』『人には人の生き方がある……』


 お、お前ら~!

 はるのみこさんと同じようなことを言う。


 やはり険しい道なのか……!


※たこやき『はづきっちの声や仕草は唯一無二だからな。矯正する必要は無いと思う』いももち『そのままのはづきちゃんでいて~!』『独自進化していくから、型にはめる必要はないよな』


 な、なるほどー。


※『環境の変化で、人間は勝手に変化していくからね』『例えばはづきっちももうデビュー半年だし、後輩配信者も出てくるから先輩になって色々成長するかも』


「後輩かあ。確かになんかちょっと変わってきた感じはあるねー」


※『ヌッ!』『今何か情報おもらししなかったか!?』『外部の後輩配信者の話じゃなくなかった?』


「し、しまった!!」


※『しまったって言ったw』『バレバレですがなw』


 兄からもザッコで連絡が来た。

 その話はもうやめろとのことだ。

 あひー、すみませーん!


「話を変えます……。もうそろそろハロウィンだけど」


※『剛腕で話題を変えに来たぞ』『ハロウィンかあ』『あちこちに変なダンジョンが出現する日だろ』『はづきっちもダンジョン仮装配信するの?』


「するかも……。アバターを調整してバーチャライズに被せればいいから、簡単なのだったらすぐ……。何か希望あります? あ、じゃあ後日みんなの希望を聞く配信します! アイデアを練っておいてね」


※『うおおおおお』『バニーバニーバニー! 下はエッチなの!』おこのみ『エッチなメイドさんもいいぞ!!』『スク水!!』『体操服!』


「コスプレじゃないぞ!?」


 一気に盛り上がってきたコメントに、私は慌ててツッコミを入れたのだった。


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