第135話 カラオケコラボ伝説
「はづき先輩。ドリンク持ちました? のど飴は? 喉にシュッとするスプレーは? よし!」
シカコ氏に持ち物チェックをしてもらい、臨時マネージャーとしての彼女を引き連れて、ライブダンジョン本社に到着なのだ。
風街さんは迎えを出すと言ってたけど、全部やってもらうのも悪いので……。
電車で来た!
あらかじめ送られてきていた入館証を差し出すと、受付の人が「あっ」という顔になった。
それまで、なんで女子高生が二人やって来たんだ、みたいな顔をしてたのに凄くリスペクトを感じる目線になる。
「あなたがあの噂の……。ジャンボジェットでダンジョンを粉砕するアーカイブ見ました!」
「あひー! 個人特定されるような話やめてください~!」
「はひ! やっぱりはづき先輩はすごいー」
シカコ氏まで持ち上げてくるし。
こ、こんな受付にいられるか。
私はエレベーターに乗り込むぞ。
ということで、エレベーターで本社のあるフロアへ。
ビルの幾つかの階を使っているみたいで、ライブダンジョン本社は広いのだ。
この中に収録スタジオも幾つかあるらしい。
今回は一番小さいスタジオを使わせてもらうことになっていた。
エレベーターから出ると、古い固定電話みたいなのがあった。
恐る恐る取り上げる。
「あ、きら星はづきです……。来ました……。風街さんによろしくお願いします……」
受話器を置いて振り返ったら、シカコ氏がガチガチになっていた。
「う、う、うち緊張してきました……! ラ、ラ、ライブダンジョン本社って。所属する配信者の大多数が50万人以上の登録者数の業界トップ配信企業……。そ、そんなところについこの間までただのファンだったうちが……」
「誰かが私よりも緊張してると、なんか安心するなあ」
兄がシカコ氏をつけてくれたのは正解だったかも。
なお、私にもシカコ氏にも、近々専用のマネージャーがつくことになるみたいだ。
シカコ氏のマネージャーはビクトリア担当も兼任するとか。
どんどん大きくなる、イカルガエンターテイメント。
なお、入社したはずのたこやきはリモートなので一度も出社してこない模様。
「来た来た。はづきさーん」
「えっ、彼女がきら星はづきちゃんなんだ!? むっふー、エリートの香りを感じるにぇ」
「うっわ、本当に若い! かわいー!」
「隣に小さい子が……」
「さては……」
「察し」
う、うわーっ!!
たくさん女性の方が出てきて私とシカコ氏を取り囲んでしまった!
ま、まさかこの人たち全員が……。
「紹介するわね」
風街さんがさらりとその場にいる全員の紹介をしてくれる。
ちょっと舌っ足らずな人が、はるのみこさん。
一見して落ち着いた女性だけど、私を可愛い可愛い言って撫でてくるのがコスモちゃんさん。
ぽわーんとした目でシカコ氏を見極めているのが、サイ子さん。
そしておっとりした感じの人がDIzさん。
「はえー」
ポカーンとする私の横で、シカコ氏がガクガク震えた。
「ぜ、ゼロナンバー勢ぞろい!! それぞれが外部で活動していたけれどライブダンジョンに所属することになり、何期という扱いから外れた強力な配信者の方々ー! その中でもコスモちゃんはライブダンジョンが今の姿になる前から活動を続けていた一番最初のお人ー! ライブダンジョンの始まりとも言える二人目の配信者、サイ子さんも! これは大変なことですよはづき先輩ー!」
詳しい解説助かるー。
そしてシカコ氏が私にすがりついてくる。
「た、大変なんだ!?」
「大変ですー。うち、足腰が立たなくなりそう……!!」
「いけない、生まれたての子鹿みたいになってる」
私の言葉に、ゼロナンバーの五人はドッと沸いた。
な、何か面白いことを言ってしまったのだろうか……!?
「ということで……本来は私とはづきさんの二人でカラオケだったんだけど、みんなはづきさんに会いたいって出てきちゃって」
「「「「よろしくねー」」」」
「あっ、はい、こちらこそ……!!」
とんでもないことになってきた。
こじんまりしたスタジオに、私たちとスタッフさんが入り、機材も入って凄い人口密度だ!
収録ルームは六人だけだから、まだマシだけど。
おお、機材ルームにいるシカコ氏がホッとした顔だ。
緊張から解放されたらしい。
「それじゃあ、カラオケ生配信行ってみよう!」
風街さんの宣言とともに、配信が始まった。
彼女のチャンネルでの配信になるんだけど……。
同接数が凄いことになっている。
そりゃあまあ、ゼロナンバーが集まってるもんねえ。
※『ゼロナンバー集結だけじゃなく、きら星はづきがゲスト出演!?』『凄い、豪華!!』『楽しみー!!』
私に注目が集まっている……!?
「あ、あまり期待しないでください……! あ、こんきらー。そろそろ新人ではない冒険配信者のきら星はづきです~」
※『謙虚~』『あれだけスケールが大きいことやったのにw』『人気の理由が分かるわ』
なんだなんだ!?
やたら褒めてくるぞ。
お前らと違う……。これは姫プレイで私を調子に乗らせる罠では……?
「じゃあはづきさんが猜疑心に満ちた目になったところで、カラオケを……」
「一番、コスモ。歌いまーす!」
あーっ。
なし崩し的に始まってしまったー!
手渡されたセトリは0ナンバーの人たちが加わったことでめっちゃ増えてる。
こ、これは二時間半くらいの配信になるのでは……!?
45分くらいで終わると思ってたのにっ。
そして。
三時間くらい配信することになったのだった。
0ナンバーの人たち、本当にみんな上手い。
この中で、素人カラオケの私が混じるのがどういうことか!
こ、公開処刑~。
「他に無い独特の歌声ね……。好きかも」
なんか風街さんがつぶやき、他のみなさんが頷いた。
コメントにも同意が流れる。
フォローが優しい……!!
「ふ、ふふふ、わた、私のメインステージはダンジョン配信なので……」
私がちょっと負け惜しみみたいなことを言ったら、この場の人たちどころかコメント欄までみんな真顔みたいになって、『それはそう』と言ってくるのだった。
あれっ……!?
ここは笑って流すところでは……!?
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