第347話 私のオリ曲だと……!?伝説
「はづきちゃん! ボイトレの先生を連れてきたよ」
「あっ、はづきさんお久しぶりです! ご活躍はかねがね……」
やってきた女性は、もみじちゃんと一緒に最初にボイトレ行った時の先生だ!
イカルガの配信者の担当をしてくださってるそう。
あれで縁が繋がったんだなあ。
「どうもどうも……。お手柔らかにお願いします」
「はい、よろしくお願いします。配信を拝見してますと、はづきさんは結構声は出ているようですし、途中で息切れする様子もありませんね。お腹から声が出ています」
いきなり私の配信のアーカイブを使いながらボイトレの練習が始まったのだ!
な、なるほどー。
喉で叫ばないタイプの発声が私はもうできていると。
「はづきさんがあまり長時間の配信をしないからというのもあるかも知れませんが、それでも一度も声が乱れたこともないですし、咳をしたりもしないですよね」
「はっ、途中途中で水を飲んだりしてるので」
「結構すごい声を出したりしてますけど、それでも平気なんです?」
「すごい声……?」
無意識だから何も覚えていない……。
「これはナチュラルに喉が強い」
先生はそういう判断に達したみたいだった。
「では、あとは歌を歌う時にもっと声が伸びるような発声を覚えていきましょう。はづきさん、高音と低音で声が揺れるので」
「高すぎたり低すぎたりで訳わかんなくなります」
「声は可愛いんですけどねー」
ということで。
色々教えていただくことになった。
基本、特徴的な声の配信者はそれが個性なので、一般的な発声練習でこれを潰してしまってはよろしくない。
個性を活かしながら、それを歌に乗せていく感じなんだって。
ベルっちはこう言う時は都合よく隠れるので、私の中から出てこない。
おのれー悪魔め根性なしめー。
こう言う時は代わってくれー。
だがベルっちはうんともすんとも言わなかったので、私はひいひい言いながらボイトレを終えたのだった。
こういうのが週イチである。
それから、私に歌わせるプロジェクトは本格的にもりもり進んでいたようで、インペリアルレコードさんからも担当の人がついた。
あの時、部長さんの後ろにいた女の人だ。
髪をシニヨンにしている、一見するとシュッとした美人さんで、近寄るとシュッとしているというかなんかデカいことが分かる。
「ひょえー、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますー!! はづきちゃんの担当になれるなんて光栄です!!」
後ろにいた男女二人とも長身だったんだなあ!
彼女、学生時代にバレーをやってたらしく、身長が180センチくらいある。
はぎゅうちゃんより大きいー!
フル武装モードのバングラッド氏よりは全然小さいけど。
なお、友達の間ではノリマキさんと呼ばれてるそうで、これは部活動時代に海苔巻きのおモチとかをよくお弁当で持ってきていたかららしい。
私もノリマキさんと呼ばせてもらうことになった。
「もうはづきちゃんの曲が出来ていてですね!」
「あひー! はやいはやい」
『もうあの時には計画が動き始めていたとしか思えない』
今になって出てきたなベルっちー!!
『あひー、な、何をするはづきー!』
ベルッチをお腹の肉をつまむ刑に処した。
我ながら、むぎゅっとつまめるなあ……。
このギリギリのバランスを崩したら、むっちりがぽっちゃりになるであろう。
「あのあの、私もちょっとつまませてもらっても?」
「どうぞどうぞ」
『あひー』
ということで、ノリマキさんの緊張もほぐれたところで曲を聞いてみることになった。
彼女の社用スマホに入っているので、これをベルっちと左右のイヤホンを使い分けながら聞いてみる。
マンガとかアニメでよくあるあれだ!
まあ、ブルートゥースイヤホンだからそこまでの風情はないんだけど。
「は、はづきちゃんが使ったイヤホン……。あとで使おうっと」
ノリマキさんの目の輝きが怪しい!!
で、流れてきた曲なんだけど。
前奏なしで、いきなりサビの前半分みたいなアップテンポなのがどーんと来て。
そこからテンポはいいけどあまりアップダウンがない感じの流れ。
で、サビに行く前に転調して、あひー! とか入った。
「私の悲鳴がサンプリングされてる!!」
『上手く使うもんだねー』
私同士で感心していると、そこからサビだ。
仮歌の人、うまいなー。
歌自体はそんなに難しくなさそう。
何回か聞いたら歌えそうね。
「ズバリ、平成のアイドルデュオの歌をモチーフにしてます。そこに前奏無しでいきなり始まる令和ソングをミックス! 作詞作曲の先生ははづきちゃんの大ファンなんですよ。このために、アーカイブをずっと見返してたそうなんで。あ、これはちなみに一年目夏までのはづきちゃん編だそうです。だから歌詞もダンジョンハザードまでになっていて」
めっちゃ語るぅー!
それに、これはつまり、私にたくさん歌わせようというインペリアルレコードさんの野望があからさまに!
「な、長い付き合いになりそうですね」
『よ、よろしくお願いします』
「こちらこそ!! PVはアバターのデータを使わせてもらって、ちょっとおしゃれに可愛く動くはづきちゃんのを作っていますから。あとは歌を被せるだけです!」
「『動きが早い!!』」
これはとんでもないことですぞ。
兄め、私に大感謝祭のメインステージでこれを歌って踊らせるつもりだな……!?
なお、このやり取りは会社中に流れていて、みんな大盛りあがりだったそうだ。
なんたることー!
そうして始まる、ダンスとボイトレ、歌い込み、学校では受験勉強、日常ではちょっとした配信。
忙しい忙しい。
ダンスとボイトレを私に任せるなら、配信は頼むぞベルっち……!!
『任せろー』
こういうところは頼れる魔王が、いつもの私のノリであちこちのダンジョンに突撃、企業案件をこなしながら配信をしてくれる。
助かるー。
私はオリジナル曲に合わせたダンスを練習……。
ぐおおお、難しい。
省エネな動きが許されない。
……はっ!?
つまりこれは……いいダイエットになるのでは?
やるかあ。
ちょっとやる気になった私は、頑張った。
夜になって帰宅すると、既に自宅にいるベルっちと合体して記憶と経験を統合!
うん、便利便利。
「ベルっち。明日は私が配信してベルっちがダンスと歌練習に行かないかね……」
『い、いやだあー』
「いやだいやだでは通らないよ! 最初はグー!」
『あひー』
慌ててグーを出してきたベルっちに、私はパーを出した。
勝ちである……。
「よろしく」
『あひー、オニ、あくまー!』
「むふふ、なんとでもいいたまえ」
「リーダーは二人いても本当にリーダーのままねえ」
ビクトリアがしみじみと呟くのだった。
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