第400話 大魔将一族、驚嘆する伝説

 イベントとやらが始まった。

 大魔将の一族は思う。

 魔王殿からの侵略を受けているのに、この世界の住人たちはどうしてこんなに呑気なことをしていられるのか?


 イベントとやらは何かの戦力を鍛える効果などは無いようにしか見えない。

 それとも、強い戦力を集めているのか?

 いや、リハーサルとやらを見たが、地の大魔将一族には普通に歌って踊ってわあわあ騒いでいるだけにしか見えなかった。


『なんぞ、これは……?』『明らかに遊んでいるだけでは?』『遊びにここまで真剣になるとは……!!』『これほど全力で遊びに挑む人類だぞ。油断できぬ……!!』


 これには、一族の中央に座す大魔将も頭を抱える。


『知らぬ世界だ……。彼らを観察するために孫を行かせたが、正解だった。これは……魔王殿の予測すら覆すとんでもない世界だぞ……』


「お祖父様、このまま見ていてよろしいのですか?」


『うむ、観察を続けよ。このこなれたイベントとやら、明らかに初めてではない……。何度もこのようなことが開催されているのだろう』


「お祖父様、なんなら以前のスーパースタンピードの時にもイベントの真っ最中で、その副次効果で……」


『副次効果でわしがやられたの!?』


『えっ!?』『眷属の力を使っていないとは言え、現地に召喚されたモンスターを徹底強化したというのに……』『確かに、あの妙な音が流れ始める前までは我らが圧倒していた……』


 その通りだ。

 あれは完全に、他の世界を制圧した流れのままだった。


 その世界の戦士たちが対応しきれぬほどの数で飽和攻撃を仕掛ける。

 これによって戦士たちの防衛網を押し切り、銃後の民間人を襲う。


 民間人さえいなくなれば、その戦争を継続することはできない。


『わしらの世界のルールを押し付けた。奴らの世界を否定し、魔法が支配する世界に変えつつある。忌まわしき火の輩じゃが、あれが行ったダメ押しは決定的なはずであった……。だが……火の輩の気配がもう無い。何者かが世界の外まで飛び出していって、あれを滅ぼしたというのか? 存在するだけで他の世界を滅ぼす怪物を』


『あっ、頭領! イベントとやらで歌が始まります!』『なんだかこう、腹の奥がざわざわしてくるな』『力が抜けていく……』


「わらわはなんだか力が漲ってくる気がするのですが」


 ステージ上では、四人の冒険配信者が歌って踊っている。

 そこに、スファトリーの師となった女が加わる。


 その瞬間、地の大魔将一族が受けるプレッシャーが増大した。


『ぐおおおおお!!』『動けぬ!』『な、なんだこれは……!』『まずいまずいまずい』『こんなものを流されて戦えるか!?』『これか! これがスタンピードを止めた歌か!!』


『ぬう……。恐るべき力よな』


 地の大魔将本人は、さすがにデバフが通用しない。

 だが、周囲の眷属が苦しんでいる様を見て、これは不味いなと呻くのだった。


『火の輩と違い、本来の戦は一人でやるものではない。わしらは数をこそ頼みとする。だが、これはその天敵と言えよう。恐るべき戦士がおるものよ……! 孫が伝えてくれた、きら星はづきとか言う……』


 その名を口にした瞬間、大魔将周辺の空間に波紋が生まれた気がした。


『いかん! この名を口にするな! 認識した段階でやつの影響下に置かれるぞ!!』


 地の大魔将はすぐに気づいた。

 スファトリーに教えを授けているあの女、その名を呼んではいけない部類だ。

 本来なら、この流れてきている歌を耳にし続けることも良くはない。


 だが……地の大魔将は疑問を抱いていた。


『スファトリー、そなた……。あの歌を聞いて力が漲ると言っていたな?』


「はい。わらわには不快なものには思えぬのですが」


『聞く者の立場に寄って、毒にもなり薬にもなるというのか……? それはつまり……我ら神の如き所業ではないか』


 大魔将とは。

 それぞれが、強大な権能を持つ神である。

 己の世界を失った彼らは、己の世界を獲るために魔王とともに征き、様々な世界を征服して己のためのものに作り変える。

 だが、それは理想とする世界にはならない。


 環境であったり、気候であったり。

 戦いによって世界そのものの寿命が尽きてしまったりもする。

 故に、彼らは戦い続けているのだ。


『……この世界は外れだ。とびきりの外れだ。大魔将の三柱が滅ぼされる世界など前代未聞ぞ……? 世界の強度が高すぎるのか? いや、あやつらは皆、世界を破壊して作り変える一歩手前まで行っていた。最後の一手を打つ時に何かがあって、一瞬で巻き返されて滅ぼされた』


 画面の向こうでは歌が終わっている。

 またミニゲームが始まった。


 大魔将の一族は、すっかりゲームのルールを理解してわいわいと楽しんでいる。

 さきほどまで、きら星はづきの歌で苦しんでいた様子など欠片もない。


『まさか、我が一族をも取り込み始めているのではあるまいな……? まずい。これはまずいぞ……。だが、全てはわしの想像に過ぎん。スファトリー、引き続き情報を集めよ』


「はい、お祖父様!」


 いいお返事だった。

 そして孫の横にきら星はづきが来て、


「スファトリーさんは来月にはデビューしなくちゃねえ」


 などとニコニコしながら言うのだ。

 この女、孫娘をどこに連れて行く気なのだ……!?

 戦慄する大魔将なのだった。


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