第399話 イベントリハーサル、謎の新人見学伝説

「おや? ママ、その娘は一体?」


 フォーガイズさんのイベント前日。

 リハのためにやって来た私は、後ろにスファトリーさんを連れていたのだった。

 彼女、後学のために色々学びたいと言うので、異世界の方は勤勉だなあと私はちょっと感動したのだった。


 で、連れてきました。


「あのですね、この間から弟子にしているスファトリーさんです。異世界の人で。チャラウェイさんにはザッコで送ったんですけど」


「ウェイ! 届いてるよー! あ、スレイヤーVに共有できてなかったっけ?」


「あ、いや、子どもの授業参観があってな……。忙しくてザッコに目を通してなかった」


 お父さんもやってるスレイヤーVさん、大忙しなのだ。


「よ、よろしくお願いします」


 スファトリーさんがペコリと頭を下げたので、みんな「あっ、ちゃんとした子だ」という空気になった。

 挨拶は大事……!!


「なるほど、はづきちゃんの新しい弟子なんだね? いいことだ。君は君という配信者の遺伝子を多く残しておかねばならない。これは優れたものの義務だと思うね。ちなみに僕は弟子はいません」


「おいぃ!」


 なんか言って突っ込みを食らってる八咫烏さん。

 バーチャライズ前もスラッとしたイケメンなんだけど、チャラウェイさんもストリート系のまあイケメンな人なんで、変身後の二人の姿のギャップが面白いんだよね。


 で、事前にフォーガイズを予習してきたスファトリーさん。

 最後の一人を探す。

 スパイスちゃんだね。


「一人だけ小柄な女の子がいたと思うのじゃが……」


「あっ、誰誰~? 新人さん?」


 ガタイのいい男の人がパタパタ走ってきた。


「あっ、スパイスちゃんどうもどうもー」


「やっほーはづきちゃん! イベントはよろしくお願いします」


「えっ!?」


 私とスパイスちゃんのやり取りを聞いて、スファトリーさんが目を見開いた。


「は、は、はづきさん。今、一体何を言っていたのじゃ……?」


「この人が黒胡椒スパイスちゃん」


「どうもー! スパイスでーす!」


「こ、この人が!? 全然配信時と姿が違うのじゃが!?」


「それはスファトリーさんもでしょ? 私が作ったマスコットキャラ系配信者としてデビューする予定なんだし」


「な、なるほど……。どうしてマスコットキャラなのか疑問だったが、眼の前にその実例を出されては……」


 ご納得いただけたでしょうか。

 そして今回のイベントのプロデューサーの人がやって来て、挨拶してきた。


「どうもー。担当させていただきます! では皆さんバーチャライズして通しでやってみましょう」


 スファトリーさんはパイプ椅子を用意してもらい、ここにちょこんと腰掛けて見学することになる。

 いきなりイレギュラーな現場だけど、冒険配信者という仕事の奥深さをたくさん知ってほしい……!!


 スファトリーさん、不安そうな顔をしている気がするがきっと気のせいでしょう……。

 チャラウェイさんの助手をしてるドワーフに話しかけて、なんか色々説明してもらってる。


「チャラウェイさんドワーフの人雇ったの?」


「おう! めっちゃスケジューリングが得意な人がいてさ! 俺のスタッフになってもらったんだ」


 ウィンウィンの関係が生まれつつある。

 さて、バーチャライズすると、私たちの姿がガラリと変わる。


 一番体格が大きい大京さんがスラリとしたナチュラル系マッチョのスレイヤーVになり、チャラウェイさんが一回り大きなモヒカン棘付き肩パットのヒャッハーになり、八咫烏さんがシルエットはそのままに黒いコートを纏った厨の香りを漂わせる美形に。

 そしてスパイスちゃんがローティーンくらいのカワイイ女の子になった。


「ち、縮んだ!!」


 スファトリーさんが思わず立ち上がって突っ込みを入れる。

 慣れていただきたい。


「一番変化が少ないのははづきさんでは」


 そう!?

 八咫烏さんも結構まんまでは……!?

 あ、でもコートが風もないのに常になびいているから、面積がすごくなるのか。


 私は体型とかまんまだしな……。

 大本のアバター、自分を鏡で見て作ったし。


 なお、スファトリーさんに用意したアバターはかなり縮むよ。

 40センチくらいのマスコットだから。


 アバターっていうのは面白くて、これを被ると肉体が感じるサイズ感というか、当たり判定はアバターに準拠するようになる。

 つまり、大きいものを被れば体は大きくなったのと同じ状態になり、小さいものを被ると当たり判定がグッと減る。


 それでも自分と大きくかけ離れた形だと、コントロールが難しくなるので注意ね。

 スファトリーさんは魔法とかが使えるそうなんで、どうにかなるでしょう……。

 なって欲しい。


 なので、私は彼女に師匠ヅラをして付き合って色々教えております。


 これはイカルガエンタとは違う部分で、完全に私の趣味。

 ウォンさん経由で家まで紹介したので、面倒見なくちゃなあという感じになっているのです。


 後でマスコットアバターの当たり判定確認しようねえ。


 こうしてリハーサルは一通り終わり……。

 私の出番はほどほどだったけど、結構疲れた。


 出ずっぱりのフォーガイズのみんなはさすがだなあ。


 歌あり、ミニゲームあり、寸劇あり、告知ありのイベント。

 明日が本番、実に楽しみです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る