第257話 海鮮づくしとふれあい伝説
クラーケンをぶっ飛ばし、ダンジョンを踏破したら……。
遠巻きに見てた現地の人たちが、うわーっと歓声をあげて砂浜になだれ込んできたのだ!
「砂浜が解放された!」「モンスターをやっつけたんだ!」「冒険配信者は凄いなあ」「いやはや、凄まじい活躍だったもんなあ」
わいわい騒ぐ。
私はと言うと、マーメイドの人たちが疲労で水の上にプカぁ……と浮いているので、二人をねぎらったあとで上陸なのだ。
そうしたら、お母さんに連れられた小さい女の子がいた。
なんかワンピースのスカートを握ってもじもじしている。
「きら星はづきちゃんですよね? 実はうちの子、はづきちゃんの大ファンなんです」
「な、なんとー!」
私に子どものファンが!?
その女の子は私の大きな声にびっくりして、シュッとお母さんの後ろに隠れてしまった。
そしてそーっと覗いてくる。
「あっあっあっ、き、きら星はづきですよー。こんきらー」
※『はづきっちが子供相手に難儀しておる』『理屈じゃないからなw』『そうだ、忘れてたけどこの人、人見知りなんだった』『人ではないものには恐ろしく強いから忘れちまうよな……』
あっ、まだいたのかコメント欄!
だけど女の子は見慣れたコメント欄を見て安心したらしく、そーっと出てきた。
「きらぼしはづきちゃん……!」
「は、はい!」
「どうやったら、はづきちゃんみたいになれますか!」
※『い、いかーんw!!』『はづきっちが世界に二人いたらおしまいぞw!』『幼女よ、考え直すのだ……』
うるさいぞお前らー!
私はしゃがみこんで、女の子と視線を合わせた。
幼稚園の年長さんくらいかな。
「私みたいになるのは、いっぱいご飯を食べてたくさん寝て、それから面白いことや楽しいことをたくさん見つけて……。あとは実戦で体を鍛える」
※『当たり障りが無いことを言っているように聞こえて、実はすべてはづきっちが実践した極意だからな……』『幼女にすら言葉を飾らぬ女』『第二のはづきを作るつもりかw』
「私も頑張るから、あなたも頑張ろうね。はい、握手!」
私が手を差し出したら、その娘はスカートの裾を握ってもじもじしていた。
かわいいー。
お母さんに「ほら、あくしゅー!」と言われて、そーっと小さい手を差し出してくる。
にぎにぎ握手をする。
ぷにぷにしている。
その後、親子はなんかお礼を言って別れていったんだけど、ちょっと向こうで女の子が「キャーッ」とすごい歓声をあげて飛び跳ねて、私と握手した手をさすさすしているではないか。
凄い喜び方だ……!!
「ばいばーい! ばいばーい!!」
「ばいばーい」
すっごく手を振ってくるので、こっちも振り返した。
いいことをしたなあ。
※『はづきっち、すっかりスーパースターになっちまったな……』『遠いところに行ったはずなのに、特に俺等と距離が変わってない気がするの流石だよ』『また好感度が上がっちまったな』
上がってしまったかも知れない……。
少しして、ビクトリアとファティマさんが海から上がってきた。
スレンダーとムチムチ、対極な二人だけど、並び立つと絵になるなあ。
白い肌に白黒ゴス水着、褐色の肌に赤いゴージャス水着。
ビクトリアのコメント欄でも、外国人ニキが『ワオ!』『アメージング!』みたいな喜び方をしてる。
おっ、ファティマさんに何か囁かれて、二人でポーズをキメたりしてるな。
スクショタイムだ!
ビクトリアのリスナーさんたちが、二人の姿をスクリーンショットで保存していることだろう。
カナンさんはマイペースに上がってきた。
「流石にお腹がすいたなあ……」
「カナンさんもですか」
「ハヅキはいつものことだと思うけど……。でも、ダンジョンの後は空腹になるわよね……」
私たちの言葉を聞いて、現地の偉い人らしきおじさんがピューッっと駆け寄ってきた。
「イカルガエンターテイメント御一行様!! こちらで海産尽くしの心ばかりのおもてなしをご用意してあります! どうぞこちらへ、こちらへ……」
案内されたのは、さっきの海の家なんだけど。
海産尽くし……マーメイドの人たちが言ってたやつね。
うんうん、楽しみ楽しみ……。
シャワーで海水を洗い流した後、髪をドライヤーで乾かさせてもらい、海の家に設けられた席へ。
「おほー! お刺身が!! えっ、新鮮なお刺身でセルフ海鮮丼を作って食べていいんですか!?」
※『はづきっちから暴食パワー検知!』『たんと食え……』『お代わりもいいぞ!』
その他に、尾道焼きというボリュームたっぷりなイカ天入りお好み焼きも出てきた。
海鮮丼とお好み焼きを交互に食べられる!
なんという幸せ~。
※『メシの顔になってる』『こんな幸せそうな顔で飯を食ってると、見てるこっちも笑顔になっちゃうな』『コメント欄放置で無言で食べ続けてるぞ』『なんだかこっちも、腹が、減って、きた……』
食事に集中し、海鮮丼を丼二杯食べ、尾道焼きも食べ終わって一息ついた。
腹八分目くらい。
眼の前では、ビクトリアがファティマさんに箸の使い方を教えながらお刺身を食べている。
うーん、箸使いがきれい。
母から真剣に教わってたもんなあ。
ファティマさんはフォークとスプーンですべて切り抜けてきていた人らしく、箸に苦戦している。
「あーっ」
あっ、お醤油のついたゲソが胸元に!
なんとお約束なんだ。
※おこのみ『ファティマちゃんは本当に分かっとる!!』『なんちゅうかですね、エロスの機微ってやつがですね』『我ら日本人は春画の時代から女体と触手を絡ませてきたからな……』
これ、ファティマさんがデビューしたら絶対ファンがたくさんできるなあ。
この人、ナチュラルボーンエロスだ。
本人も半分は分かってやってるところがあるし……。
「本国だと色々許されませんからね」
ニッコリ笑うファティマさんなのだった。
そんな私たちの横で、カナンさんは海鮮丼を食べきって満足し、ラムネを飲みながらマーメイドの人たちとお喋りしている。
「海の魔将は移動した? つまり、今後別の場所で戦う可能性があるということか……」
「はい。魔将の姿はクラーケンに似た頭に、空を飛べる巨大な翼、そしてウロコに覆われた巨大なマンマーの肉体を持っていて、見る者に狂気をもたらす呪いを纏っています。魔王が世界の外側から連れてきた四柱の本物の魔将のうち一体です。我々ではとても手が出せなくて……」
カナンさんとお話をしているマーメイドさんは、私の補助をしてくれた人で、マーマンとマーメイドのまとめ役の一人。
現地の人たちとも交流が深くて、ナオミさんと言う愛称をもらった人だ。
異種族は外見的に年を取らないから、見た目で何歳かはわからないけど。
ちなみにナオミさんはゲソ天が大好きらしく、お喋りしながらパクパクゲソ天をつまんでいっている。
マーマンとマーメイドの人たち、海の中だけでは味わえない、煮物焼き物揚げ物に完全にハマってしまい、特に尾道焼きと尾道のラーメンは彼らのソウルフードにもなってるんだとか。
味覚は人間と一緒なんだなあ。
「ハヅキさんハヅキさん!」
私もラムネを開けてもらい、邪魔してくるビー玉と格闘していたら。
マーマンとマーメイドの人たちがワーッと寄ってきた。
「あひー、なんですかなんですか」
「あの凄い戦い方を教えて下さい!」「我々もモンスターに対抗するため、肉弾戦を覚えたいんです!」「突きだけではない動きのあの技……!」
「な、なるほどー。ではですね、まず皆さんはバッティングというものを理解しなければならない……」
※『きら星はづきのバッティング教室だ!』『教えるところが違うだろw』『マーマンとマーメイドの人たちー! 強くなりたかったら配信してくださーいw!』
コメント欄の方が私よりもよっぽど的確に教えてないか……?
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