第187話 自宅節分とVR追儺伝説
「オニハーソト!」
ビクトリアが声を張り上げながら、バーンと豆をまく。
豪快なまきっぷりだ。
やるなあ。
私が後方で腕組しながらニコニコしていると、コメント欄も概ね好評みたいだ。
※『日本のイニシエーションを堪能している』『今ここでしかできないアクティビティみたいなもんだもんな』『ビクトリアのチャンネルでも向こうの人たちが興奮してる!』
おお、彼女のコメント欄では英語が乱舞している。
鬼は外、福は内、が自動翻訳され、色々感銘を受けているらしい。
※『日本はこうやって古代からダンジョンに備えてきたのだ』『デーモンバスターの儀式を一般家庭でもできちまうなんてな!』『とってもエキサイティングだわ! 日本に自由に行けるようになったらやりたい!』
私とビクトリアのチャンネルを通じて、なんか節分が広まって行っている気がする……。
「フクハーウチ!!」
バーンと豆をまくビクトリア。
豪快豪快。
うちの両親も、なんかこれをニコニコ見守っていた。
我が家は一階にリビングとダイニングとキッチンが繋がった部屋が一つ、お風呂一つ、トイレ一つ、両親の寝室一つ。
二階に私の部屋とビクトリアの部屋、あとはトイレがある。
順番に部屋を巡って豆をまく。
この儀式っぽい感じがビクトリアはハマったらしかった。
「荘厳なイニシエーションだわ。家の中に潜伏しているゴーストやデーモンをこうやって追い払い、ラッキーを取り込むのね。さっきのリーダーの配信でも、同じ掛け声でビーンズをまいたら威力が上がっていたもの。みんなも一緒に声を合わせましょ! オニハーソト!」
ビクトリアのコメント欄が鬼は外で埋まる。
すごい光景だなあ……。
キッチン、ダイニング、リビングと豆をまいた彼女は両親の寝室にも豆をまき、トイレとバスルームにも豆をまき、玄関に豆をまき、階段にも豆をまいた。
しらみ潰しだ!
配信で映る我が家の姿にはフィルターが掛かっており、なんかそれっぽい3Dのテクスチャーが乗っかっている。
だから身バレの心配がなくて安心……。
※『はづきっちは豆をまかないの?』たこやき『こんな時のために鬼型のミニコスチューム作っておいた』『なにい』『なんだってー!!』
な、なんだってー!!
いや、そう言えばたこやきに聞いてたような……。
私はコスチュームを展開した。
すると……。
ピンクのジャージはこのままに、私のピンク髪の上にモジャモジャ緑ヘアーが乗っかって、そこから金色の角が二本!
ゴボウっぽい質感の金棒が現れた。
「おおー、こ、これはー!」
※『はづきっちがなんか雑に鬼っぽい衣装になった……!』『何着ても可愛いのは卑怯だよなw』『これはたこやきがサッと作った感満載w』エメラク『なるほど、こういう方向性も……。ちょっとイカルガさんに打診しておきます』
エメラクさんの闘志が盛り上がっている。
新衣装が本格的にできる予感……。
さて、私が鬼の役目をして、そこにビクトリアが豆を投げる。
私は豆を喰らって「ウグワー」と苦しむ。
こういうやり取りをした。
※『普段はデーモンとかを粉砕しているはづきっちが鬼役に……』『新鮮だなあ……』『なんだか豆をぶつけられるたびに、はづきっちからピンク色の波動が放たれているようにも見える……』『あっ、マジで出てるぞ!』『この人一応元大罪勢なんだった!』
よく分からない光が放たれたぞ。
私は全然なんともないんだけど。
その後、豆まきが終わり、ビクトリアと二人で豆を年齢の数だけポリポリ食べながら雑談配信をしたのだった。
※『なんかVRで、季節外れの追儺(ついな)の儀式やってるってさ』『はづきっち見に行かないの?』
「なんですそれ?」
※『平安時代の大晦日とかに鬼を追っ払う儀式したやつ』『陰陽道みたいなやつよね』
「ほへー」
私があまり興味なさそうで、むしろ豆の数をどうにかして多めに食べられないか思案していると……。
※『トライシグナルが追儺師役で参加してるみたいよ』
「えっ、ほんと!?」
最近多忙で会えてなかったカンナちゃん成分を補給できる予感……。
私はビクトリアを誘い、そのままVRにダイブした。
おお、フリースペースでやってるやってる。
『はづきっちが来た!』『誰かが呼んだなw』『カンナ・アーデルハイドいるところきら星はづきありだw』
それっぽい衣装に身を包んだカンナちゃんが中心になり、なんかフリースペースを練り歩いている。
呪文みたいなのがたくさん書かれた木剣を持っていて、両脇の水無月さんと卯月さんが鈴の付いた杖と太鼓を鳴らしながら歩いている。
イベントだなあ……。
「感激だわ……。ファンタスティック……!」
ビクトリアがスクショしまくっている。
私も横で、カンナちゃんのかっこいいところをスクショした。
無言で鬼スクショだよ。シャッター音響きまくりだよ。
※『はづきっちはカンナが絡むとちょいちょい正気を失うなw』『好き過ぎるw』
親友同士でラブラブですから……!!
カンナちゃんも私に気づいて、小さく手を振ってきた。
私が両手を振り返す。
この光景があちこちで撮影されたみたいで、『キマシ!!』と大盛りあがりしたらしい。
VR追儺はお蔭で大成功。
なんかよく分からないけど、フリースペースの外に広がるインターネットの海みたいなところに、ちょっと柱を建て増すことができるようになったらしい。
VR空間が広がるのだ。
何者かがここを拡張する邪魔をしているのかも知れない。
なんなんだろうなあ……。
そんなことよりも、久々にカンナちゃんとお話をしなくては……。
あわよくばリアルで会う……。
儀式の終了後、私はパタパタとカンナちゃんに駆け寄るのだった。
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