第384話 エーテルの秘密とやって来た大魔将伝説

 エーテルを種子島のロケットセンターに提出してからそれなりに日にちが経った。

 日増しに空の色に、なんかぐにゃぐにゃした虹色が交じるようになってきてて、これは火の大魔将の侵略が進んでるなーというのが分かる。


『こっちでもそうよ! あのやろうー、調子に乗って! ぶっ飛ばしてやりたい!!』


『どうどう、落ち着いてシェリー。私達じゃ宇宙に上がることができないわ。ハヅキに任せないと』


『僕ならそのまま打ち上げられてもいいんだけどね!』


『カイワレ? あなたは大丈夫かも知れないが、技術者が生身の人間を打ち上げたらバッシングに遭うと思う』


「ありそうー。割と本質的じゃないところでわあわあ騒ぎますもんねー」


 今回はザッコで、国際的な面子とお喋りしてます!

 イギリスからシェリーとブラックナイトさん、アメリカからカイワレ、中国からメイユー。

 お互いの国の言語で話してるんだけど、Aフォンを通じると翻訳してくれるから便利。


 みんなで現状の報告会なのだ。

 どうやら、空の色が変になってるのは世界的なことらしい。

 それに、地の大魔将は全然諦めてないらしく、世界中に眷属を送り込んでるそうで。


『めっちゃ眷属多いの! いやになるー! 倒しても倒してもきりがないし、それに中途半端な配信者だとやられちゃうし!』


『キングダムでは大きな問題になっているな。強い個体に対しては足止めに終始し、ルシファー議員の到着を待つ形になる』


 ルシファーさん頑張ってるなあ!

 議員やりながら眷属退治もしてるんだ。


『こちらでは、国が兵士たちの武装に道術を導入した。これによって、配信者でなくても一定の戦いが可能になっている。無論、道術のアイテムは消耗品だから、常に不眠不休で生産し続けているが』


 中国も大変だあ。

 人の数が多いから、その分だけ発生するダンジョンも桁違いに多いって言うもんね。

 兵隊の人も仕事がたくさんあるだろうし、アイテムを作ってる人達もめちゃめちゃ大変だろうなあ。


『ステイツは変わらないね! いつも通りだよ! つまり、ピンチってことさ! ハハハハハ! だけど、僕ら新人だった配信者も育ってきてて、割と戦えるようになってるよ。僕以外にもスーパーパワーを持った配信者が次々に出てきているし』


「あー、見た見た。なんだろうね。アメリカの配信者はヒーローみたいなのがたまに出てくるよねえ」


『コミックのミュータントみたいなものじゃないかな! 日常だと普通の人間だけど、配信者になった瞬間に隠されていた才能が目覚めるんだ! ヒュウ! クール!』


 ちなみに当のカイワレ、アメリカの政府からはイモータルボディとか名付けられる能力者として数えられてるらしい。

 研究施設で調べてもらったけど、信じられないくらい打たれ強くて冗談みたいに回復が早くて、その原理は完全に不明らしい。


 なんだろう!


「日本は割と安定してるかなあ」


 私が言うと、みんなが『それはそうだ』と納得した。


『ハヅキがいるじゃない』


『会場で体験したもの! ハヅキの歌声でジャパンがウェイクアップしたわ! 震えるほどアツいイベントだった~』


 ブラックナイトさんは普通にいましたからね……!!


『リーダーと、ビッキーもいるだろう? それにアバター被った配信者はジャパンが本場だよ! 僕なんか普通に生身で出てるからね!』


 全身タイツのスーツ着て生身配信だもんねー。


『日本は強さのイメージが多彩だからね。その分だけ、敵に対して様々なアプローチができるのよ。我が国はマシンによる強さが主流だったが、政府の方針から道術を使う配信者も登場し始めている。彼らによって、道術の強さが広く認識されるようになれば兵士たちも強化されることだろう』


 おお、戦略的~。


 まあ日本が頑張れてるのは私のおかげと言うより、みんなのやる気が凄いだけという気もする!

 そんなこんなで国際的井戸端会議は終わりかなーという頃合い。


 メールが届いた。


「あっ、種子島の」


『それ、ここで読み上げないほうがいいわよ』


 メイユーさんがそれだけ言って、食事のために落ちる、と回線を切った。

 なるほどー。

 大人ー。


『キングダムは全面的にハヅキに協力するわ! キングからそういう言伝もらってるもの』


『シェリーはまだまだチャイルドなのに、国は簡単にこういう権限を与えるから、私はもう毎日が子守で』


『クリスティナ! あたしを子供扱いしないで!!』


『ここで本名呼ばないでー!? 雰囲気崩れちゃう!!』


 イギリス勢がわいわい騒いでる!

 そっか、ここだけ二人なのは、代表のシェリーをブラックナイトさんがお守りしてたのか。

 で、カイワレは。


『シスコにリーダーのスタチュー立ったよ! リーダーはステイツじゃスーパーヒーローだからね!』


「あひー! 見たいような見たくないような」


『これだよ!』


「あひー!?」


 画像が送られてきた!

 うおおお、大きなパラソルを持って降り立つ、ジャージの私の像!

 流石に大きさは自由の女神ほどではなくて、5mくらいらしいんだけど。

 大きいよ!


 これには、シェリーが大受け。

 ブラックナイトさんは既に知っていたので、『やっぱり素晴らしいものだわ。セイチジュンレイしなくちゃ』とか言ってるのだった。


 さてさて、ではここで種子島センターからのメールを開く。

 エーテルと呼ばれているものの性質について書いてあった。


「えーと……。エーテルは空気中に揮発する? 溶けちゃうんだ。で、真空中だと安定する。エーテルが溶けた空気の中だと、バーチャライズみたいな現象が活性化しやすい、真空中でエーテルに近づけてバーチャライズみたいなのをやると暴走する……ふむむ?」


『マナね』


 ブラックナイトさんが何やら気になるワードを。


『大気に溶け込んだ魔力。エーテルは魔力そのものっていうことよ。だけど空気に溶けるから、宇宙を満たすエーテルが地上に降り注ぐことはない。その代わり、ゆっくりと星全体を魔法の力で染めていく……。ワオ、ファンタジーだわ』


『TRPGの世界だね!』


「ほへー、有識者~」


 私は大変感心してしまった。

 それから、メールの続きを読む。


「エーテルは、その中にあるとまるで空気のように振る舞う。呼吸でき、中で生命体が生きられる。ただしすぐに中毒症状を起こし死に至る。もっと多くのエーテルがあれば調査できる、ふむふむ」


 生身で活動するのは危険っぽい。

 色々あるのかもなあ。


 まあ、近日中にそこへ飛び出す私なのですが!


 という話をして盛り上がっていたら。


『あ、ザッコで種子島さんから呼び出し』


 分離したベルっちが気づいたのだった。

 なんだなんだ。


 ルームに招待すると、種子島さんがインしてきた。

 そしてここのメンツにびっくりした後、


『それどころじゃなかった! 地球全体に吹き付ける、強烈な太陽風を確認した! 月と同距離に、超小型の恒星が出現したんだ! 火の大魔将に違いない! はづきさん、すぐに種子島センターまで来てくれ! 打ち上げる!!』


 な、な、なんですとー!?


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