第281話 大罪勢ラーメンを食べる伝説

 なんかよくわかんない趣旨だった中林長官のパーティーが終わったので、私は帰ることにした。

 そうしたら、ウォンさんがついてくる。


「どうしたんです?」


「ラーメンが食べられるところに連れて行って欲しいね」


「あっ、そうでしたそうでした。食いしん坊は皆仲間です」


「ほう、君たちが行くなら私も同行せねばなるまい。私が知らぬ味があるなど、世界の損失だからね」


 ルシファーさんもついてきた。


「あっ、三人は帰ってもいいよ……。ここからはラーメン食べて帰るだけだから」


 私が言うと、ぼたんちゃんが真っ青になった。


「は、は、はづきちゃん! 一体何と一緒にラーメン食べに行こうとしてるのか分かってるの!?」


「ええと、ラーメン初心者の二人と……」


「分かってなぁい」


 さらに、中林さんも慌てて走ってくる。


「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ!! なんでこいつにダメージ与えるためにわざわざ呼んだのに三人で食事に行く約束してるの!? この後は会合だと伝えていたはずだ! 言うことを聞いてくれなければ困る!!」


 私を指差すんだけど。

 これを聞いて、ルシファーさんが肩をすくめた。


「我々がただの人間の思惑通りに動くと思うかね? 夜にはホテルに戻っている。君はただ私が帰るのを待っていればいい」


「だ、だがしかし」


「たかが人間が口ごたえをすると?」


「ぐう……」


 おっ、ルシファーさんに詰められて中林さんが大人しくなった。

 口をパクパクさせてるけど声が出てこないみたいだ。


 ぼたんちゃんがこれを見て青くなっており、はぎゅうちゃんは何も理解しておらず、もみじちゃんは他のお客さんにサインをねだられてる。

 あっ!

 もみじちゃんのリスナーさんがいたんだ!

 ご年配の男女で、なんかお孫さんに接するみたいにニコニコしている。


 これはいけない、私のリスナーがいたらラーメンを食べに行くどころでは無くなってしまう……。

 私は慌てて、みんなを連れて外に出るのだった。


 そこから電車で新宿まで行って、美味しいとんこつラーメンのお店に到着する。

 これこれ、これですよ。


 ウォンさんはもう、私に導かれるままにずっと大人しくついてくる。


「考えなくていいのはとても楽ね。ガンガンに引っ張ってくれていいよー。もうね、寝そべり続けるためにこの力を得たのに、責任と義務と大量の敵が生まれて寝そべりどころじゃなくなってね……。世の中は本当に面倒くさいよ……」


 ため息をつく。


「ウォンさん、美味しいラーメンを食べて嫌な気分を吹き飛ばしましょう! お腹いっぱいになって寝ちゃえばいいんです」


「それそれ。そういう生き方をしたいよー」


 この人、ちょいちょい私と似た考えをしたりしてるなあ。


「我々はもともと、解消されぬ強い不満を抱えた者たちだからな。力を与えられた者は他にも多かったが、皆力に飲み込まれ、暴走した。その中でも大罪の力は危うい。憤怒と色欲と嫉妬は力に取り込まれ、異世界のに都合よく使われるだけの存在となった。だが、我らは力を手懐けてここまで上り詰めた……おっと、席が空いたようだ」


 店員さんに呼ばれたので、私とイノシカチョウとウォンさんとルシファーさんでテーブル席についた。

 私の横に、ぼたんちゃんとはぎゅうちゃん。

 向かいにもみじちゃんで、ルシファーさんとウォンさん。


 それぞれとんこつラーメンに色々トッピングをしながら頼み、待つ。


「えっと、さっきからなんも理解できないんですけど」


 ここで恐る恐る、はぎゅうちゃんが挙手した。


「なんだね? 許可しよう。疑問を口にしたまえ」


 おお、ルシファーさんが仕切ってる。


「ただの配信者であれば相手にもせぬが、暴食の眷属であるならば話は別だ」


「私たちいつの間に眷属になってたの……」


 ぼたんちゃんがさっきから色々考えてるなあ。


「さっきからなんか大罪とかなんとか言ってますけど、それってなんですか?」


「ふむ、そこから説明せねばならんか。いや、我々の高尚な話題は眷属には少々難しかったな。はっはっは、素直に質問してきた勇気に免じて許そう」


「は、はあ」


 ルシファーさんがなかなか偉そうなので、はぎゅうちゃんが恐縮している。


「私とウォンとはづきは、大罪勢だ。まずこれを前提にしておいてもらおう」


「はあはあ、大罪勢……。大罪って……アヒェー」


 はぎゅうちゃんが変な声を出した。

 店内は賑やかなので、あんまり目立たない。

 でも一応、肘で彼女を小突くぼたんちゃんなのだった。


 イノシカチョウの治安はぼたんちゃんに守られている!


「そ、そ、それじゃあ、世界を震撼させた大罪勢がこの場に……!」


 ルシファーさんが唖然とした顔になった。


「何を言っている。きら星はづきが大罪勢であることは自明だっただろうが。それを知ってお前たちは彼女の眷属に下ったのだろうが。我々はきら星はづきと同等の存在だというだけだぞ? 私としては己こそが抜きん出ていると自負しているがな」


「端々で傲慢かますことを忘れないねー」


 ウォンさんがぼそっと突っ込んだ。


「私は人間どもを支配するべく活動を開始し、キングダムの七割を掌中に収めた。だが、我々のスポンサーはあろうことか契約の破棄を宣言してきた。我々もろとも人類側だと断じ、彼らの手勢に世界の支配を任せるとな。こんな契約違反が許せるか? いや、許せまい」


 ルシファーさんが静かに盛り上がってきたところで、着丼です。

 ホカホカアツアツのとんこつラーメンが6つ運ばれてきた。


「いただきまあす!」


 私たち、ラーメンに取り掛かる。

 紅生姜を乗せたり、高菜を入れたり、にんにくを入れたり……。


 ルシファーさんはイギリスの人なのに箸使いが上手い。

 ウォンさんはお箸の国の人なのでやっぱり上手い。


 つるつる食べて、私は替え玉を注文……。

 あっ、ウォンさんも麺を食べきって、物いいたげに私を見つめている!!


「あの、替え玉2つ」


 私が注文したら、ウォンさんがにっこりした。

 やっぱり替え玉注文したかったんだ!


 硬めで注文し、二人でつるつると替え玉を食べる。

 美味しい美味しい。

 

 これを見て、ルシファーさんがニヤリと笑った。


「どうやら、大罪同盟は成ったようだな……」


 ぼたんちゃん、首をかしげるのだった。


「そうなの? そうかなあ……? ちがくない……?」


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