第282話 イカルガエンタ鉄壁伝説
ルシファーさんは議会に出ないといけないというので、すぐに帰ってしまった。
ウォンさんは特に帰ってもやることがないし、何もやりたくないというので残った。
私はルシファーさんとウォンさんとザッコのアドレスを交換した。
「では部屋名は大罪同盟にしておこう」
「ほえーかっこよ」
ルシファーさんのセンスなかなかですねえ!
私が思わず褒めたら、ルシファーさんはふふん、と結構嬉しそうな顔をして去っていった。
「ワタシ、外に出たくないからルームサービスが充実してるホテルに住む……」
「ははあ、じゃあグググールで検索してあげますね」
私はウォンさんのためにホテルを探してあげた。
そうしたら、結構お高いホテルが見つかったんだけど、サービス内容を読み上げてあげたら、ウォンさんがにっこりした。
「そこにするよ。ありがとう」
自分で移動するのも億劫そうだったので、タクシーを捕まえてそのホテルまで向かってもらったのだった。
その後、ザッコでウォンさんが一言だけ『謝謝』と送ってきたので、多分彼的には最大限の感謝なんじゃないか。
ぼたんちゃんがポカーンと口を開けている。
あまりに見事に口が開いていたので、私はそーっと指を差し入れた。
「ふがー」
舌をつんつんしたら、慌てて後ろに下がるぼたんちゃんなのだった。
「は、は、はづきちゃん!! あなた、一体何と一緒にいたか分かってる!? たくさんの人間を手にかけてきた、史上最悪の化け物だよ!」
「はえー」
「先輩分かってない顔してる」
「師匠はそんな感じだよねえ。でもなんかフレンドリーだったよね」
「うんうん、うちらを先輩の眷属だって言ってさ」
「確かに、あたしたちは師匠に教え導かれた者たちだからねえ……」
もみじちゃんとはぎゅうちゃんは理解しているようだ。
「まあまあぼたんちゃん。なんとなーく言わんとすることは分かるけど、わざわざ中林さんが引き合わせてくれた縁だし」
「明らかにあの新長官も、はづきちゃんに嫌がらせする感じで二人を呼び寄せたみたいだったけど……。まあ、すぐにはづきちゃんが仲良くなっちゃったんで凄く慌ててたわね……」
中林長官は何を考えてたんだろうねえ。
その後、私たちは事後報告のためにイカルガビルに向かうのだった。
すると、なんか入口に救急車が止まってる。
「なんだろうなんだろう」
見知らぬおじさんが二人、並んだ救急車に運び込まれていくところだった。
黒いスーツをビシッと着こなしてるけど、今は白目を剥いて泡を吹いてる。
これをたこやきと他の社員の人が見送っていた。
「どうしたのどうしたの」
「おおはづきっち。あのね、新しい迷宮省の職員だって人が、イカルガの活動に迷宮法違反の疑いがあるってんで査察に来たんだよ」
後ろで、もみじちゃんとはぎゅうちゃんが、なにそれー!! と怒っている。
ぼたんちゃんは「来たわね、締付けが……!」とか訳知り顔だ。
「知っているのかぼたんちゃん!」
「つまり、新しい長官はイカルガエンタに敵対的だっていうことでしょ? そもそも、配信者の活動を馬鹿にしてさえいるのかも知れないわ。だから動きづらくなると思う」
「ほえーなるほど」
たこやきの理解も大体そんな感じだった。
だけどその上で、
「長官辞めた大京さんがスレイヤーちゃんねるってのを始めたんだけど、そこで早速言ってたよ。あと三ヶ月くらい我慢してくれればまた風通しが良くなるって」
「なるほどー」
「迷宮省の新体制が三ヶ月で崩壊する宣言じゃない……!」
ぼたんちゃん、呆れているのだった。
この人は本当に物わかりが早いなあ。
で、なんで職員さんが倒れているのかと言うと……。
「ちょうどウェスパースさんが地下一階に来てて、職員とVR空間の魔将バングラッドと三人でFPSチーム組んでたんだけど」
「はえー、仲いいんですねえ」
「すっごいメンツなんだけど!?」
ぼたんちゃんのツッコミに、たこやきが笑顔になった。
「そこに迷宮省の職員が入ってきてうるさくなったから、ウェスパースさんがイカルガビルをちょっとだけダンジョン化させたんだ。職員二人の姿が消えてね。三人がチームで五連勝くらいして満足したところで解放された。そうしたらああなってたんだ」
なるほどー。
全然分からん。
ウェスパースさんに直に聞きに行こう。
報告関連はもみじちゃんとぼたんちゃんにお任せして、と。
はぎゅうちゃんを連れて地下二階へ。
そうしたら、ウェスパース氏が格闘ゲームのコンボ練習をしていた。
『この世界は実にエキサイティングだな……! このゲームというものを通じて、取るに足らぬ存在だと思っていた人間どもがわしに並び立ち、あるいは凌駕するほどの強敵として立ち塞がってくる! 挑戦者になるのは久しぶりで、毎日血が沸き立つ思いだぞ!!』
「燃えてるー!!」
『昨日バングラッドめにこてんぱんにやられたからな……』
「その人は人間じゃなくて魔将ですね」
『その後バングラッドも有名配信者にボコボコにされておった』
「上には上がいますねー」
『うむ、実に面白い! 故にこうしてコンボ練習をしているのだ……』
しばらく、ウェスパース氏の練習を眺めた。
このお相撲さんみたいなキャラが持ちキャラなのね。
真横に「どすこい!」と飛翔頭突きしたり、相手を投げて上に乗っかったりするのがシンパシーを覚えるから使ってるらしい。
「師匠、師匠! 聞くことあったんじゃないですか」
「あっ、そうだった!!」
持つべきものははぎゅうちゃん!
私は目的を思い出した。
「あのねウェスパースさん。なんか迷宮省の職員が倒れてたんだけど」
『おお、あれか。敵対的な盗掘者は丁重に出迎えてやらねばな。わしの迷宮に放り込んで、二時間ほど彷徨ってもらったわい』
「なるほどー。同接なしでダンジョンはああなりますよねー」
むしろ生きてた分だけ、思い切り手加減されてたと思う。
『夜のイカルガビルに侵入する者もそれなりにいるのだぞ? 皆、わしのダンジョンで飲み込んでしまっているが』
なんか、イカルガエンタの企業秘密を盗もうとする産業スパイとか、週刊誌の記者とかそういうのが入り込んできてはウェスパース氏のセキュリティに引っかかってるらしい。
「あー、確かお兄ちゃんが、有名になると色々狙われるからって言ってましたねえ。それ以前は宇宙さんのセキュリティかけてたみたいですけど」
『おう、あの陰陽師な。今はわしのダンジョンもあるから二重というわけだ! 完璧だな、がっはっは!』
つまり、イカルガビルはドラゴンのダンジョンでもあるということなのだ。
スパイとかに来る人はちゃんと備えを持ってお越しいただきたい。
その後、私とはぎゅうちゃんは、ウェスパース氏のコンボ練習に付き合わされることになるのだった。
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