第362話 カナンさん帰ってきた伝説

 クリスマスイブのイブに大攻勢を仕掛けてきた地の大魔将だけど、なんか私の歌でみんなが猛烈に強くなるみたいな謎のバフを受けて、撃退されてしまったのだった。

 地の大魔将は逃げおおせて健在らしいけど、それ以降はダンジョンがパワーアップする気配もなく、平和平和。


 大きな変化もなく、年は暮れていこうとしている。

 あ、そうそう。

 変化と言えば、我が家の増築が終了した。

 物置だったところが五畳くらいの部屋になってるんだよね。


 本来ならスペースがあまりないところに作ったので、ちょっとだけ狭め。

 ここがカナンさんのお部屋なのだ。


 ということで……。


「ただいま!」


「お帰り、カナンさん!」


「おかえり!!」


 カナンさんの凱旋だ。

 父と母が両手を上げて歓迎している。

 家族の一員みたいなものだったもんねえ。


「ああ、懐かしい香り……。私がゴボウアースで故郷だと感じる匂いだ。やっと帰ってこれたのだなあ……」


 カナンさんは宿敵の魔将をやっつけて、人生の目的みたいなものを果たしてしまった。

 なので、出ていったときよりも優しい目をしているのだ。


「では荷物を部屋に置いてくる」


 ということで、二階に登っていった。

 どれどれ……?

 私も後をついていく。


 カナンさんの荷物は、彼女の服とあとは各地のお土産くらい。

 お土産の大半はAフォンに締まってあるから問題なし。


 クローゼットに服を収納して……。


「はづきも入ってきていいよ」


「わあい」


 カナンさんルームに突入!

 おお、新築の木の香りがする……気がする。


 エアコン完備、ベッドにパソコン、そしてクローゼットの他に謎の棚。


「この棚は一体……?」


「二人が私のために気を利かせてくれたらしい! これは嬉しいな……」


 あっ、カナンさんがAフォンから次々と土産物を取り出す!

 これを並べていくのだ。


「あー、全国あちこち回ったんだねえ」


「ああ。まずは旅行初心者である私がわかりやすい、有名なところから巡っていった。この会津東山温泉から全ては始まった……」


「福島県スタートだったのね」


 土産物を並べる度に、カナンさんの思い出話が始まる。

 なるほど、お土産と記憶がしっかり結びついているのだ!


「詳しくは私のアーカイブを見てね」


「配信者の強み~」


 思い出そのものがエンタメになって残ってるんだった!

 その後、部屋の防音性能とか日差しの入り方とかをチェック!


 悪くないんじゃないでしょうか。

 もともと、私の部屋もまあまあ防音だったし。


「私としては外の世界の音が入ってくるのも好きなんだが。自然を身近に感じられていい」


「でも、音が入ってくるということは寒かった暑かったり……」


「ぐぬぬ、ではやはり防音が効いてるほうがいいか……。ところでこのグリーンの壁紙は? 緑に包まれている感じがして私は好きだな……」


「それはお父さんが選んだやつでねえ」


 うちの父親、カナンさんのことも新しい娘みたいに思ってるので、エルフという種族のことを勉強して、新しい部屋の構造材とか壁紙とかサッシを樹脂にしたりとか非常にこだわったのだ。

 なので実は、この部屋は見えるところに一切金属が使われていない……!

 父こだわりの部屋。


 建築費用は私の配信で稼いだお金が潤沢に注ぎ込まれております!


 はづき家のパワーと思いやりの結晶!


「な、なんと! じーんとくるな」


 カナンさんが感激している。

 それで一通りのお土産を並べた後、彼女は自分とお土産が写るように写真を撮った。

 私もノリで写真に一緒に写った。


 SNSにアップしたら、いやあ受けた受けた。


『カナンさんがはづきっちの家に帰還!』『土産物がズラッと並んでるのをバックに撮った写真壮観だなw』『二人ともニッコニコでかわいいー』『背景が全部壁紙とお土産だから特定もできん』


 ははは、お土産は窓からの日差しが当たらない側の棚にあるからね。

 そして特定しようとした人がいたな?

 行け、式神~。


 Aフォンを通じて式神を飛ばしたので、一安心。


「食事が終わったらなんだけど、はづき、コラボ配信をしない?」


「突然のお誘い! コラボって言うと例えば……?」


「オフコラボだから、一緒にゲームをしてもいいが、私はゲームに疎い」


「奇遇ですね私もです」


「じゃあ一緒に歌うとか」


「歌のコラボ配信を……!? 権利関係大丈夫かな……」


「いきなりはまずいか。ゴボウアースは色々面倒なのだな」


「じゃあもう、カナンさんがひたすら旅の思い出をお土産と一緒に話して、私がそれに相槌を打つ配信というのは」


 私も楽だし!


「そうか! さっきはづきにやっていたことをやればいいのか! よし、それで行こう!」


 配信内容が決定したのだった。

 これは素晴らしいローコスト配信。


 私は横でうんうん頷いているだけでいいだろう……。


 この時はこう思っていた。

 だが!


「会津東山温泉は釜飯が絶品で……」


「あひー!? しゃ、写真まで残っている! 食べたいっ、食べたい~」


「岩手のいわいどりは美味しかった。あそこまで管理して、美味しい鶏肉を作ろうとする努力には頭が下がる」


「ああ~美味しそうですねえ~。わ、私はなんでそこにいなかったんだ」


※『いちいちはづきっちの欲にまみれた突っ込みが入るのが面白いw』『聞き役のリアクションが優秀だなあw』『こんな楽しい雑談配信になるとはw』


 私は食欲との戦いなんですが!

 夕食を食べたばかりだと言うのに……!


 おのれー、年明けは東北に旅行してグルメする……。

 私はそう心に誓うのだった。


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