第129話 全米は喜びのるつぼですが明日から学校なので帰ります伝説
カリフォルニアにピットフォールが戻ってくる。
地獄みたいに凹んでた地の底がどんどんせり上がり、もとの高さになる。
エレベーターみたいというか、どっちかというとCGでうにょーんと流動的に動く処理をした時みたいな。
「なんだこれなんだこれ」
「見てると酔いそう……」
うっぷ、とビクトリアが口をおさえた。
乗り物に弱いらしい。
※『なんか魔法が解けていくみたいな感じだな』『実際そうなんじゃね?』『そっか、シン・シリーズ倒したしな』
うちのコメント欄はすっかり日常の感じに戻っていて、ぺちゃぺちゃと考察を話し合っている。
※『はづきっちとビクトリアちゃんが並んでいると絵になるなあ』『二大陰キャ女子が揃っちまったな』『ビクトリアちゃん日本に来るの?』『おいでおいで……』『ダブルあひーが聞けそうだ』『楽しみすぎて夜しか眠れなくなる~』
あっ、もうよこしまな話になってる!
この人たちはいつも平常心だなあ、などと私は感心した。
すっかり辺りが元通りになったら、州軍の人たちがうわーっとなだれ込んできた。
そして街が完全にダンジョンから解放され、モンスターやデーモンの支配から解放されたことを知ると……。
うおおおおーっと叫んで大喜びした。
みんなで抱き合ったりしている。
「うおーっ、僕を振り回さないでくれ!」
「君は軽いな! 我輩にとっては羽のようなものだぞ!」
「フィギュアを扱うには最低限の筋肉でいいんだ!」
カイワレもインフェルノとハグしてぐるぐる振り回されている。
アメリカンな喜びの表現はオーバーだな!
そしてふと横を見ると、ビクトリアが前傾姿勢で身構えているところだった。
気づかれた彼女はハッとする。
「わ、わた、私たちもするべきでは……?」
「そ、そうなの? こう言うときどういうことをすればいいの分からない……。でも棒立ちでぼーっとしてるとこれはこれで申し訳ない」
※『抱き合えばいいと思うよ』『きましたわ』『はづきっちそれがマナーぞ』『嘘マナー講師を今だけは許そうと思う』
マ、マナーだったか……。
仕方ない。
私は両手を広げてビクトリアを出迎えた。
彼女が突進してくる。
がしーっと受け止めて、インフェルノの要領でビクトリアを抱き上げてくるくる回る。
「あ、あの、あの、普通逆……。立役者の方が高いところにいたほうが……」
「あ、そ、そうなの!? でもビクトリア私を抱き上げられる?」
「できない……」
ビクトリア非力だもんね……!
ということで、二人でまあしょうがないかー、とヘラヘラしながらくるくる回っていたら、なんか周囲の軍人さんたちが大盛りあがりなのだ。
「カリフォルニアを救った俺たちの女神!」「人類に勝利をもたらした女神だ!」「カリフォルニアにハヅキの像を建てよう!」
わあわあ言ってる。
何かとんでもない発言なかった?
その後、州知事がビューンと車で駆けつけて、また私と握手した。
ハグは遠慮しておいた。
そしてこの後、盛大なレセプションが開かれるらしいんだけど……。
「失礼。実はきら星はづきは明日から学校がありまして。時差を考えるとそろそろ出発しなければ」
「オー。なんと禁欲的で勤勉なのだ。これほど大きなことを成し遂げてなお、自らを律する。ゼンだね」
州知事は感心したようだ。
他に居並んだ政府と軍の偉い人たちも、なんか感動したみたいで私を尊敬の眼差しで見る。
や、やめてくれえー。
七日間以上休むと勉強追いつけなさそうだから帰るだけなの!
ということで。
最後のダンジョンを踏破し、色欲のマリリーヌを倒した足で、私は帰りの飛行機に乗り込んだのだった。
あっという間に空港。
ラストバスターズの三人が手を振っている。
私も手を振り返す。
「みんなまたねー!」
「いつでも配信の世界で会えるからね!」
「リーダー! すぐに行くわー!」
「君を我輩がコミックにして世に出そう! 兄上に許諾はもらっている!」
マリリーヌが倒されたことで、しばらく日米間の飛行機による行き来が可能になるとか。
なので、その間にビクトリアはアメリカで色々準備してうちにホームステイしに来るのだ。
うーん、楽しみといえば楽しみ。
それはそうとインフェルノがとんでもないこと言ってなかった?
帰りの飛行機は、行きよりもちょっとこじんまりしていた。
結界も間に合わせ程度。
それでも前に比べるとずっと安全なのだ。
ふわっと飛行機は離陸して、カリフォルニアの大地が遠ざかっていく。
ふと確認したツブヤキックスでは、アメリカの人たちが大喜びしている。
こっちだとトレンドになってるみたい。
人類の勝利だ、とか書かれてた。
主語が大きい……!
あと、私のファンアートがめっちゃ増えた。
次にビクトリアのファンアートがあって、私とビクトリアが一緒にいる絵も多い。
インフェルノはマニアックな人気があるようだ。
なお、カイワレのイラストが一番少なかった。
だけどカイワレはそれを見つける度に、嬉しそうに私に自慢してきたなあ。
ハートが強い男だった。
しみじみしながらファンアート巡りなどしていたら、えっちなファンアートを見つけて「うあー」となる。
えっちでセンシティブなのはいけません!
そっといいねを押しておいた。
ファーストクラスの座席は大変乗り心地も良く、嵐のようなイベントの中で溜まっていた日々の疲れがどっと襲ってくる。
私は機内食をもりもり食べた後、一眠りすることにするのだった。
目覚めたらきっと日本だろう。
ああ、日本食が恋しい。
だけど結局、味噌は使わなかったのだった……。
むにゃ。
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