休憩?私の充電編

第130話 ちょっとした大騒ぎ伝説

「日本では大騒ぎになっているな」


「ええーっ」


 日本到着前、受付さんから連絡を受けた兄が色々教えてくれた。

 到着予定日を割り出したマスコミが空港に詰めかけてるらしい。

 そもそも、アメリカを救った私は時の人みたいな扱いになってるとか?


「イカルガエンターテイメントのメールボックスがパンク状態だそうだ」


「ひえーっ」


 電話連絡を一切受け付けてないイカルガエンターテイメント。

 なので連絡手段は全部メールになるんだけど……。

 報道各社とかファンの人たちからのメールで大変なことになっているんだと。


「素晴らしい追い風だ。二人目と三人目のデビューも考えれば最高の状況だな」


「二人目……シカコさんかあ。三人目……?」


「ビクトリアがホームステイしてくるだろう。彼女は日本の大学に通いつつ、こちらで配信する。その拠点が我が社というわけだ」


「あ、そういう……」


「二人揃っての12月デビュー予定だ」


 私の後輩は二人同時デビューらしい。

 エプロンドレスのエルフと、ゴスロリ陰気ガールの二人か……!


「じゃあ私はめちゃくちゃ忙しくなりそう……?」


「いや、そうでもない。データを転送するから見てみろ」


 兄から、報道記事をスクショしたっぽいのが送られてきた。

 その一面には……。


『きら星はづきはデーモンだった!! 配信者界に広がるデーモンの魔手!?』


『なぜ事務所はこのことを隠していたのか! 日本をデーモンから守れ! きら星はづきを日本へ入れるな!』


「あひー」


「陰謀論者がどんどん湧いてきている。こういうのに食いつく連中を相手にした商売なんだ。後先考えず、センセーショナルなネタを消費する。だが、今回ばかりは馬鹿をやったな」


 兄がめちゃくちゃ怒ってるのが分かる。


「国は一定条件を満たした配信者への迫害を許さない。そして実際、これでお前を排除したら、大罪級の相手が出現したときの対抗手段が乏しくなるぞ。いや、むしろそれを世間に分からせるチャンスだろう」


 ククククク、と怪しげな笑い声を漏らす兄。

 こわあ。

 あんまり怖いので、私は機内食を頼んでハンバーガーをパクパク食べた。

 心が落ち着く~。


「私はどうしたらいいの? しばらくオヤスミ?」


「それでいい。雑談配信メインでいいだろう。ほとぼりが冷めるまではコラボもしないようにして、たまに近所のダンジョンで配信だ」


 私の配信に集まってくる、敵対する連中を特定するのだそうだ。

 で、次々に処理していく。

 兄、激おこだ。


「マリリーヌの狙いはまさにこれだろう。人間の愚かな部分を刺激し、自らの手で救世主を排除させる。現にお前の登録者数が減ってるだろう?」


「どれどれ……? ? 減ってる? そう言えばこの一週間確認してなかった」


「確認しろ?」


 ふひひ、サーセン。

 アメリカでの一週間は刺激的だったからなあ。

 自らを顧みる余裕もなかった。


 ツブヤキックスでエゴサをしてみると……。

 あ、いた、アンチ!


 私のことを『デーモンを信じるな!』『悪魔が潜んでいたんだ!』『きら星はづきを許すな!』とか言ってる人が割と目立ってる。

 そしてそういう人に同意する人も多くて、さらにそれを袋叩きにするファンの人たちもたくさんいる。

 あひー、人間同士の醜い争い~。


 もう一つは、『ダイエット中に飯テロ配信してくるきら星はづきを許すな!』『本人が自分のえっち絵をいいねするから流れてきて助かる!』『はづきっちむっつり説!!』『さらに推せる!』とか言ってるのが目立つ。

 むしろアンチより目立つ……。

 あひー、むっつり説広めるのやめてください!


「こうして人間が一枚岩になれない状況は敵に塩を送ることになる。奴らはこの隙に日本での戦況を立て直すつもりだろう。動きも早い。アークデーモン級の相手がSNSや報道へ食い込んできているのかも知れんな」


 うわーっ。

 なんだか面倒なことになってそうなのだった。


 でも、私はいつもの通りでいいらしい。

 コラボだけしないでおけば、人間の噂なんか一週間くらいで風化してしまうとか……。


「暇人どもはすぐに飽きる。元々食いつきやすいネタを燃やして楽しんでいるのが大半だ。そんな熱量がいつまでも続くわけがない。継続して燃やそうとしてくる相手を潰せばいい」


 兄の戦いが始まったらしい。

 こうして、飛行機は空港へ到着。

 報道陣が詰めかけてるっぽいけど、私は空港地下の謎の通路に案内され、迷宮省が用意したタクシーに乗り込んだ。


「はづきさん、お疲れ様です。素晴らしい成果でした。事が落ち着いたら、国からの感謝状が授与されます」


 お前らの一人だという、迷宮省のお姉さんがにっこり微笑んだ。

 

「はーい。そ、そのー。公の場に出ることになったりしませんよね?」


「出ます」


「あひー」


 とんでもない爆弾が投げつけられてきたぞ!

 ひい、公衆の面前で国からの感謝状を受け取る!!

 大変なことだ……。


 緊張するとお腹が減ってくる。


 家に帰ったら母に和食を作ってもらおう……久々にゴボウ料理が食べたいかも。


 車が走り出し、空港を抜けて我が家方面に向かった。

 おお、お台場でなんか変な集団が騒いでる。


「きら星はづきを許すなー!」「きら星はづきはデーモンだー!」「人間の中に潜むデーモンを許すなー!」


「すげー」


 私がポカーンとしながらそれを眺めていたら、運転手さんが、


「誰が恩人かも分からない方がデーモンみたいなもんだろうが」とかぼそっと呟いていた。

 その後無言。


 うーん!

 なんかリスペクトを感じる。


 途中、大型ディスプレイがくっついたビルの前を通った時。


 なんかワイドショーで私の話をやってるじゃないか。

 あひー。

 有名人……!


 深刻そうな顔をしたアナウンサーとコメンテーターの人たちが、海外の知識人らしい人とお喋りしてる。


『人に化けて社会に潜むデーモンはイギリスでも問題になってるんですよ。注意せねばなりませんね』


 なんか金髪碧眼のシュッとした人だ。

 名前は、ルシファー・グリフォンさん。

 厨ニネーム……!!


『傲慢のシン・シリーズと戦い続けているイギリスから、貴族院のルシファー議員のコメントをいただきました!』


 偉い人なんだなあ。

 私がポカーンとしている間に、タクシーはびゅんびゅん走って我が家へ到着するのだった。


 おおーっ、懐かしき我が家よー!


 待っていた両親と再会を喜び合う……というか、父のハグが強烈だった!


 うおおおー、ハグは後でしてあげるからご飯食べさせてくれー!



 

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