第131話 アンチ爆釣伝説

「ワイドショーとかまとめサイトとかツブヤキックスのトレンドに載ってるねえ」


 イカルガエンターテイメントの事務所で、受付さんとネットサーフィンなどした。

 昨日の受付さん、兄の帰還に大喜びしてダイビングハグを敢行し、華麗に避けられて地面を転がるなどしていた。

 元気な人だー。


「炎上だねえ……。私と比べ物にならない規模の炎上だわ……。でも炎上してるのはリスナーじゃない外部の人だねえ」


 ふんふん、と受付さんがうなずく。

 すぐ横で、シカコ氏がハラハラしていた。


「だ、大丈夫なんでしょうか。はづき先輩の活動に支障が……」


「出ないでしょ。今回のは完全にもらい事故だもん。それを裏付けなしで信じて騒ぐのや、視聴率や金になるから騒いでる方が悪いでしょ。斑鳩さんがバチ切れしてたし」


「えっ、斑鳩様がキレる!?」


「兄は本当に怒るとヤバいんだ……。社会的に相手を消しに行くから……」


「ひえええ」


 シカコ氏が震え上がった。

 今日、久々に登校したら、シカコ氏がやたらと心配してきたのだ。

 チョーコ氏もなぜかチラチラ私を見ていたけど、こっちはいつも通りか……。


 とにかく、学校中がざわついている感じ。

 みんなきら星はづきが気になっているみたいだった。


「はづきちゃん、リスナーを安心させる意味でも雑談配信とかをマメにやってね。アメリカ帰りで疲れてると思うけど」


「時差は18時間寝て解消したんで全然大丈夫です~」


「さっすが……」


「流石はづき先輩だなあ……。ものが違う」


「いや、シカコ氏、持ち上げるのはやめて……」


 背中がむずむずする。

 ということで、家に帰ってから雑談配信をした。


 テーマは、アメリカで食べた美味しいもの。


「お前ら、こんきらー。アメリカ帰りのきら星はづきでーす」


※『こんきらー!』『こんきらー!』『日本きたー』『おかえりー』


「どーもどーも。巷だとなんか私のことで賑やかになってるけど、いつもの感じでやってきますね。今日のテーマはアメリカで美味しかった食べ物の話なんですけど」


※『この状況で本当にいつも通りの配信が始まったw』たこやき『強い。それでこそ我らのはづきっちだ』


 みんなあえて話題にも出さない。

 なので、アメリカは揚げ物が美味しかっただの、モーニングステーキはするっと食べられるだの、そういう話題とお前らの体験談で大いに盛り上がったのだった。

 そうしたら……。


※『悪魔め! 平気な顔をして帰ってきやがって!! お前が全ての元凶なんだろう!! 消え去れ悪魔め!!』


 とかいうのが流れた。

 うわー、来ちゃったー。


 だが、そこはうちのリスナーだ。


※『変なのおる』『流せ流せ』『よし、古今東西アメリカといえば』『ハンバーガー』『チーズバーガー』『オムレツ』『ステーキ』『カウボーイ』『自由の女神』『はづきっち』etc……


 うすーいコメントが怒涛のように溢れて、変なのを押し流してしまった。

 訓練されてる!


※『変なのは一部だから気にすんな』『お前らである俺らははづきっちの味方だ』


「うんうん。人の噂も七十五日と申しますし」


※『古いことわざ知ってるなあ』いももち『ものしりなはづきっちも好き!』『こんばんは、初見です。声かわいいですね』


「あ、初見さんどうもー」


 そうしていたら、またさっきの変なのがコメントを書き込んだ。


※『こんな状況で初見なんて! 俺は登録して見ていたけど真実に気付いたんだ! こいつは悪魔……』


 というところで、いきなりコメントが消えた。

 流れていく中で消えたのだ。

 なんだなんだ。


 リスナーたちは、運営のお手柄ではないかと盛り上がっていた。

 アワチューブ運営と協力した……?

 どんな状況でも、センシティブな配信はBANする世界的に空気が読めないことで有名なアワチューブ運営と?


 ないなー。

 

 とりあえず私は、アマミバーガーがいかに美味しかったかを徹底的に力説した。

 15分くらいアマミバーガーの話だけした。


※『これは配信者非公式wikiに書かれる配信w』


 そ、そんなものが……!?

 後で確認しよう。


 一時間ほどだったけど、リスナーと交流できた。

 私がほくほく顔で配信を終えると、兄からザッコが来てたのだった。


『いい配信だった、尻尾を見せた反対派の個人情報は掴んだぞ。迷宮省に送信済みだ。恐らく……お前らであるリスナーの家族が陰謀論を発症し、勝手にアカウントを使ったものと思われるな』


「ひょえー、迷惑ー!」


『ダンジョン出現以前ならば許された発言も、現代では許されない。彼らはルールに違反した報いを受け、存分に思い知ることだろう。フ、フ、フ……』


 うわー、兄が向こうですっごい怖い笑みを浮かべてるのが分かる~。

 どうやら、私がこうして行動することで、反対派の数をどんどん物理的に減らしていくつもりらしい。

 怖い人だあ。


「そう言えばテレビもなんか外国の人を招いてやってたでしょ」


『ああ。貴族院のルシファー議員だな。彼は有名な役者でもあり、あれは芸名なのだが……今回の騒ぎの発端の一人が彼ではないかと睨まれている』


「ほえー」


『テレビ局側にも処罰が下されるだろうが……。影響力のある海外の人物が相手にいるのは厄介だな。かの国は傲慢のシン・シリーズと戦っていてそれどころではないはずだが』


 難しい話になってきた。


『とにかく、全てはこちらに任せておけ。配信者関連の法律に強い語尾がナリの弁護士も味方につけた。徹底的に戦っていくぞ』


 やる気だ……!!

 じゃあ、そういう対人関係は全部おまかせしよう……。


 私はのんびり、マイペース配信することを決めるのだった。


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