第128話 対決!きら星(食)VS色欲の大罪伝説

「あちょ!」


 空に向かってポケットに入れてあった物を投げつける。

 これは口寂しくなった時に舐める用だったキャンディ。

 極彩色で不思議な味なんだよね。


 これをマリリーヌはすいっと避けた。


『本当に当たり前みたいな顔をして戦い始めたわね……。だけど世界はどうかしら。この衝撃的な事実を知った今、あなたは世界にとっての救いの女神ではいられない! あたしのように、蔑まれ、恐れられるようになる……!!』


「あー届かない。飴もったいないなあ」


『聞きなさいよ!』


※『翻訳機能が切れとるなこれ』『Aフォン毎度いい仕事するなあ』『だがはづきっちの弱点の一つ、空を飛べないが露呈したな』『普通人間は空を飛べないだろ……』


 うんうん。

 どうするどうする。

 そう思っていたら、良さげなのがあった。


 大昔の結婚式とかコンサートで使ってたみたいな、天井から吊るすゴンドラ!


「あれだー!」


 私が指さしたら、こっちまで駆けつけてきてたビクトリアが頷いた。


「分かったわ。私、確保してくる」


「機械仕掛けのゴンドラかい? 僕はナードだがギークでもある! ちょっとマシンには詳しいんだ。こっちだ!」


 カイワレがゴンドラを下ろす装置に案内しようとして、デーモンに叩かれた。


「ウグワー! 通れない!」


『えっ、なんで死なないんだ!? 頑丈過ぎるだろ!!』


「えいっ!!」


『ウグワー!!』


 カイワレに打撃が通じなくて動揺している間に、ビクトリアに叩かれてデーモンが粉砕された。


「道が開いた! こっちだ!」


 元気なカイワレが突き進み、ゴンドラ制御装置に取り付く!

 早くおろしてきてー!


 その間にも、色欲のマリリーヌが力を使おうとしていた。


『ここまでコケにされたのは、デーモンになってから初めてだわ!! こんな気分にならないために御使いの誘いに乗ったのに!! だったらみんな、あたし色に染めて上げる!! さあ、色欲に狂え! 狂いなさい!!』


 マリリーヌの全身が紫色に光り輝いて、その光が雨のように降り注ぐ。


「あひー」


 私はパラソルを広げてこれをガードした。

 雨に打たれた他のデーモンたちは目の色が変わり、近くにいたデーモンと大変エッチなことをし始める。


「ひい、センシティブ! BANされるのでやめてください!」


 私はデーモンたちをペチペチ叩いて回る。


『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!!』『ウグワワーッ!!』


 数は多いけど、一回叩くと何人かまとめて消えるのでそんなに手間じゃない。


『ちょっ、やめろっ!? 仲間を守るんじゃなくてなんで攻撃が降り注ぐ中でこちらの手勢を積極的に減らしに来るの!?』


※『はづきっちだからな』『目先のこのモザイクゾーンを取り除こうと思ったんだろう』『おお、デーモンが全滅する……』


 すぐにセンシティブな状況は解決した。

 軍人さんたちは私のパラソルの後ろに隠れて、どうにか無事。


「だが、俺たちではもう戦力になれないようだ」「頼むぞ女神様!」「俺等はあんたがあの化け物の同類だなんて信じてないからな!」「くそっ、こんなキュートなガールにカリフォルニアの命運を賭けなくちゃならんとは……自分が情けない!! 頼む……!!」


 口々に声を掛けて、みんな撤退していった。

 いい人たちだあ。


 そこにゴンドラも降りてくる。

 私はいそいそとゴンドラに乗った。


 ゴンドラの制御はカイワレが、操縦はインフェルノが担当する。

 機械とか操作とか苦手なビクトリアは応援だ。


 私を乗せて、ウイーンと上がるゴンドラ。

 そこにマリリーヌが急降下して攻撃してきた。


『お前! お前ーっ!! せっかくあと少しで終わるところだったのに!! お前が何もかも! 台無しにした!! あたしの人生はいっつもそう!!』


「あひー! お、落ち着いて。あんまり怒ると体に悪いから!」


 鳥の爪みたいになってる足でガンガンキックしてくる。

 ひええ、人からキックされるの初めて。

 防御に使ってるゴボウ、しっかり洗って皮を剥かないと……。


『つっ、通じない!! 憤怒を片付けたのはまぐれじゃなさそうね!! 力に溺れるだけじゃなく、研鑽まで重ねてる! 才能があって努力をするやつ、大嫌い!!』


 少し離れたマリリーヌが、槍みたいなものを呼び出した。

 ハート型の槍だ!

 これであちこちから、私をつんつん突いてくる!


「あひー」


※『すっげえ速度で移動しながら攻撃してくるじゃん!』『目で追えない!』たこやき『後でまとめ動画にする時、コマ送りにしないとな』もんじゃ『たこやき、勝利を確信しているのか!?』たこやき『見ろ。はづきっちどころかゴンドラすら防ぎ切って無傷だ』


「なんか分からないけどリーダーのゴンドラがゆらゆらしてるぞ!」


「うむ。こちらも反撃だ。リーダーアタック!」


 アタック!?


※『はづきっちのゴンドラが大胆に動いた!』『ゴンドラごと体当たりとはやるなあ』『マリリーヌがびっくりしてるw』『はづきっちもゴンドラにしがみついてあひってるじゃんw』


「きゅ、急にゴンドラ動かさないでー!? あ、近くにマリリーヌ。あちょっ」


『ウグワーッ!? くそっ、くそーっ! このガキーっ!!』


「あひー」


※『はづきっちがマリリーヌをゴボウで叩いたまま持っていかれた!』『ダイナミックな空中戦だなあ』『見ろ、はづきっちの左手にはパラソルがある!』『飛行手段を確保していたか……』『いや、パラソルで普通は飛べないでしょ』


『落ちろーっ!!』


「あひー」


 一番高いところからぽいっとされた私。

 慌ててパラソルを開いた。

 するとまたパラソルがピンクに光って、ふわーっとゆっくり降下になる。


「リーダー! 今風を吹かせるぞ! このクラブには紙吹雪を舞い上げる機能があったんだ! 行け、風!!」


 カイワレの声とともに、猛烈な風が起こる。

 いや、そんな大したことはないんだけど。

 でも、なぜか私のパラソルが天高く舞い上がった。


『お、お前も空を飛べると言うの……!?』


「はっ、どうやらそのようで……あちょ!」


『ウグワーッ!!』


 なんかお互い飛んでるなら地上と変わらないので、私はゴボウを伸ばしてマリリーヌをつんつんした。

 そんな時、マリリーヌの背後からゴンドラ迫る!


『くっ、一時撤退……』


「後ろから一撃浴びせるぞ!!」


 インフェルノの叫びと同時に、ゴンドラがマリリーヌに衝突した。

 私がさっきいたせいか、まだちょっとピンクに光ってるゴンドラだ。


『!?』


 一瞬マリリーヌがつんのめったところに、ちょうど私がゴボウを差し出していた。

 自分からゴボウに突っ込む形になるマリリーヌ。


 スコン、と音がして、ゴボウがマリリーヌの頭に刺さった。


『ウッ……ウグワーッ!? こんな、こんな……! こんなことであたしが! アークデーモンを超えようとしていたこのあたしが終わる……!? どうして! 何もかも、一週間前までは上手く行っていたのに!』


「えー、じゃあそろそろ配信が終わりそうなので、スパチャ読みはホテルに帰ってからやりますね」


※『もう終わったつもりでいるぞw』『はづきっち油断はフラグだw』


「そっか……! じゃ、じゃあとどめ! えいえい!」


 ダメ押しにもう一本ゴボウを取り出してサクッと刺す。


『ウグワーッ!!』


 マリリーヌは一声叫ぶと、光になって消えてしまった。


『あわ、あわわわわ!!』『まずいまずいまずい!』『大罪勢が残り半分になっちゃった!』『あのお方に報告だ!』『やばいよやばいよ、大罪勢の力を使って配信するとか反則だよ』


 なんか目に見えないのがウワーッと飛び散っていった。

 なんだなんだ。


 でも、今はそんなことよりも……。


「お腹が減った……。ひと仕事すると本当にお腹減るんだよねえ。あ、ちょうどいいので飴玉食べます」


 コメント欄に報告しながら、私は風で舞い上がってきた極彩色のキャンディを、包み紙から取り出して口に放り込んだ。

 もごもごしながら、ゆっくりパラソルで床へ降りていく私。


 クラブは消滅し、見上げると空は急速に雲がなくなっていく。

 青空だ。

 それに、ピットフォールが持ち上がり、元のカリフォルニアに戻っていくみたい。


 避難していたみんなが集まってきた。

 わあわあ言っている。


 うんうん、みんな元気で良かった。

 後で美味しいお店を教えてくれれば、私は満足なのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る