第246話 空をドラゴンが飛んだ日伝説

「もともとバードマンはドラゴニュートっていう存在なのは知ってると思うけど」


「なんか初耳な知識を前提にして話し始めた」


 あの後、スタジオでレッスンなどやってから、みんなでご飯しようということになったのだった。

 エアコンの効いたファミレスで、わいわいとタブレットのメニューを覗いて、あれにしよう、これにしようとみんな騒いでいる。


 この中でただ一人男性であるトリットさんが、対面の私に向かって妙な事を言ってきたのはその時なのだ。

 私はもう、タンドリーチキンとビリヤニ定食のキングサイズで決まってるもんね。


「僕らって手足の他に翼があるでしょ。始まりがそもそもドラゴンなんだよね」


「ほうほう。ドラゴンってあの、翼があって手足があるやつ?」


「はづき先輩がちゃんと人の話を聞いて会話してる!」


「でも師匠の返答内容が、事前にトリットさんが話したまんまだよ」


「はづきちゃん、天然なところがあるもんね」


 なんだなんだ。

 なんで会話に注目されているんだ。


「……なので本題は、僕はどれだけモミジを愛していても、種族が違うので結ばれないということなんだ」


 天を仰いで嘆くトリットさん。


「直結厨~!」


 ぼたんちゃんがなんか目を吊り上げて、横のもみじちゃんを抱き寄せた。

 守護らねばならぬ、と思ったのかしら。


「ちなみに僕らと同じ系統の人類なのは、ケンタウロスなんだよ」


「ほえー!」


 私は意外な話に、素直に驚いた。

 バードマンとケンタウロス……確かにどっちも六本の手足があるもんね。

 つまり……。


「そう。ケンタウロスもドラゴンの子孫であるドラゴニュートの一種なんだ。あ、僕がこういうの詳しいのはね、僕は実は向こうだと学者だったので……」


「学者!! 頭がいいんですねえ」


「それほどでも……。どれだけの知識があっても、ハヅキのゴボウのように人々をすぐには救えないからね」


 他にドラゴニュート属には、アンドロスコルピオとアルケニー、マーマンとマーメイドが存在する……みたいな話を聞いた。

 この種族の間では子どもが作れるんだって。

 ほえー。


「じゃあ瀬戸内海の方にマーマンとマーメイドの人たちが出てきたんで」


「うんうん、ブリッツと一緒に会いに行きたいね」


 ブリッツさんというのは、トリットさんの相棒のケンタウロス男子。

 私が中部地方で出会った異種族なのだ。


 ということで、ご飯が運ばれてきました。

 Aフォンっぽい技術を応用した配膳ロボットで、犬の絵文字みたいな顔がついてる。


『お待たせしましたワン』


「きたきた!」


 みんなで楽しいお食事タイム。

 カナンさんは天ぷらうどんを食べていた。

 おお、麺をすする腕が向上してる。


 あと、やっぱりあっさり味が好きらしい。

 若いトリットさんはイカフライとポテトフライとナンコツからあげと鶏唐揚。

 小皿ばっかり!


「種族的に僕らバードマンは、一口で食べられるものを好むんだよね。体重のコントロールもその方がしやすいでしょ。重すぎると、魔力を余計に使って飛ぶことになるから」


「ほうほう」


 面白いなーと思いつつ、私はビリヤニをもりもり食べた。

 十分程でキングサイズのタンドリーチキン&ビリヤニ定食が消えたので、私はドリンクバーを入れにカウンター近くまでやってくる。

 すると、外がなんだか騒がしい。

 みんな空を見上げてワイワイ言ってる。


 ウエイトレスさんも外に出ていて、呆然と頭上を見ていた。

 なんだなんだ。

 私もちょっと出てきてみる。


 そうしたら……。


 大体100メートルくらいの高さを、大きな物が飛んでいるのだ。

 翼があって、手足があって、尻尾があって。


「ド、ド、ドラゴンだあ」


 それは、緑色の西洋風ドラゴンだった!

 ゆったり悠然と、空を舞う……みたいに見えるけど。

 なんか妙にせわしなく、小刻みなターンをしながら空を飛んでない?


 あ、自衛隊が飛んできた。

 空でドラゴンがビクッとした。


 そして慌てて地上に降りてくる。

 私のすぐ近くだ。


 そこを通ろうとしていた車が急ブレーキ。

 この音にもドラゴンはびっくりして、着地を失敗した。

 頭から落ちる。


『ウグワー』


 なんか叫んでる叫んでる。


「だいじょうぶですかー」


 私は慌てて駆け寄った。

 ドラゴンは頭から尻尾まで、多分25メートルくらい。

 頭だけで私と同じくらいあるのでは。


『あいたたた……。こ、ここはうるさくてわちゃわちゃしていて恐ろしい世界だ……』


「あ、元気。あの、あの、大丈夫です? 頭打ってないですか?」


『大丈夫だ。わしはグリーンドラゴンだからな……。人間の娘に心配されるとは、焼きが回った……あっ!! なんか凄い魔力を秘めた娘! 魔将か!? いや、だが魔将はこんな不思議な香りを放っておらん……』


「さっき食べたビリヤニとタンドリーチキンですね。美味しかったー」


『なんかおぬしと話していると気が抜けるのう……。そうか、この世界はわしが飛び回るには狭いのだな……。仕方ない』


 しゅるしゅると音を立てて、ドラゴンが縮んでいった。

 彼は3mくらいの小さいドラゴンになり、よっこらしょ、と立ち上がる。


『わしを頭上で押さえつけていたバルログめが死んだから、何事かと思って出てきてみたら……。一体これはどういうことなのだ……? あのうるさいのに次々追い立てられて、ここまで飛んできてしまった』


「ははあ、詳しい話はファミレスでしましょう。私もびっくりしちゃってまたお腹が減りました……」


『話が通じているようで通じていないような娘だなあ……』


 こうして、ドラゴンの人を伴ってファミレスに帰ってくる私。

 席が一つ足りないから、ドラゴンの人はお誕生日席で座っていてもらおう。


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