第245話 男性配信者候補はバードマン!?伝説

 事務所にやって来たら、ちょうど頭の上をバードマンの人が飛んでくるところだった。

 私が山梨で会って、なんか意気投合してイカルガに就職することになった、トリットさんという人なんだよね。


 バードマンは青い翼を羽ばたかせ、手を伸ばして窓を開け、するっと入っていった。

 そうそう。

 翼に腕に足があるので、六本足の生き物ということになるのだ。


 二階に上がったら、廊下のエアコンの下でフィーっため息をついているトリットさんがいた。

 髪の毛は黒、半ばからが青い羽毛に変わってる。

 外見は小柄で細身で、割りと日本人に近いかも?


「あっ、ハヅキ~。いやあ、この世界の夏は暑いねえ……。風の魔法で体を覆っても、ぬるくなるだけなんだもん! 蒸し鳥になるかと思った……」


 エアコンの風を、翼をはためかせて自分に送っている。

 ちょっと遅れてカナンさんも登場し、「何をだらけているんだトリット」と注意した。


「あぁ、カナンおばさん! いや、これはね、僕らバードマンは体温が高いからなおさら暑くて」


「言い訳にならないでしょう! ここはカイシャよ。しゃきっとする。ダラダラしていいのは家だけ!」


 カナンさん、私の家だとダラダラしてるもんね。

 このままではダメエルフになってしまう、とか毎日呟いてる気がする。


 ちなみに、トリットさんとカナンさんは顔見知り。

 ファールディアで魔王に対抗するため、種族を超えたレジスタンスみたいなのをやってたらしい。

 まあ、たまに手を組んで戦うくらいのゆるい関係らしいけど。


 で、カナンさんはトリットさんが生まれたときから知ってるので、おばさんと呼ばれる関係なんだと。


「三人とも来たか。実にいいタイミングだ」


 兄が事務所からひょこっと顔を出した。

 タオルを首に掛けて、Tシャツ姿なので多分朝シャワーを浴びてきたんだと思う。

 昨夜も泊まり込みでしたか。


「一昨日、うちのはづきがトリットくんを連れてきてくれたことで、ついにイカルガは新しいフェーズに入ることができる算段がついたのだ」


「ほうほう」


 兄がまた何か企んでるなあ。


「イカルガエンターテイメントと言えば、アイドル性の強い女性配信者をメインとしていたが」


「アイドル性が強い……?」


 兄よ、何か考え違いをしていないだろうか……?


「そこについに男性配信者を擁することができるようになる。今までとは違う新たなファンを得られるだろう……」


 あー、兄の配信に来るリスナーさんと、私の配信に来るリスナーさんぜんぜん違うもんねえ。

 うちの配信は、私より年上の男の人達か、年下の男子女子だもんね。


 そしてアンチは女子がすっごく多い……!

 あと、配信者界隈でどこでもブロックされてる荒らしの人が、うちの配信だと大人しい。

 噂だと、私のアメリカ配信を見て感動し、猛烈な信者になったとか……?


 どういうことか。


「まあ、うちのはづきのリスナーは全くタイプが違うが。今後はトリットくんをデビューさせ、女性人気を狙いに行く」


「おおー」


「?」


「女の子が僕の配信見るの? 種族違うのに見てて楽しいの?」


 トリットさんが首をかしげている。

 見た目がきれいな感じの人だし、人気は出ると思うなあ。


 流石にバーチャライズしても翼部分が隠せないので、この人は普段からこのままの姿でやる予定。

 昔ながらの配信者スタイルだね。


「最終的には女性七名、男性三名くらいでだな……」


 私、ビクトリア、もみじちゃん、はぎゅうちゃん、ぼたんちゃん、カナンさん、ファティマさんで七人。

 兄、トリットさんで二人。


 あと一人かあ。


「俺を計算に入れたな……? 俺は入れないぞ……。社長だからな」


「そうなの? ファンがたくさんいるのに」


 兄はあんなあちこち顔を出してて、まだ引退してる気分なのだ。

 しばらくそんな話をしてたら、もみじちゃんがやって来た。

 なんか新しい曲を出すらしくて、ごきげんな鼻歌が聞こえる。


「かわいい女の子の予感!」


 トリットさんが飛び出していった。


「おー! かわいい! 君がバードマンだったら僕は即座に求婚してたのに!!」


「はひー!?」


 なんか声が聞こえるなあ。


「異種族だから男女関連は全く問題がない。実に安全な男性配信者だ」


 兄がなんかいい笑顔をしている。

 現役時代に受付さんとの問題で炎上したりしてたもんねえ……。


 ちなみにもみじちゃん、異種族の人たちからの受けがいい。

 バーチャライズするとエルフになるし、小柄でキュートな感じだしで、ドワーフやハーフリングやバードマンの人からの受けもいいのだ。


 ケンタウロスの人ははぎゅうちゃんが好きそうね。


「ウグワーッ」


 あっ、なんかトリットさんの悲鳴が聞こえる。

 見に行ったら、もみじちゃんを守るはぎゅうちゃんとぼたんちゃんに、ポカポカ叩かれていた。

 友情パワーには叶わないね。


「なんてガードだ……!! だが僕は、いつか君をバードマンにして求婚する……!!」


「異種族だが男女関係で問題があるかもしれないな。ここは気をつけてプロデュースせねば……。トリットは後でコンプライアンスを叩き込んでやる」


 兄がなんか難しい笑顔になった。

 トリットさん、ちょっとプレイボーイっぽいもんね。


 それにしても……イカルガも賑やかになってきたなあ……。

 スタートは私一人だったのに。


「ハヅキ、なんで腕組みしてうんうん頷いているの?」


「妙な満足感に包まれてしまって……打ち切りエンドならここがいい区切りだよねえ」


「何を言ってるの?」


 不思議そうなカナンさんなのだった。

 そういうお約束みたいなもんなんです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る