第502話 年末、ちょっとしたひと仕事伝説

 大晦日。

 二学期の終業式も終わり、配信ぐらしをしていたらあっという間にやって来ましたよ。

 で、今日は収録した動画を流して、私自身はお休みかなーとゴロゴロしていたら。


『はづきさん! 種子島の宇宙センターから連絡が! 大気圏外に複数の飛翔体反応が……』


「あっはい」


 なんか来た!

 ということで、私は大晦日の昼の内に仕事を片付けておくことにしたのだった。


 一階でテレビを見ながら、両親と一緒にお茶を飲んでたベルッちを連れ出す。


『まだ仕事あるんだ? 宇宙? ほいほい』


 さすがは勝手知ったる私の分身。

 あっという間にツブヤキックスやピンスタグラムで配信の予告をして、枠を建ててしまった。

 さすがー。


『よし、あいはぶこんとろーる!』


「ゆーはぶこんとろーる! ゴーゴーゴー!」


 そんな訳で、我が家の窓から飛び立ちますよ!

 初速はのんびりなので無音だけど、途中から猛烈に加速する。


 いやあ、単独で宇宙に飛び上がれるようになっておいて本当に良かった。


 ちょっと飛んだら、辺りが青空から宇宙の色に変わっていった。

 重力が少なくなる~。


 そしてそして、宇宙へ。


『エーテル宇宙は呼吸できるから便利だよねー』


「うんうん。でも、かなり同接がいる配信者じゃないとできないらしい」


『ほんと!?』


「らしいよー。ケイトさんが研究結果を教えてくれた! 同接が増えることで、配信者は身体構造が変化するんだって」


※『いきなりシームレスに始まったと思ったら』もんじゃ『非常に学術的に重要な事にさらりと触れられた気がするな……』『こんきらー!』


「あっ、こんきらー! 大晦日はお休みするつもりだったんですが、外宇宙から侵略者が来たっぽいんでサクッとやってきますね! 見ててくださーい」


※『いきなり全地球の危機みたいな話をしだしたぞ』『ちょっと近くに買い物に行くみたいなノリでw』


 私はベルっちと入れ替わり、翼だけ生やしてもらって巡航形態になる。

 この状態だと自動車位の速度しか出ないけど、まあ十分でしょう。


 周囲には光るものがプカプカ浮かんでいて、辺りの人工衛星を取り込んでいるところだった。

 なんだなんだ。


 光ってるものはこっちを認識して、何か電波みたいなのを送ってきた。

 エーテル宇宙は電波や音波に応じて波紋みたいなのが生まれるんだよね。


『我々はオーバーロード。魔王マロングラーセの脅威を退けたこの惑星に調査のために訪れた。結果、中程度発達の文明を発見。なぜマロングラーセを退けられたかは不明だが、惑星の状態は良好。これより大気を塩素基準に改造し、我らのリゾート惑星として使用することを決定した』


※『友好的な宇宙人かな? と思ったら言葉が通じて意思疎通できない系のバリバリの侵略者じゃんw!!』『最悪なのが来たぞ!』


「塩素は呼吸できないのでノーサンキューですー」


 私が断りの意思を見せると、向こうが驚いたようだった。


『言葉が通じるのか! いや、あの原生生物の周囲を回る小型端末の力だろう。正体不明な力の波動を検知した。これよりサンプルとして採取する』


「あひー、この人たち言葉が通じません! 話し合いで解決はできませんねえ……」


 仕方ない、ゴボウでオハナシするかあ……と私が思った時。

 アメリカ辺りから何かがゴゴゴーっと上がってきた。

 それは、アメリカの人工衛星を取り込もうとしていた光にぶつかると、それをパカーンと割った。


『ウグワーッ』


『端末25433!! 馬鹿な、この辺境宇宙にオーバーロードの端末を破壊できる者が存在しているなど』


 なんか言ってる。


「ところであれはなんでしょう!」


※『鳥か!?』『ロケットか!?』『いや、メカはづきっちだー!!』『再会早かったなー!』


 オーバーロードという人たちの端末を割った、メカはづきっち。

 彼女はこっちを見つけると、ビューンと飛んできた。


『お久しぶりですオリジナル。これは地球を守る戦いですね。解放の女神として、見過ごしてはおけません。私も参戦します』


「まだ始まってなかったんだけど、メカはづきのお陰で完全にやるしかないモードになったよ」


※『話が早いw』『うおおおやっちまえー!』『いやあ、話の規模が大きくなって参りました』


「まあ、大晦日は寝て過ごす予定なのでサッとやっつけちゃいますが! ゴボウしょうかーん!」


 流石に時期が時期なので新鮮なゴボウではなく、バーチャルゴボウが出てきた。

 でも、バーチャルだって大したものなんですよ。

 これはver5.0です。


 機能は……。


「あちょー!」


 ぶんぶん私が振ると、両端がピカピカ光った。

 LEDが仕込まれてて、アクションに合わせて『ブォンブォン』と音がして光る!

 どこかのおもちゃのパロディでは……?


 だけど、その機能が同接数で増幅されると……。


 前と後ろに、ものすごく大きな光の刃みたいなのが伸びた。

 オーバーロード?がなんかビームみたいなのを出してきてたんだけど、これが光でスパッと斬られる。


『ブラスター光切断!? 意味不明、意味不明、意味ウグワーッ』


 ついでにオーバーロード?もパカッと切った。

 何機もいるんだけど、私の光は地球を避けて月ギリギリの距離まで伸びるっぽく、これをぶんぶんやったらどんどん落ちていく。


『危険、危険。単体で端末を凌駕する超越存在。端末集合。合体攻撃を仕掛ける』


 残った光るものが集まってきた。

 これが一つに……。


『ゴーゴーゴーゴーゴー』


※『メカはづきっちが行った!』『はえー!』『飛んだあとに光の軌跡が見える!』『戦闘方法、もしかして体当たりしかない……!?』


「ゴボウ持ってませんからね」


 私とお前らの想像通り、合体したオーバーロード?に追いついたメカはづきが、突き出した拳からガツーンとぶつかった。


『ウグワーッ』


 一度合体したのに、ばらばらになる光るやつ。

 これを私が、ぺちぺちぺちっとバーチャルゴボウで壊していった。


 メカはづきも光るものに取り付き、チョップで割ったりしている。

 途中、ベルっちも分離し、光るものをパカスカ落とし始めた。


※『うおおおおお三大はづきっち揃い踏み!!』『地上最大……いや、宇宙最大の決戦!』『大晦日にいいもの見れたなあー』


『現状飛び道具は使用できませんが、ステイツが私にアメリカンGOBOUのスタチューを用意してくれるそうです』


「おー、パワーアップの予定あり!」


 楽しみだねーとよそ見しながらバーチャルゴボウを振ったら、最後のオーバーロード?が『解析不能、解析不能、マロングラーセを退けた惑星に、魔王に匹敵する個体あり。端末群では対抗不能。攻撃強度的に本船でも危険。静観を提案。静観を提ウグワーッ』


 ピチューンと爆発してしまった。

 スペースデブリになることなく、光みたいなのに飲まれて消えるんで、とてもエコですね。


『流石ですオリジナル。しかし私もきっとあなたに追いつくでしょう』


「私はその頃には普通の一般人に戻ってるかなー」


『ハハハ、ナイスジョーク』


 メカはづきが無表情のまま肩をすくめるのだった。

 解せぬ。


 こうして私達は帰還する。

 なんかよく分からなかったけど、宇宙にはまだまだ脅威がいるんですねえ!


 いや物騒物騒。

 だけどそんな問題は大晦日からのお正月ゴロゴロコンボを決めてから考えましょう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る