第444話 傾聴、カンナちゃん配信伝説

『マロン様』


『あによ』


『バイト情報検索を一度止めて話をお聞きください』


『なんだってのよ』


『ゴボウアースが明確に我らに敵対して参りましたぞ。勇者パーティとやらはなかなか強力です。こちらも、欠けた魔将を補充するなりせねばならぬのではありませんか』


『ははーん』


 マロングラーセは少し考えた。

 そしてスマホに移る、バイト検索アプリを見てひらめく。


『あたしらも魔将の募集かけよっか! バイト情報出そう!』


 そういうことになったのだった。

 かくして、一日六時間労働、福利厚生完備、時給1700円での魔将バイト募集が開始されるのだった。



 ※



『なんか変なのがあるぞ師匠』


「どしたのスファトリーさん」


 今日はスファトリーさんのお部屋に来ています。

 暇だったカナンさんもお誘いしたらホイホイついてきた。

 フットワークが軽い。


『アットホームな職場で、あなたの能力を発揮してみませんか、こちらであなたの適性を見極めて増幅し、一人前に育成します! ダンジョン運営、マロン企画だそうじゃ』


「ほんとだ! 変なのがある! ダンジョン運営……?」


 謎なのだ。

 でも、正規の手続きで掲載されている応募らしいから、なんか意味があるのかもね。


「二人とも。カンナのコーチングが今日も始まるぞ」


 カナンさんが言ったので、私達は画面の前に集まった。

 今回の配信はテレビ画面で拡大して見ております。


 眼の前には、飲み物とお菓子。


 本来なら私が指導に行くはずだけど、あまりにも私のやり方は独自なので参考になりづらいらしい!

 なので、カンナちゃんが私のやり方を噛み砕き、理論化して伝えてくれる。


 そうそう、彼女は物凄く強力な配信者になっている!

 なうファンタジーでも上位じゃないかな。

 聖剣カンナブレードは幾つか必殺技もあるしね。


『ダンジョン攻略をしながらやってまいりましょう。最近はダンジョンがまた増えて来ましたわね。でも、強力なダンジョンがわかりやすくなっているのは助かりますわ』


 ダンジョン増えたよねー。

 大魔将がいなくなってからグーッと減ったと思ったら、また私がデビューした当時くらいの数まで回復してきた。

 初心者でもイケるへっぽこダンジョンも多いけど、やっぱり人が集まる場所に発生するダンジョンは強力だ。


 今回はタリサ、ユーシャちゃん、モリトンとゼルガーコンビを連れてのダンジョンコーチング。


 タリサの課題は、多芸多才で、多様な戦い方を駆使するからこそ、リスナーがこれぞタリサちゃん!みたいなイメージを持ちにくいということだった。

 なので、登録者数の割には決定力がないと。

 ユーシャちゃんの場合は新しい攻撃でも、大変ヒロイックで視覚的にわかりやすい。

 だから威力が出やすいんだそうだ。


 なるほどねえー。

 カンナちゃんは的確だなあ。


『わらわなどその場その場で魔法を使っているが、それなりに威力は出るがな』


「スファトリーはマスコットの姿をしているから、それそのものが切り札みたいなものだろう? 私は最初のエルフ配信者というアドバンテージを使い、やはり自分自身をアイコン化して威力を高めている」


「みんなそれぞれだよねー。特化した方がキャラが立って、キャラが立つほど強くなるのは確かに~。おや? ではどうして私はこんな高さまでやってきているのだ……?」


『師匠はキャラが濃いからなのじゃ』


「はづきほど濃い人は少ないでしょ」


 なんですって。

 ええい、この話はやめ!

 配信視聴に戻ります。


「えーっ、タリサがキャラが立ってないの!? だってタリサはこんなに強いし、かっこいいでしょ!」


「確かにタリサは強いし目立つけれど、それだけに対策が取られやすいんじゃないかな。決定力のなさはその通りだ。全ての攻撃が決定打になりうる、というのはFPS系の配信者の特徴だけど、象徴となる攻撃がないというのも特徴だ」


 モリトンくんが厳しいことを言っている!

 確かに、ゼルガーにまたがって放つ彼の一射は特徴的な一撃だもんねー。

 ゼルガーの突撃もそうだし。


 ユーシャちゃんなんか、アニメの勇者っぽいキャラの戦い方をするので、それそのものが必殺技のアイコンみたいになってる。

 これは強い。


「つまり、タリサさんの特徴は、一般的なモンスターに対しては無敵の戦闘力を誇りますけど、弱点を突かねば攻略困難なボスモンスターに関しては決定打がないということになりますわ」


「ぐうー、た、タリサばかりダメ出しされてる気がする!」


「それだけ期待されているんだと思う!」


 ユーシャちゃんが励ましてる!

 いい子だなあ。


『登録者数も多いですー。必殺技を身につけたらぐんと伸びるですー』


 なんかドローンのアフームたんにまで励まされている!!

 タリサちゃんはやる気になったらしい。


 今回のダンジョンでは、必殺技の開発をするんです?

 どうやらそうらしい。


 特徴的な技みんなで使っていって、リスナーのみんなに覚えてもらうんだと。

 この勇者パーティ配信は、いろいろな配信者さんたちもみんな見ていて参考にしている。


 今後のための知恵とか技術が詰まってるもんねえ。

 大いに活用して欲しい。


 個人配信者はとにかくたくさんいるんだけど、そのうちの大半は自己満足でやってて成長そのものが目的じゃないのだ。

 で、こういう配信を見たりして勉強する一握りの人たちがぐんぐん伸びる。

 更に、その中から運よく見出された人たちが跳ねる。


 あるいは伸びたところを、企業に応募して企業系配信者に転生、ぐぐーんと伸びる人もいるのだ!


「私はかなり配信者に詳しくなった……」


「最近のはづきはどちらかというと外部の人間みたいなムーブをしているからね」


『師匠、引退後の身の振り方が決まったのじゃ?』


「いやいやいや、まだ十代のうちにそこまで決める気は……」


 ちなみに本日の配信、タリサが編み出したのは、相手に飛びかかってからのゼロ距離連射みたいなのだった。

 やればできるのだ!

 磨き上げて欲しい……。


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