第443話 配信漬けの青春でいいのか伝説

 このままでは、高校最後の一年が配信だけで終わってしまうではないか!!

 私はハッとした。

 そろそろ6月になる頃合いなのだ。

 今月が終わったらもう夏休みじゃないですか……!!


「私は心を入れ替えました」


「一体どうしたんですー?」


 教室で私の前の席に座っているのはもみじちゃん。

 本来はぼたんちゃんの席なのだけど、彼女がちょっと外に出ている間、ここを占領したのだ。


「いかに地球の一大事とは言え、貴重な高校生としての最後の一年を配信だけで使うのはなんか違うなーって」


「おおーっ、先輩からしか出てこない言葉だねー。スケールが大きいー!」


「もみじちゃんだって実力的には色々期待されてる感じでしょ」


「そこは先輩が上手くイカルガごと回避してくれたお陰で、自由にやっておりましてー」


 そうだった。

 イカルガエンタのメンバーがオーディションに挑んだら、上位を埋め尽くしそうな霊感が働いた私。

 イカルガのみ参加不可としたのだった。


 やる気満々だったバングラッド氏は大変残念そうだった。

 あなた、元魔将なのに魔王と戦うの楽しみにしてたんですか。


「イノシカチョウはプライベート大事にしながらも続けてるの偉いよねえ」


「うちらは先輩の作ってくれた大きな傘に隠れてるだけなのでー」


 謙虚な物言いのもみじちゃんだけど、実は登録者数二百万人を突破したのを私は知っているぞ……!

 めっちゃ注目されてるんだから。


 ただ、配信頻度は週に二回くらい。

 お菓子作りがメインで、たまにダンジョン配信。


 このたまーにやってて、出会えるとラッキーでほっこりする……くらいのがちょうどいいらしい。

 そして他の箱(配信者会社)の配信者ともちょこちょこコラボしてて、配信外で見かけることも多い。


「これくらいのペースだと無理がなくてー」


「なるほどー。私もそれを目指してみようかなあ」


「先輩は厳しいと思いますねー。それ以前に世界が危なくなる……」


「やはり」


 どうしたもんかなあと考えていたら、ぼたんちゃんがはぎゅうちゃんとお花摘みから戻ってきて、占領されてる席を指さして「ウワーッ」とか言っていたのだった。


 その後、帰りにみんなで駅前のオシャレな喫茶店などに行き。

 呪文みたいな注文をしてアイスコーヒーをゲットした。

 最大サイズが欲しいけど、目立たないように最大からイッコ下で我慢……。


「今のシステムとかは、はづきちゃん一人に全部頼る異常な形をしてるでしょ。そういうのって良くないと思うから、勇者パーティは凄くいいと思う」


 イノシカチョウの頭脳、ぼたんちゃんの分析です。


「師匠はなあ。頼まれれば行っちゃうし、どこかが致命的な状況になってたら颯爽と登場するし。それで本当に解決しちゃうし。頼りたくなるのは分かるんだけどねー」


「はづきちゃんにも人生があるんだもの。人類ははづきちゃんに頼りすぎ」


「おお、まるで上位存在のような言葉を……」


 私は感銘を受けながらアイスコーヒーをごくごく飲んだ。

 ガムシロとミルクがたっぷりだ。

 今日はヘルシーに行く。


「先輩が勇者パーティをコーチングしきったら、自由になる感じ? あ、でもその頃には魔王と戦ってるかあ……」


「そうなったらはづきちゃんが出ないわけにはいかないものねえ」


「難しい問題だよね。あたしたちで師匠をサポートしないといけないね」


 うんうんとうなずき合うイノシカチョウなのだった。

 頼もしいー。

 持つべきものはクラスメイトな同僚!


 なお、最近のビクトリアは本当に芸能活動で忙しく、配信がちょっと減ってきてる事を悩んでいるのだった。

 夢が叶いすぎてしまったねえ……!

 劇場版のヒロイン内定おめでとうございます。


 あっちの業界は、売れ始めるとあらゆる作品に出るようになるからね。

 今はどのゲームをやっても、どのアニメを見ても、ビクトリアの声が聞こえてくる気がする……。


 彼女が配信の一線から身を引く形になったので、イカルガのトップ体制は大きく変わった。


 実力的には、私の下にバングラッド氏。で、なんと並ぶ形でもみじちゃん。

 その下にスファトリーさんとぼたんちゃんとはぎゅうちゃん。

 そこからは団子かなー。


 カナンさんがちょっと強いかも。


「あっ、師匠! カンナ・アーデルハイドさんが勇者パーティの指導してる」


「こんな夕方に配信を!! なうファンタジーの仕事でも忙しい人だもんねえ」


 今や登録者数九十万人になっているカンナちゃん。

 私の手が回らない時に、色々やってくれているらしいんだけど……。


 さてさて、どういう事をやっているんでしょうか。


『はづきさんの強さの秘訣はですね、タイミングです。誰か来てくれー! というタイミングで登場する。ただ、これは天性のものだと思うので。もっとすぐに再現できる要素を説明しますわね』


 画面の中のカンナちゃんがゴボウを取り出した。

 そうしたら、ゴボウがうっすら光る。


『はづきさんと関係性が深いわたくしが使うと、ゴボウは特別な意味を持ちます。配信は同接数だけではなく、人々が認識し、共有する物語によってその強度を増していくのですわ。数々の配信で使われ、多くの難敵を討ち滅ぼしてきたゴボウ……。これは既に聖剣と言ってさしつかえありませんわね』


『あたしたちにゴボウを使えってこと?』


 シェリーがいい質問した。


『いいえ。皆さんは、皆さんの持つ技や能力を、あまり多彩すぎない程度にきちんと使って視聴者の方々にアピールすべきですわ。皆様の戦闘力は、同接だけで言えばわたくしよりも上ですけれど……。この物語を使った繋がりで、力は何倍にも跳ね上がりますの』


 ほえー、勉強になるなあ。


「張本人のはづきちゃんが何を感心してるの」


「いや、カンナちゃんいいこと言ってるなーって思って」


「はづきちゃんとずっと一緒に活動してた人だもの。きっと、あなたをずっと見てきて考えてきたんだと思うわ」


 実際に画面内では、ゴボウを使ったカンナちゃんが、本来なら圧倒的格上のはずのタリサといい勝負をしていた。

 魔法を使って牽制しつつ、タリサの射撃や突進をゴボウでいなす。

 その瞬間だけゴボウが光り輝いて、タリサの力を完全に受け流すのだ。


『どうして!? 全然押し込めない!』


『タリサさんは様々なことができますわ。だけど、アイドル性みたいなものがタリサさんに集中していて、あなたのアクションひとつひとつがあなたの付属品でしかありませんの。何か、自分と並び立つような要素を作り上げる必要がありますわね』


 タリサはいい感じで分からせられる役が上手いなあー。

 実力だとトップクラスなんだけど、鼻っ柱が強くて自信家なので!


 将来のことを考えるつもりが、すっかり配信に見入ってしまう私なのだった。


「先輩はもう職業病だなあー」


 そうかも知れない。


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