第241話 炎の魔将はゴボウを焼けない伝説
もりもりとダンジョンを潜って行きます。
道筋はゴズモックさんが詳しいらしくて、案内してくれるので楽ちん。
なんだかんだ、ダンジョンは迷っちゃうのが大変だもんね。
「こっちだな。わしらが作った標識がある。ダンジョン化してもサイズが大きくなるだけで、構造があまり変化せんらしい」
「えっとですね、複雑な構造の建物をダンジョン化すると、部屋がたくさん増えてダンジョンになりますねー」
「おうおう、そういうことよ! つまり、新しい道を増やしたりする事ができんのだな! ダンジョン化はひたすらその数と量が増える! そういうわけだ!」
つまり、十分に複雑だったゴズモックさんたちの坑道があって、そこがダンジョン化してこっちに持ってこられた……みたいなことのよう。
で、複雑なんでダンジョンもそれ以上手を加えてこない。
スケールだけをグーンと広げることにしたみたいだ。
※『次々明らかになる新事実』『はづきっちの配信がやめられないのは、ちょくちょくこういう世界の真相に迫るみたいな話が出てくるんだよな』『だが今回もあまり話を理解していないきら星はづきさん』
「ん? なんか私の話した?」
私は話は聞いているのだ。あんまり分かってないだけで。
「ううっ、あなぐらは落ち着かないな……」
カナンさんが不安げだ。
エルフだもんねえ。
配信者デビューしたら、屋外系のダンジョンをメインで活動しようねえ。
炎のモンスターがどんどん出てきた。
燃える謎の動物、フレイムビースト。
燃え上がる牙と爪で攻撃してくる恐ろしい怪物なんだって。
「あちょっ」
『ウグワーッ!!』
「なんと、野菜で炎を叩き消した!?」
「ハヅキはそういうことするわね……」
※『ゴボウ万能説』『聖剣みたいなもんだからな……』『見た目がショボいだけで、現行の人類側最強武器だぞw』
魔将バルログの眷属、フレイムモンキー。
壁面を自在に駆け回り、燃える体で飛びかかってきたり炎を吐いてきたり。
「ヒャッハー! クロスボウが火を吹くぜえー!! 火炎放射器は安全上の問題で国から許可が降りなかったんだぜえ」
パシュパシュとクロスボウでフレイムモンキーを撃ち落とすチャラウェイさん!
そうだねえ、火炎放射器は危険だからね。
この国の配信者は、安全に配慮されたおもちゃみたいな武器でダンジョンと戦っています!!
※『世論がなw』『いい加減俺らリスナー世代がメインになりそうなもんだが』『まだまだ配信見てない世代の勢力は強いぞ』『配信者がどんどんテレビ出るようになればまた違うんだろうな』
世代間問題みたいなもんだからねえ。
難しいなあ。
こうして私たちは快進撃を続けた。
まあ、立ち止まらないでどんどん最短ルートを突き進むんだから、すぐに終わりが見えてくる。
「あそこじゃ! でかいやつがおるだろう! あいつがバルログだぞい!!」
ゴズモックさんが叫んだ。
なるほど、ダンジョンの一番奥辺りは広い部屋になっていて、あちこちでマグマみたいなのが吹き出してる。
地面からは石のテーブルがたくさん突き出してあるのだけど……。
「わしらが鍛冶仕事をするいちばん大事な部屋だな。そこをよりにもよって玉座っぽくしておるのだ! なんたる冒涜か」
『カカカカカカカカカ!!』
ゴズモックさんの言葉を聞いて、玉座に座った大きい人が笑った。
なんか炎に包まれてて輪郭がよく分からない。
角が生えてて、三つ目のジャガーみたいな頭をしててマッチョで、燃え上がる大きな鎌を持っていることだけ分かる。
『誰かと思えば、オレが遊んでやったドワーフと現地の人間ではないか。なんだ、また遊んでほしいのか? オレは一回目は手を抜くが、二回目は必ず殺すぞ』
ゆっくりと立ち上がるその人。
※『久々にめちゃくちゃ強そうなのが来たな!』『バングラッドもかなり強そうだったけど、あいつは今じゃVRに常時いる名物NPCだからな……』『こっちは遊びがなさそうだぞ!』『チャラウェイと八咫烏が揃ってても倒せなかった強力なモンスターだ』『はづきっち気をつけてー』
「お? あ、はい、気をつけます」
『!?』
私はその人が喋ってる間にトコトコトコっと歩いて、もう目と鼻の先にいるのだった。
※『どんどん魔将の表示が大きくなると思ったらw』『話の途中で戦闘距離に入るんじゃありませんw!』『魔将めっちゃ驚いてるやん!!w』
『オレの発するデーモンフィアーが通用しない……!? そうか、テメエがバングラッドの言っていたきら星はづ』
「じゃ、倒しますね……あちょっ」
『ウオオオーッ!?』
大きい人が鎌を振り下ろして、私のにゅーっと突き出したゴボウを弾いた。
『な、なんてやつだ。話が通じねえ……!!』
「魔将バルログと言えばわしらの言葉を一笑に付し、言葉が通じても意志を疎通できぬ邪悪な怪物だというのに……」
「バルログは話を聞いた上で愚弄するのよ。でもハヅキは違うわ。聞き流してる」
「はづきっちは思考がシンプルだからなあ……」
※たこやき『きら星はづきオンステージだな。始まるぞ、蹂躙が』『行けっ! 食いしん坊の地上最強戦力w!』『食べ終わったら博多ラーメンだ! 替え玉もいいぞ……』
「うおおー、がんばる!!」
博多ラーメン、替え玉どれくらい食べようかな!!
テンションが上がった私は、ゴボウをぶんぶん振り回す。
大きい人はこれを燃え上がる鎌でがんがん受け止める。
『ぬおおお!! なんだこいつ! ちびのくせに攻撃が重いっ!! バングラッドのバカの連撃よりも重いぞ!! やってられねえ! オレは前衛じゃねえんだぞ! ええい、炎よ! こいつを焼き尽くせ!!』
大きい人の周りから、ぶわーっと小人みたいな形の炎がたくさん湧き上がってきた。
それが『キャキャキャキャ!!』『ヤイチャウ! ヤイチャウ!』『テアシヲダンダンヤイテアゲヨウネエ!』とか言ってるのだ。
「えい、アンチミサイル! せつ!」
なので、私もAフォンのゴミ箱に入れてあったアンチ蠱毒をぶつけるのだ。
『や、やめてぇぇぇ』『いっそ削除してくれえええ』『ぎゃあああああ』
『!? ナンダコレ!?』『ギャピィ! ヘンナノキタァ!?』『ソ、ソウサイサレルゥ!!』
小人みたいなのが打ち消されていくぞ。
でもなんかまだるっこしいので、私はさささっと近づいて、ゴボウでぺちぺち炎を払った。
『アギャアアアア』『キエルゥゥゥゥ』『ナンナノ、アノオヤサイ……!!』『俺たちごとぉぉぉ』『これで楽になれる……』
※『蠱毒されたアンチコメが自我を持ってるじゃん!!』『これでやっと成仏できるんだな……。もうアンチなんかするんじゃないぞ』『アンチすら力に変えるか、恐ろしい子……!!』
「資源の有効活用でございまして」
炎を突っ切ってまっすぐやって来た私に、大きい人が目を白黒させている。
『話がちげえぞ!! こっちの世界の人間は同士討ちさせてもいいし、奴らが協力したところでオレらの駒のが強えって話だっただろうがよ! なんだよこいつは!! くそっ、炎! 炎よ!!』
大きい人の周囲から炎が起こって、私に降り注いできた。
「ゴボウ二刀流でいきます! あちょちょー」
バッティングセンターで鍛えたスイングと、練習していたゴボウ踊りが唸りを上げるぞ!
降りかかる火の粉が雑な感じで全部切り払われていくのだ。
『くっ、ここは一時撤退……』
「ヒャッハー! させねえぜー!!」
そこにチャラウェイさんが飛び込んできて、大きい人に腰に付けてた物を放った。
こ、これは……!!
かっこいいデザインのウォーターガン!!
『ウグワーッ!? み、水!?』
「新鮮な水だぁーっ!!」
なんかチャラウェイさんの叫びに呼応して、彼のコメント欄がうおーっと盛り上がっている。
なんだなんだ!
※『こんな熱いところで貴重な水を!!』『水をぶちまけるなんて流石チャラウェイだぜ!』『言葉は三下のモヒカンそのものなのにアクションが的確!』
「チャラウェイはバルログの撤退を読んでいたんだぞい! これであいつは水が蒸発しきるまで炎を使って逃げ出せないぞ!!」
「行け、はづきっちー!! 終わったらとんこつラーメンだぞ!!」
「ほいほいー!! あちょちょー!」
私の脳内に、本場豚骨スープと細麺、そして紅生姜にきくらげにネギが乗っかった博多ラーメンの姿が浮かび上がる!
博多ラーメンパワー全開!!
なんか私の全身がピンクのオーラに包まれる!
で、オーラが雑に大きい人に絡みついて動けなくさせる。
※『なんだこれw』『いつもはづきっちのよく分からん技だ!』『もう大罪勢の技を本家より上手く使ってるだろw』
『ぐわああああああ!! こんな、こんな馬鹿な……!! ファールディアの人族を殺しまくって来たオレが! 誰にも負けなかったオレが、こんな、こん』
「あちょ!」
『ウグワーッ!?』
ゴボウ二本でぺちぺちぺちぺちぺちっと叩いて、二本をまとめて持ってからフルスイングでぺちーんとやった。
大きい人が一瞬、ぶわっと炎になって膨らんだと思ったら……。
ピチューンとちっちゃくなって消えてしまった。
あっ、ゴロンとすっごく大きいダンジョンコアが!!
「し……信じられない。この数十年で、初めて魔将が倒された……!」
カナンさんが呆然としていた。
あれだね。
ダンジョン潜っててお腹が減ったんでしょう。
私もです。
「じゃあ、仕事が終わったのでみんなで博多ラーメン食べましょう」
「おう、ラーメン食べようぜヒャッハー!」
「ヒャッハー!」
チャラウェイさんとゴズモックさんが盛り上がる横で、カナンさんがハッとした。
そして小声で、「ひゃ、ひゃっはー」とか合わせるのだった。
※『かわいい』『かわいい』『推せるw』
なんかコメントのお前らも嬉しそうなのだった。
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