第242話 本場とんこつラーメンと異世界事情伝説
「うわあー、本場の博多ラーメンだあ」
「ここは福岡市だけどね」
チャラウェイさんがそっと訂正してきた。
この人、色々律儀な人でもあるのだ。
「ほ、本場のとんこつラーメンだあ」
うんうん頷くチャラウェイさん。
無事に魔将も倒し終わった私たちは、打ち上げでラーメンを食べに来ていた。
「なんと……。洗練されていると思っていたこの世界の料理でも、まだ獣臭がするものがあるのだな……」
カナンさんがとんこつ独特の香りに驚いている。
私と一緒に何回かラーメン食べに行ったけど、基本的にしょうゆラーメンのお店が多かったもんね。
私がとんこつを食べても醤油豚骨だから、確かに臭みはなかったかも。
「カナンさんこのにおいは苦手?」
「いや、我々エルフは狩猟の民だ。獣を煮て料理にしたり、毛皮を煮て加工することに長けている。むしろ懐かしいにおいだ」
なんと、骨を煮込んでスープにしたりするのはエルフの人たちは普通にやってたらしい!
とんこつに馴染みがあるんじゃないか!
ということで、彼女はとんこつラーメンを「懐かしい味がする」とするする平らげた。
替え玉はしなかったけど。
「わしらドワーフはこのとんこつにまだ慣れなくてな。担々麺とやらの方が好きじゃなあ!」
「あー、辛いものがいいんですね」
「うむ。辛いものと酒! 穴蔵生活はその中で食い物を調達するからな。辛いものは地の底に生えるカラミソウというハーブから作ったし、こいつで何でも煮込んだもんだ」
土の中に生える唐辛子みたいなのがあるそうだ。
火山地帯の近くにしか自生しないらしくて、炎の精霊の力を宿した植物なんだって。
他はキノコとかを食べてたそうなんで、実はエルフよりドワーフの方がヘルシーな生活を送ってるっぽい。
さて、私だけど、替え玉を三回食べたらスープが消滅したのでここまでにした。
せっかく福岡まで来たから、このまますぐ帰っちゃうのはもったいないということで……。
みんなと町中をぶらぶらする。
バーチャライズを解くと身バレするので、きら星はづきモードのまま。
お蔭であちこちで声を掛けられる。
「あっ、はづきっちだ!!」「魔将との対決見てたよ! 凄いじゃん!!」「うちの地下にあんなのいたなんて! 倒してくれてありがとう!」「はづきっちがドワーフと一緒にいる!」「エルフの人だ! かわいいー」「チャラウェイ、ウェーイ!」
「ウェーイ!」
チャラウェイさんはノリよくリスナーにサービスしてあげていた。
なるほど、ファンサとはこうやるのか……。
私なら何になるのだろう?
「あひー」とか言うの? いやいやいや……。
おみやげのとんこつラーメンセットを二つ購入。
一つは母が一食で食べきりそう。
あと一つで父が三食くらい食べると思う。
「そう言えばさ、あっちの世界から来るのはエルフとかドワーフとかハーフリングとか」
チャラウェイさんがずっと思ってたらしい疑問を口にした。
なんかついさっき、ニュースで中部地方にケンタウロスが出たとか言っていた。
半人半馬の人たちは知的な種族で、現地の配信者と協力してダンジョンを攻略したらしい。
どんどんファンタジー種族な人たちが増えるぞ……!
「人間、いなくね? あ、そっちで人間はヒューマンって言うんだっけ」
「おう、ヒューマンか!」
「ヒューマンね。こちらの世界に来て、ハヅキを見た時は驚いたものだ」
ゴズモックさんが手を打ち、カナンさんは深く頷く。
「滅んだぞい」
「滅んだね」
異口同音に衝撃的な事実~!!
世の中、彼らファンタジー種族の話を聞くばかりで、異世界における自分たち人間の状況なんか聞き取る暇がなかったみたいなのだ。
なるほどー、ファンタジー世界の人間、滅びてたかあ。
「数十年前は一番勢力のある種族だったけど、だからこそ魔王の狙い撃ちにあった形ね。それぞれの共同体から魔王に寝返る者が出てきて、それが組織に浸透して大きな戦争を始め、一部の国なんかまるごと魔王の手勢に変質したわ」
「ほうほうほう」
私は首をひねった。
どゆこと?
「つまりね、この世界に攻撃を仕掛けている魔将や魔族の半分は、もともとヒューマンだったということ。ヒューマンの中で魔王に従った者だけが残り、彼らは魔族となったの」
「うむ! 最大数の種族が落とされたからの! ファールディアは組織立って魔王と戦う術を失ったんだぞい。お蔭でこの数十年、数が減り続けるだけの撤退戦続きよ。危うく滅びるところじゃったわい」
「ひえー大変だったんですねえ」
私は彼らの苦労を知って、気が遠くなりそうだった。
滅びる瀬戸際だったんじゃん。
「俺らと一緒だなあ」
「ああ。魔王という存在、まさに巧みに人心を操り、世界を瞬く間に掌中に収める。恐ろしい相手らしいね」
あっ!
ずっと静かにニコニコしていたから存在を忘れていたけど、八咫烏さん!
「僕ら人間も、異世界の人々もみんなやられるところだった。だが、どこかの誰かさんがそこに現れて、ゴボウを振り回してまずい流れをせき止めてしまった。魔王からすると、完全に計算外だろう」
チャラウェイさんがうんうん頷き、ドワーフたちが歓声をあげた。
カナンさんが私を見て、ちょっと笑う。
なんだなんだ!
どこの誰かさんとは一体誰なんだー。
私だけがその誰かを理解できないまま、お話が終わった!
うおお、誰なんだそのすごい人は。
知りたい……。だけど誰も教えてくれないぞ、いじわるー。
「はづきちゃん、夜の便で帰るんだろう? 僕も明日は企業コラボがあるから帰らないとなんだ」
「あっ、はーい」
「ウェイ! 俺はしばらくこっちに残って、地元とドワーフのみんなを繋げる仕事をするぜ! 個人勢はこう言う時に身軽だからよ!」
「チャラウェイさん偉いなあ」
「はづきっちは学校あるだろ」
「そうでした……」
「学校と配信両立して立派に英雄もやってるの、とんでもなく凄いと俺も思うぜ! 頑張れよ!」
「がんばりまあす」
いえーい、とチャラウェイさんとまたハイタッチして別れた。
帰りの飛行機の中、やっぱりカナンさんは鉄の塊が飛ぶことが理解できず、ずっと私の服の袖を掴んでいたのだった。
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