第80話 突撃、例のプール伝説

 エメラクさん作成の水着をAフォンに保存して、ダンジョン化した例のプールに挑むことになってしまった。

 普通の水着は、あれはあれで配信が終わったら着替えて、カンナちゃんたちと遊ぶ予定なのだ。


 ……友達とプールで遊ぶ……!?

 都市伝説ではなかったの……!?


「なんかはづきちゃんが衝撃で震えてますよ」


「おーい。俺たちは先方とのやり取りで忙しい。今回はなうファンタジーの車で現場に向かってくれ。常に配信は見ておくがな」


 受付さんがくすくす笑い、兄は忙しそうにメールやBOOMでやり取りしている。

 なんか、国や地方自治体とか公共団体からの依頼が増えてて、ほとんどが『配信するからそれでお金になるでしょ? 世の中のためなんだから無給でお願いします!』というものらしく。

 これを片っ端から断る作業が面倒だと、兄はぼやいているのだった。


 面倒くさい仕事を断ってくれて本当にありがたい……。

 私は兄を拝んだ後、仕事に出かけるのだった。


 外には車が待っている。

 その中に、トライシグナルの三人がぎゅっと詰め込まれていた。


「あ、じゃあ、私は前に行くわ。助手席タバコ吸っていいですか? ダメ? ちぇ……」


 水無月さんがダメ元で確認してアウト判定を食らっていた。

 私は……。


「どうぞどうぞ、真ん中の席にはづきちゃん」


「詰めろ詰めろ」


 カンナちゃんと卯月さんにサンドイッチされて、真ん中の座席に!

 私、なんかこう、真ん中に座らせてもらうことが多い気がする……。


「ど、ど、どうも。今日はよろしくお願いします……」


 ペコペコ頭を下げたら、車内ミラー越しに運転役のマネージャーさんも会釈してきた。

 この間来た人だ。

 トライシグナルのマネージャーさんだったんだなあ。


「ねえねえはづきちゃん」


 カンナちゃんが私の腕をもちもち触ってくる。

 あっあっ、汗かいてぺっとりしてるのに。


「新しい水着もらったんでしょう? 見せて! 後で見せて!」


「うんうん。すっごいよねえ。本物の水着配信だ! あたしたちは新衣装はもうちょっと後かなー。水着には間に合わないなあ」


 残念そうな卯月さん。

 三人とも、夏っぽい衣装じゃないもんね。


 中の人はTシャツに短パンで配信してても、バーチャライズするとあのいつもの服装になるのだ。


 だけど今回は違う。


「……ま、私たち、今日は水着の上からバーチャライズして配信するんだけどね!」


 不敵に笑うカンナちゃんなのだった。


 現場までは車で30分ほど。

 近くのコインパーキングに車を停めて、私たちは現場に向かった。


「お疲れ様です」


 現場を封鎖していた迷宮省の人が挨拶してくる。

 ショートカットのスラッとした美人さんだ。

 私たちも会釈。


「きょ、今日は風街さんじゃないんですね」


「ああ……あの方は特別ですから。自由に行動できる権限を持っている最上級職員ですよ」


 ひえーっ。

 風街さん凄い人だった。


「我々迷宮省は、省庁の一つとしては異例の極めて大きな権限が与えられています。ですから上級職員たちは公務員とは思えないようなことをいつもやってまして。ああ、きら星はづきさんですよね。お噂はかねがね! 後で仕事の後でサイン下さい……。私もお前らの一人なので」


「あっ……お前らの……」


 ペコペコしてしまった。 

 どこにでもいるな、お前ら……!!


 こうしてプールに入る前の部屋で、着替える私たち。

 三人とも水着になった。


 活動的な白と赤のビキニの卯月さん、ブルーのおへそが見えるタイプのワンピースな水無月さん、黒とゴールドのチューブトップビキニのカンナちゃん。

 三人とも、もしかしてキャラクターカラーに合わせてる……?


「ふむふむ、はづきちゃんが大きいのは分かってたけど、こうして寄せて上げるとカンナもいい勝負になるね……」


「ミナ、どこ触ってるのー! セクハラー!」


「どれどれ!? うおわー、いつもより大きい!」


「ひやー!」


 おお、トライシグナルの三人がわちゃわちゃ絡んでる。

 私は外側から、この光景をまったりと眺めた。


「……でははづきちゃんは……」


「桜! 相手は未成年よ!」


「ハッ」


 ハッとして立ち止まる卯月さんなのだった。

 だがすぐに寄ってきて、


「でもまあ同じ十代だし」と、私にペタペタ触る。


「あひー」


「これが、野中さんが言っていた重み……!! 凄い……! というかはづきちゃん、柔らかいところとしっかり筋肉ついてるところのメリハリが……」


「えっ!? もしかしてはづきちゃん、肩こりとかは無い……!?」


 カンナちゃんに愕然として聞かれたので、私は首を傾げた。


「あ、うん。えっと、は、配信始めてから肩こりしないんで」


 ざわつくトライシグナル。


「あれを支える筋肉が……」


「確かに、あんなぐねぐねした動きなのにすぐ姿勢を戻せるあたり、体幹はしっかりしている可能性が……」


「恐ろしい子! あ、タバコ吸っても……ダメだよね」


 そうこうしていたら、マネージャーさんが外からノックしてきた。

 あ、はいはい!


 どうやら配信を開始する時間だ。

 

「がんばってくださいね! まあでも、ダンジョンとしての脅威レベルは低いと思います」


 ずーっと同じ部屋で、私たちの着替えやキャッキャウフフをニコニコしながら眺めていた迷宮省の人。

 今回の例のプールダンジョンの分析を教えてくれた。


「発生から二日目。犠牲者はゼロ……ああいえ、活動家の方々がまとめて怨霊とモンスターになったので、彼女たち彼らが犠牲者でしょうかね? 迷宮法第二条第一項によって、怨霊化、ないしはモンスター化した者は死亡したものとみなすとされています。遠慮しないでやっちゃってください!」


「あっはい、いっつもそうなんで……」


 そういう法律があったのね!

 勉強になるなあ、なんて思いながら、私たちは配信を開始するのだった。


 四人の声が揃う。


「バーチャライズ!」


 きら星はづきチャンネル、今日の配信です! 


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