第81話 プール攻略配信伝説(歌付き)
「はい、じゃあ配信画面のここにですね。トライシグナルの皆さんはこの間収録した歌唱PVが流れます。それからうちのユニットであるオルギスのお二人が今回のために水着で歌ってくれまして。これを流します……」
「うわーっ」
スタッフさんの言葉に、水無月さんが不思議な悲鳴をあげた。
「ど、どうしたんです」
「これ、昭和の演出……。おじいちゃんの家にあったビデオデッキ?っていうやつで見たことある……」
「昭和!?」
「百年前ってこと!?」
ざわつくトライシグナル。
なーんにも分からない私。
「せ、せいぜい35年前だよ……!!」
スタッフさんがショックを受けた顔してる。
この人は先にここに来てたげんファン株式会社の人で、ベテランのカメラマンさんね。
Aフォンから送られてくる生配信映像に、その場で歌のPVを入れ込む作業を担当するみたい。
ちなみに水無月さんが見てたというおじいちゃんのビデオというのは、水着のアイドルがキャッキャする大会で、普通にポロリっと出ちゃうことがあったらしい。
ひえええ、コンプライアンス~。
「垢BANされちゃう」
「はづきちゃん経験者だもんねー」
恐怖に震え上がる私と、うんうん頷くトライシグナル。
えっちさで垢BANされかかったわけじゃないよ!?
「と、とにかく! こっちで作業はやっておきますから任せて下さい。きら星さんのはPVが乗らずにそのまま流れると思いますが、BGMだけかぶるかも知れません。申し訳ないですが……」
「あ、あ、いいですいいです。宣伝しときます」
スタッフさんとマネージャーさんがホッとした顔になった。
ちなみにこの件、兄からも正式に許可が降りたらしい。
古巣の宣伝に協力するのもやぶさかではないんだって。
こうして、私たちはプールへの扉をバーンと開いた。
そこは、色々なPVとか写真で見たことがある、斜めに大きな窓がたくさんついたプール!
ダンジョン化しているのに、不思議と見た目はそのままだった。
広さだけ三倍くらいになってる。
そして私たちの突入と同時に、カッコいい感じの歌が流れ始めた。
ダンジョンには怨霊やモンスターが蠢いてたんだけど、彼らは突然歌が流れてきたのでビクッとなっていた。
「お、お前らー! こんきらー! そろそろ新人から卒業しそうな配信者、きら星はづきでーす!」
※『こんき……!?!?!?!?!?!?』『きら……こんき……水着!?』『うおおおおおおおおおおおおおお!!!!』『あああああああああああ!!!!』
「お、落ち着けー!!」
空中のコメント欄をペチペチする私。
そうそう、このコメント欄、バーチャライズしてると触れることに最近気づきました。
そのうち、コメント欄を握りしめて相手をぶっ叩いたりできるようになるかもしれない。
※『はづきっちの水着かわいいいいい』『タンキニなのに分かる大きさ……』『似合うー!!』『なんで予告でこのコトを言わないのか……!!』『確かに予告が妙にそっけなかった』『まさか……恥ずかしかったのか?』『可愛い……!!』
チャットがすごい速度で流れる!
スパチャがもりもり投下されてくる!
「あひー!? おち、おち、落ち着いてー!!」
ちなみにトライシグナルの方の配信も大騒ぎらしい。
画面右端でちっちゃくワイプ映像で、PVとか歌ってる映像が流れるのが大受けしてるみたい。
私もトライシグナルも、ツブヤキックスのトレンドに乗ってしまった。
ちなみに肝心のダンジョンなんだけど。
『うぼああああああ性的な水着はやめろおおおおお』
とか襲いかかってきたモンスターや怨霊が、思ったよりも全然弱かった。
「光を込めて刃と成す! 我が命に従い、穿てスターソード!!」
とかカンナちゃんが詠唱する余裕全然あるし。
卯月さんも次々モンスターを切り捨ててるし。
水無月さんはメインの武器である水が豊富にあるところだから、渦巻きを作り出してモンスターたちを飲み込んだりしていた。
三人とも凄く強くなってる!
みんな登録者数10万人突破したみたいだしなあ。
私はと言うと。
『ウボアー!』
「あっ、すぐ横から」
『ウグワー!』
「あっ、勝手に消えた」
※『はづきっちの水着に触ったら粉砕された』『そりゃそうよ』おこのみ『うおおおおおお間に合ったああああ神配信神配信!!』『俺たちの情熱と欲望が詰まってる水着だ!! 攻防兼ね備えた最強の鎧みたいなもんよ!!』
な、なるほどー!
お前らが反応するお陰で、水着がなんか、すっごい性能になってるらしい。
私は恥ずかしいのと、動くと色々目立ってしまうのでもじもじとしか行動できないんだけど!
ひいー、人前で水着を晒すのは大変恥ずかしい!
できることなら配信をすぐに終えたい……!!
※たこやき『来たな、同接数15万人』いももち『はづきちゃんの可愛い水着配信、見に来ないヤツいる!? いねえよなあ!』
「えっ!?!?!?!?!」
なんか目を疑うようなコメントが流れたんですけど!
ちっちゃいプールのダンジョンで水着になるだけで、15万人!?
何が起こってるって言うんだ……!
『きいいいいいい!! そうやって男どもに媚びて! あなたは搾取されているのよぉぉぉぉぉぉ!』
あっ、怨霊が来た。
※『空気読め』『いらんの来た』『やっちゃえはづきっち!』『今のはづきっちなら指先一つでダウンだろ』
「いやいや、流石に直接触るのはばっちいっていうか……」
『ばっちいぃ!? ヒギィ』
※『言葉の攻撃で怨霊が揺らいだ!』『精神攻撃……! 恐ろしい子』『はづきっち、何も言わずにちょっとそこでジャンプして』
「あ、は、はい」
ちっちゃくジャンプする。
コメント欄がどよめきで溢れかえった。
もう誰も怨霊のことなんか気にしてない。
※『揺れ』『揺れなんてちゃっちいもんじゃねえ』『世界が震撼した』おこのみ『なんちゅう……なんちゅうもんを見せてくれたんや……。これに比べたら怨霊退治なんかカスや……』
『わた、私の主張を聞け! 聞けえええええ!!』
怨霊が叫びながら、Aフォンと私の間に割って入ってくる。
そうしたら……。
※『うるせえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!』『どけええええええええええ!!』『邪魔だああああああああ!!』『消えろおおおおおおおお!!』
コメントが怒号で埋め尽くされた。
コメント欄が光り輝き、なんかその光が怨霊に降り注ぐ。
ついでにコメント欄が倒れてきて、怨霊を思い切り殴った。
『ほぎゃああああああああ!? な、なんでぇぇぇぇぇぇ!?』
叫びながら、怨霊が粉々になったのだった。
あー、何もしてないのに消えちゃった。
「何が起こったの」
※もんじゃ『今とんでもない現象が観測されたのだが、私は今、それを言語化する余裕がない。この水着イベントが終わったら形にしよう。揺れ……』『有識者もはづきっちの水着に釘付けになってて草』もんじゃ『ちらうぞ』『入力ミスしてますよ』
こうして怨霊は排除されて、例のプールはいつもの例のプールに戻った。
私たちの配信は無事に終わり……はしなかった!
「ねえはづきちゃん! ……おほん! はづきさん? わたくしたちも自前の水着に肌だけバーチャライズのはめ込みで対応できるみたいですわ。日常的なアクションくらいならいけるみたいですの」
「あ、そうですか。……えっと、それはつまり?」
「ここからはプールで遊ぶだけの配信ですわよ!」
カンナちゃんの宣言に、トライシグナルのみならず、私のチャンネルもどよめきと喝采に包まれるのだった。
あひー!
み、水着配信がまだ終わらない!
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