第82話 例のプールの雑談配信伝説

「……というわけで怨霊を退治したので、ここからはプール貸し切りで雑談配信になりまーす。あ、スパチャ読みますね」


 卯月さんが宣言した後、トライシグナル三人でスパチャ読みを始めた。

 ほうほう。

 私、全然読んだりしないなあ。


「お、お前ら、読んだほうがいいのこれ?」


※『俺たちははづきっちの水着が見られただけで満足だよ……』『燃え尽きちまったよ、真っ白に……』『まあ今もこんなコト言いながらスクショ(スクリーンショット)しまくってるんだけどな』『待ち受けにするわ……』


「な、なんですとー」


 水着の私を待ち受け画面にしたり、PCの壁紙にしたりするの!?

 ひ、ひえー。

 想像を絶する使い方。


 あ、いや、一般的な使い方なのか。


「ま、まあ別に構いません……」


※『本人から許しが出た!』『寛大だ』『菩薩のはづき』『ありがたやーありがたやー』『アーメン』『かしこみ』『色々な宗派のやつがいるな』


 私はめちゃめちゃ拝まれてしまった。

 そうしたらなんか、水着の胸元の当たりのフリルがふわっと花開いていく。


「ひえー、なんだなんだ」


※エメラク『最近発見された技術で、リスナーの思いみたいなのが集まると思いの受け皿モードに変化する仕組みを取り込んでみました』


「し、新設計~!」


※エメラク『斑鳩さんからも依頼を頂いてるんで、基本衣装も体操服衣装もバージョンアップ作業中ですよ!』


 このエメラクさんの宣言に、チャット欄がうわーっと沸き上がった。

 いつも沸いてるなお前ら!


※『はづきっちの衣装が全部リニューアルだって!?』『水着の胸元がちょっと開いてきてて大変よろしい』『エメラク先生あなたが神か』エメラク『冒険配信じゃないですけど僕もアバター系配信者デビューする予定でして』『うおおおおおおお』


 な、なんだってー!

 そのうちエメラクさんとコラボすることになるかも知れない。


 たこやきとは一緒に仕事したし、画面の向こう側にいると思ってた人は、思ったよりもみんな近くにいるもんだなあ。

 私がしみじみしてたら、コメント欄でワイワイと私にしてほしいポーズが流れてきた。


 ひえーっ、セクシーポーズばかり!!


「へへへ、私めのようなものが、そんなセクシィな姿をしても皆様の目を汚すばかりで……」


※『めちゃくちゃ卑屈になったぞ!』『いかん、一般的セクシーポーズはダメだ』『なんかはづきっちが自分に合うと認識できないっぽい』『ではどうする……?』いももち『こう言うときこそ私たちの集合知が試される。後転してもらお』『それだ!』


 後転かあ。

 それなら大丈夫。


「えーと、では後転します。うりゃあ」


 ぐねり、と後転する。


※『スクショターイム!!』『うおおおおおおおお』『かわいいいいい』『いいのかこれ!』『いいんだよ!』いももち『はづきちゃんかわいいいいいいいいい』おこのみ『スクショする指がとまらねえええええコマ撮り動画作れちゃうよう!』


 なんかたくさんコメントが流れた気がする。

 喜んでもらえて嬉しい。


 私は立ち上がろうとすると……。

 ちょうどそこがプールだったのでバシャーンと落ちた。


 そして、当然のようにぷかぁっと浮く。

 そう……。

 私は浮きやすいのだ。


「あ、はづきさんがプカプカ浮いてますわね」


「あたしたちも泳ぎに行こ!」


「泳ぐかあ」


 トライシグナルのみんなもプールに入ってきた。

 ここで、気が利くスタッフの人が、またBGMやPVを流し始めたらしい。


 すっかり、リスナーさんたちが私たちのきゃっきゃとプールで遊ぶさまを眺める配信になってしまった。


 妙に同接数が増えた気がする。


 私がプールで泳ぎ、私をビート板代わりにしてカンナちゃんが遊泳し、卯月さんが沈み……もしかして筋肉が多い人ですか?

 そして水無月さんがタバコ休憩で外に飛び出していった。


 こうして楽しい配信も終わり……。


「みんな、今日は見ててくれてありがとうー」


※『お礼を言うのは俺たちの方だぜ……』『プールサイドに腰掛けて伸びまでしてくれた……』『スクショがギガを突破しちまったぜ』『くっそ、俺のスマホじゃここまでが限界……』いももち『専用SDカード買っておくからね!』おこのみ『既に用意してある……』


 むしろたくさんのお礼を向こうから言われてしまった。

 あったけえなあー。

 ここで私、言うべきことを思い出す。


「あ、ついでなんだけど、明後日私の誕生日なので」


※たこやき『えっ』もんじゃ『えっ』おこのみ『えっ』いももち『えっ』『えっ』『えっ』『えっ』『えっ』『えっ』『えっ』『えっ』


 あっ、コメント欄がえっで埋め尽くされた!


「その、誕生日ダンジョン配信をします。えーと、おめでたいダンジョンを今探してるところなので……」


※『ついでのように誕生日報告をしてくる』『はづきっちは自分の価値を分かってませんな』『姫の誕生日とあらば有給を取る』『そっか、葉月だから八月誕生日なのか!』


 誕生日発言には、トライシグナルの三人……水無月さんはタバコ休憩中だから二人か。

 二人もびっくりしたようだ。


「そうだったの!? ……じゃなくてそうだったんですのね! おめでとうございますわー!」


「おめでとうはづきちゃーん! これではづきちゃんも……えーと?」


「卯月さん私の同じ学校の先輩なのに。私、十六歳になります」


「そっか、おめでとう!」


「おめでとうございますわ! ……しかし、十五歳にしてあれだけの成果を上げましたのね……。凄いですわねえ……」


※『凄い』『俺の娘より年下じゃん』『父親目線どころかマジ父親がいるぞ』『配信者業界は年齢性別関係ないからな……』


 こうして、次なる誕生日配信の盛り上がりを予感させつつ……。

 私の水着お披露目が終わったのだった。


 ……あれ?

 プールダンジョンの攻略配信だったっけ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る