第414話 MV超恥ずかしく、あと黒幕現る伝説

 発売されてめちゃくちゃ売れたらしい私の二曲目、ほんとにどこに行っても聞こえてくるんだけど。

 それにちょっと画面があるようなお店だと、このために撮ったミュージックビデオが流れてる。

 は、は、恥ずかしい~!! ベルっちとは言え私なのに代わりはないのだ!


 一人であれば、あまりの恥ずかしさにその場を小走りで離れていたことだと思う。

 だが!

 今日はカンナちゃんと遊びに来ているのだ。


「どこもかしこも、はづきちゃん一色だねえ」


「いやあ、お恥ずかしい」


「全然恥ずかしくないよ! 凄い凄い! 私の友達だって、みんなはづきちゃんの歌聞いてるもん」


「あひー」


 なんということでしょう!

 私には逃げ場が無いのか!

 一曲目で終わるはずだったのに、上手いこと乗せられて二曲目も出してしまったのだ。


 その日は、どこに行っても私の歌が流れた。


 ファミレスに行ったら、有線で流れるし。

 映画を見に行ったら、上映前のCMで私のMVが流れた。


 た、た、助けてぇー。


 カンナちゃんとのデートは大変楽しかったけど、それはそれとして私の歌が!

 あちこちで聞こえる私の歌が!

 ノイズ!!


 だけど、みんな楽しげに私の歌を聞いているし、流れる度に「この歌ってさ」「買った!」「ヘビロテしてる!」とか言っているのだ。

 喜ばれているならまあいいか……。


 しばらくすれば話題にも上がらなくなることでしょう。

 早く風化せよ!


 楽しい一日があっという間に過ぎ……。


 駅でお別れということになった。


 その途中、駅近くの大型ビジョンに私のMVが映っている。

 ま、また……!

 新曲は私を解放してくれないのだ!


『ふーん! あれがそうなんね! イケてんじゃん』


 横で声がした。

 なんか存在感がある声だなーと思ったら、そこにマフラーを巻いたオレンジの髪の女子がいたのだった。

 どこのものだか分からない制服を着てる。


『お?』


 目が合ってしまった。

 目力~。

 気まずい。私は愛想笑いを浮かべながらペコペコした。


「ど、どもぉ」


『……あんたの声、あれと似てね?』


 ドキィッ!

 初対面の女子で、顔にはなんかラメの入ったシールを貼ったりしてめちゃくちゃ盛ってて、ネイルもバシッと銀河色のやつをキメてる……。

 ギャル!


 陽キャ!!


 それが私の声を見切った!?

 なんて恐ろしい……!!


「い、いやいや、そんなことないですよー。全然似てませんよー」


『そぉ?』


 彼女は首を傾げた。

 サイドテールの髪が揺れる。

 なんか良く分からない花の香りが流れてきた。


 ひぃー、苦手だー!


 私は震え上がった。

 天敵みたいな人だあ。


『とにかくさ、あたし、あの歌キライじゃないんだよねー。もっといろいろ歌って欲しいかも。だってこの世界の人間の活力が増すじゃん。せっかくちょっと時間掛けたんだからさ、また元気になったら攻略しがいがあるって言うかー』


「あ、は、はい」


 陽キャ語は難しすぎる~!!

 それに、隣りにいるカンナちゃんをほったらかしだ!


「い、行こうカンナちゃん! じゃ、じゃあ私はこれで~」


『はいはーい。あんたもなんか凄そうだし、うちと向き合ってマイペースでいられんの、その世界の勇者クラスでしょ。期待してっから。じゃね!』


 ギャルの人が手を振っている。

 私も引きつった笑顔で小さく手を振り返すのだった。


 うわー、陽キャ恐ろしいー。

 早く帰ろう、早く。


「……はっ。は、はづきちゃん? あれ? 私、今何をして……」


 カンナちゃんが今、初めて我に返ったみたいな事を言った。

 なんだなんだ。

 しっかりしているカンナちゃんがぼーっとしているとは珍しい。


 だけど、いつもしっかりしてるから、たまにぼーっとするのは必要だよねえ。


「なんか一瞬、時間が止まってたみたいな……。気のせいかなあ」


「カンナちゃんも疲れてるのかもねえ。ゆっくり休んでね」


「はづきちゃんほどハードワークではないから! はづきちゃんもね!」


 ということで、私達はここでバイバイするのだった。

 いやあ、デート楽しかったなあ。



 ※



『うん、視察終わり! たまーに覗きに来てたけどさ、この世界で三年? 経過したら、なんか活力マシマシになってるじゃん。いいよいいよ』


『マロングラーセ様! お一人で侵略世界へホイホイ行かれては困ります! 御身が降り立たれただけで世界のバランスは変わるのですから!』


『いいじゃーん。じいはさ、いちいちうっさいのよねえ』


 そこだけ時間が止まったような場所。

 駅前、巨大ビジョンを見上げる場所で、いわゆるギャルの姿をした彼女と、突如横に現れた黒いローブが会話をしている。

 黒ローブの背丈は5mほど。

 シルエットは細長く、ローブの合わせ目から縦に7つの頭が覗いている。


『協力者たちが全て打倒されたか離反した今、御身を守る者はこのじいをおいて他にないのですから! 全く、もっと側近を作って置いておけばよろしいものを』


『口うるさいのはじい一人で十分っしょ? そういう役目としてあたしが作ったんだから』


『ですがマロングラーセ様!』


『マロンでいいっつってるでしょ?』


『マロン様! 先ほども、御身の威圧に耐えるこの世界の戦士と単身でお話を……。危険ですぞ!』


『いいじゃんいいじゃん。あれさ、この世界の抗体だよ? この世界、今までは抗体弱いのに粘るなーと思ってたらさ、すっごいの出てきたよね。あんなのが幾つもいるのかも? 大魔将のおっさんたちもそういう抗体にやられた的な?』


『楽しんでいる場合ではありませんぞ! さあ帰りましょう、我らの世界へ! マロン様には日々こなすべき、魔王としてのお仕事があるのですから!』


『へいへい。うっさいなー、もう。いいじゃん。世界の全てはあたしの遊びなんだし』


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