第431話 魔王とちょっと対決してみた伝説

 私が直接魔王とぶつかると大変なことになる、とスファトリーさんがこの間言っていた。

 あまりに強い力と力がぶつかることで、戦いの場になったところが吹っ飛ぶらしい。


 どれくらいひどいことになるのかしら。ちょっと想像がつかないなあ。


 ダンジョンの休日騒動も収まってきたところだったので、私はダンジョン配信を再開しているのだった。

 あまり小規模なのをやると、他の配信者さんたちの活躍の場所を奪っちゃうからね。


 高難易度っぽいのをお前らからタレコミしてもらって、そこに向かうわけです。


「ベルっち、ゴー!」


『ほいほーい。しっかしまあ、港に来たタンカーがまるごとダンジョンになってたのは新しいよねー』


「うんうん、コンテナ一つ一つが極小のダンジョンで、組み合わさって物凄く難解な迷宮になってたんだそうな。船員の人とか、助けに行った配信者の人も戻れなくなってて、タンカーから港にだんだん侵食してきてるって」


『新しいパターンのダンジョンじゃーん。なんだろうねー』


「ねー」


 そんなやり取りをしつつ、大至急で港に到着です。

 Aフォンにぎゅっと詰め込んであった食べ物を、ベルっちの口に押し込む。


『もぐもぐもぐー』


「ベルっちの力がみるみる回復する!」


 私達は過去の出来事から学ぶので、今後はガス欠になることはないであろう。

 さて、見えてきたタンカー。


 周辺ではフォークリフトみたいな乗り物が放置されてて、誰も近寄ろうとしていない。

 あれそのものがダンジョンだし、侵食しているってことはある程度近くに行くと取り込まれてしまうのかも。


「どーれ」


 ベルっちと反転して、私は降り立った。

 そして配信スタート。


「お前ら、こんきらー。配信の時間です!」


※『こんきらー!』『こんきらー!!』『既におどろおどろしい風景』『久々のはづきっちのダンジョン攻略だ!』


「はーい! 港に到着したタンカーがまるごとダンジョンの塊になってて、今もダンジョンを広げているという状況です! 巻き込まれた人多数! 助け出すために迅速に活動しますね。タレコミありがと~!」


 今度サイン入りのパッケージに入った私のフィギュア送るからね!

 今までも、ダンジョンを紹介してくれた人にはサイン色紙とか送ってるんだけど、その人の周りからダンジョン関連の災いみたいなのが起こりづらくなるそうな。

 そんな効果が私のサインに……?


 さて、気を取り直してダンジョン突入です。

 最近の私、宇宙服ファッションが気に入っているのでずっとこれ。

 空陸海と、これ一つで対応できちゃうんだよね。


 ちょっと体にピッチリしている気がするけど、水着みたいなもんだと思えばまあ。


※おこのみ『スペースはづきっちが動いているところを拝めるなんて……。ありがたやありがたや、センシティブセンシティブ』


 センシティブ勢が何か言っているから、多分センシティブなんだろうなあ……。

 でも、体にフィットしていると何かに引っかからないから凄く動きやすいのだ。


 かわいい衣装が思いつくまでの間は、当分これ。

 私の今までの服の中で、一番お金掛かってるし。


 足元の感覚が、一気に凸凹したものになった。

 あっ、空の色が真っ赤に。

 周囲の風景も赤錆びた感じに。


「いきなり変わりましたねー。ここからダンジョンですねー」


『もがああああああああ!!』


「あちょっ」


『ウグワーッ!』


 地面を突き破って大きな怪獣の頭みたいなのが出てきたので、チョップで粉砕しておきました。


「一体これから何が起こるんでしょうね。気をつけて進まねば! では、ゴーゴー!」


※『明らかに大型のモンスターっぽいのを秒殺したぞ!』『障害とすら思ってないw』『こりゃ、誰もはづきっちを止められねえな……』


「今回のタンカーですけど、周辺の被害を抑えるために場合によっては壊しちゃっていいという話になってます。まあまあ古いものでもあるみたいでー。なので、私は今回はちょっと派手にがんばるよ! バーチャルじゃないゴボウもここに!」


 取り出したら、ゴボウが金色にピカーっと輝いた。

 海から這い上がってこようとしていた、ドロみたいなモンスターの群れが『ウグワーッ!?』と光を浴びて溶ける。


「まあこの光ってるのは見せかけみたいなもんですけど」


※『抜いただけでモンスターの群れを一掃してんのよw!!』『より一層ヤバさに磨きが掛かってるな、はづきっち』もんじゃ『はづきっちがゴボウを抜くというのはつまりそういう意味になってきてるんだろうな』


 タンカーに乗り込みますよ。

 崩れかけたコンテナが組み合わさり、複雑怪奇なダンジョンになってる。

 しかもコンテナの一つ一つもダンジョン。


 これは一気に攻略するのは大変そう。


「コンテナは式神でやっていって、私はメインのタンカーをやっていきますね。同時攻略ってことで、式神にはカメラをもたせるので、後でアーカイブで複数視点を楽しんでください~」


※『もうこの段階で他の配信で見られないようなことをガンガンやってくるw』『何度も見返す必要がある配信だこれ!』


「無音なのもあれなんで、バックミュージックでイカルガエンタの歌曲集を流しておきますね!」


 ワイプ映像が私の配信の右下に出てきて、そこで次々にMVが流れる。


※『これ以上情報量を増やすのをやめろw!』『ただでさえゴボウを抜いたはづきっちがいるのに、イカルガエンタの歌まで流れたらこれ、どうなっちまうんだ!?』もんじゃ『現段階での地上最強戦力がここにいることだけは確かだ……』


 そんな大げさな!

 じゃあサクサク行きますよー。


 私はダンジョンをどんどん突き進んでいく。

 周囲を囲むコンテナから飛び出してくるモンスターの群れを、ぺちぺちぺちっと薙ぎ払い『ウグワワワーッ!?』、助け出した人を式神に手渡して運んでもらい。


「おねがーい」


『ぶいーっ』


 猛烈な勢いでダンジョンを突き進んでいく。

 そろそろ船首かなーという辺りで、私の後ろはほとんどダンジョン化が解除されている状態になった。


「ははあ、圧倒的じゃないですか今回の私の攻略スピード。一時間コースですねー」


※『フラグフラグw』『でも、今のはづきっち相手にフラグできる相手がいるのか?』『さあ?』


『例えば魔王本人とかー? あたしみたいな』


 いきなり声がした。

 あれ、まだ誰かいた?

 と思って振り返ったら、私の真後ろに金色のドレスをまとった女の子がいたのだった。


『うはは、戦闘モードその一。着古したドレスだけどまあいけるっしょ』


 彼女の瞳も金色に光ってる。

 私をじろりと見て、にんまりと笑った。


『あんたがきら星はづき? あたしは魔王マロングラーセ。よろー! で、バイバーイ』


 魔王を名乗った女の子の後ろから、太い触手みたいなのがいきなりドバーッと来た。

 だがまあ、見えるのでサクサク切り払えますよね。


「こんきらー。あちょちょー!」


 ぺちぺちぺちっ!


『ウグワーッ!!』


 触手の群れが悲鳴を上げながらバシューっと消えていった。


 魔王の人が驚く。


『へえ!? あたしのペットを簡単に片付けるなんて! やるじゃん! 前々から思ってたけど、あんたって本当に何者? ちょっと普通じゃない強さじゃん?』


「あっ、あっ、きら星はづきです~。今後ともよろしくお願いします~」


 私は初対面の相手にペコペコした。


※もんじゃ『状況は間抜けだが……。ここで今、この世界の命運を決する戦いが始まろうとしていることだけは分かる……!』『やべえよやべえよ』『全てのダンジョンの元凶がフラグ通りいきなり現れたってコト……!?』


 えっ、そうなんですか!?


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