第430話  対談! うぉっちチャンネル伝説

 冒険配信者うぉっちチャンネル。

 いつもの前置きが終わる。


『こんにちはなのだ! 今日もうぉっちチャンネルを始めていくのだ!』


※『こんちゃー』『待ってた』『うぉっちチャンネルのライブ配信、すっかり定着したよな』『本来はボイスソフトなのに、本人と合体した特異なケース』


『今日は特別ゲストをお招きしているのだ! 自己紹介どうぞ!』


 カメラが動き、画面の中にピンクの髪に体にフィットした宇宙服姿の少女が映し出される。


「こんきらー! もう三年目の冒険配信者、きら星はづきでーす! うぉっちチャンネルのみんなよろしくお願いしまーす!」


※『!?!?!』『はづきっち!?』『こ、こんきらー!』『こんきらー!』『超大物ゲストじゃねえか』『事態の核心に近いところにいる人を連れてきたな』


 管理人は至ってマイペース。

 背後に大型のフリップを展開して、本日のプログラムについて軽く説明してく。

 その中でも最大の論点が一つ。


『今日は、ダンジョンの休日問題に切り込んでいくのだ! このチャンネルは考察チャンネルでもあるのだ! では実際に現場を検証したきら星はづきさんからどうぞ』


「あっはーい。私、色々理由があって事務所からダンジョンの休日後、ホイホイダンジョン行って攻略しないようにって言われてるんですけどー」


※『そりゃそうだw』『どれだけ高難易度ダンジョンになっても鼻歌交じりに制覇するもんな』『はづきっちは強すぎる……』


「言われてすぐに、変装して他の配信者さんの配信に潜り込んでダンジョン行ったんですよね」


※『おいおいおいw!』『マジかw!』『じゃあどっかにはづきっち映り込んでんの!?』『探せ探せ!!』


『その疑惑の配信がこれなのだ! ユーシャ・ブレイバーちゃんの勇者部ちゃんねるなのだ! この日の配信に、デビュー前の新人さんという触れ込みでサングラスを掛けた二人組の女の子が加わっているのだ!』


 管理人とはづきの背後にアップされた映像では、サングラスを掛けておそろいのジャージに身を包んだ二人が、ぽしょぽしょ囁き合いながらユーシャとコラボ相手の後をついていくところだった。

 その手に握られているのは……。


※『バーチャルゴボウじゃんw!!』『片方は背格好とかプロポーションが明らかにはづきっちだぞ』『ダブっとしたジャージでも分かる出っ張ったところ!』『身のこなしもはづきっちだ!』『もう一人は誰なんだろうなあ……。異世界人っぽいけど』


 きら星はづきがダラダラ汗をかいている。

 彼女はどこからかハンカチを取り出して汗を拭くと、


「な、なぜバレたんだ」


『普通にバレるのだ! というのも、このダンジョン、明らかに他のダンジョンよりも危険が多かったのだ! だけど苦戦しそうな場面だと露骨に敵の数がガクッと減って楽になるし、画面外にカメラが向くと、そこにはモンスターが死屍累々だったのだ!』


※『あからさま過ぎるw』『ユーシャちゃんはなんで気付かなかったんだ』『ユーシャちゃんかわいいな』『真っ直ぐな感じの後輩系女子』『陸上やってそう』


 はづきは何か口の中でもごもごした。

 ユーシャちゃんは工学系の理系女子でやっているスポーツは卓球と呟いたようだが、誰にも分からなかったようである。


『その後、明らかに強力なはずの怨霊系ボスデーモン登場において、ジャージの彼女が手渡したアクスタが光を放ち、配信者の二人にバフを掛けたのだ! こんなの、普通に買ったアクスタを持ち歩いてても絶対起こらないのだ。本人がその場で手渡さない限り発生しないのだ』


「うううっ」


※『すげえパワーアップしてるw』『他の考察サイトでもそういうの書いてる人いたな』『配信されてないのに強いのか、はづきっちw』『いつも誰かがはづきっちのこと考えてるもんな』


『これらの理由から、この謎の新人配信者はきら星はづきさんの変装だと断定できるのだ! Q.E.D.』


※『さっすが管理人』『ぐうの音も出ないほどの完璧な推理だったぜ』


「ぐう」


※『はづきっちがぐうって言ってるw』


 そこで画面が切り替わる。


『それではづきさんはどうだったのだ? はづきさんの超絶パワーを抜きにして、モンスターの強さ的には』


「えっとですね、多分一割増しくらいだと思います。でもそれより、モンスターが配信者相手の戦い方を分かってる感じがしましたねー。戦士相手には遠くから、魔法使い相手には近づいて攻撃、みたいなセオリーを確実にやってくるみたいな」


『なるほどなのだ! つまり、これはモンスターの直接的強化というよりは、今まで野生動物のように本能任せに襲ってくるだけだった相手が、タクティクスを使って攻撃してくるようになったということなのだ! これは一大事なのだ!』


※『わかりやすい!』『なるほどなあ、それは確かにコラボしてパーティ組んだほうがいいよな』『今はどこの配信者もコラボしてるからねえ』


 うぉっちチャンネルが次に提示したパネルは、ダンジョンの休日以降の配信者たちの実績。

 休日直後にダンジョンがパワーアップした際には、攻略失敗する配信者が続出した。

 その後、各事務所で対策が練られたようで、大手所属の配信者は必ずコラボ配信を行うようになったのだ。


 すぐに個人勢もこれに倣うことになる。

 すると、ダンジョンの攻略失敗がぐんと減った。


『パワーアップしていると言っても普通のモンスターなのだ! 配信者が複数人いたら全然平気なのだ! ちなみに単独でも強力な配信者の人は、全然スタイルを変えなくてもやっていけているようなのだ』


※『強い人は強い、と』『そらそうよ』『その究極みたいなのが管理人の隣に座ってるけどな』『あ、静かだと思ったらなんか口がもぐもぐ動いてる!』


「差し入れのケーキおいしいー」


 きら星はづきが悠然とおやつを食べていたので、コメント欄がほっこりした。


『僕が近くで買ってきた、個人店のケーキなのだ! 使うバターの量を妥協しないから、高いけど常に美味しいのだ!』


「めっちゃ美味しいですー。ホールで食べたい」


※『太るわよw!』『あー、たまに輪郭がぶれてベルっちが出てきてるじゃんw』『二人で食べてるw』


『というわけで、ダンジョンの休日関連について分かっていることはここまでなのだ。今のところ、大きな脅威ではあるが対応可能なのだ! 引き続き調査していくのだ! さて、次の話題なのだ。各国でダンジョン配信反対派の動きが活発化してきていて……』


 時事ネタから、世界の状況紹介へ。

 うぉっちチャンネルの話題が変わるのだった。


 なお、その間もきら星はづきは、差し入れをパクパク食べていたらしい。


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