第429話 格安眷属ドローン、特許出願伝説

「ここからは、運動場を借り切って使える時間なんです。週イチだから、ここでたくさんデータを取っておかないと……」


 ユーシャちゃんが解説してくれる中、ドローンが飛び立つ。


「ユーシャー! 準備オッケー!」


 操作担当の学生さんが声を掛けたら、ユーシャちゃんが頷いた。


「行くよぉー! ファイアボール!」


 ユーシャちゃんが魔法を放つ。

 おお、確かに現代魔法のファイアボールが飛び出していった。


 見た目はバスケットボール位の大きさの火の玉。

 ただし、近寄っても熱くないし、現実のものには影響を及ぼせない。


 ファイアボールが通じるのはモンスターか、ダンジョンにあるものだけだ。

 それが現代魔法ってわけなのだ。


「師匠の式神は現実に影響を及ぼしているが?」


「あれは現代魔法じゃなくて古代魔法みたいなものなので……」


 ドローンがぶいーんと飛びながら、ファイアボールをキャッチする。

 そしてまたぶいーんと飛びながら、ファイアボールを吐き出した。


 ちょうどその先に、バーチャルな感じの的が出現していて、そこにファイアボールが当たるとボーン!と弾けた。

 おおーっ、威力もなかなか。

 まともに当たれば、ゴブリンクラスならまとめてイチコロじゃないかしら。


「よし、ではわらわが見本を見せても良いかのう?」


「あっ、スファトリーさんどうぞどうぞ!」


 ここでスファトリーさん出陣!

 見本をお見せします。


 彼女は空をパタパタ飛びながら、むにゃむにゃ詠唱。

 それから急角度でカクカク飛んで、詠唱の続き。

 さらに急速落下してからのスライディング着地をして、最後の詠唱を終えてからファイアボールを放った。


 それをキャッチするドローン。


 おおーっ!


 私は拍手した。

 みんなも拍手した。


 なるほど、こう言うふうに動き続けながら詠唱すると、隙が凄く少なくなるね。

 そして魔法使いタイプをやってる配信者が、言い訳しながら運動をしないのが通じない世界がやってくる。


 運動苦手な水無月さん、がんばれ!!

 私はトライシグナル所属の彼女を心のなかで応援した。


※『スファちゃんはさすがやね』『はづきっちもやらないの?』『はづきっちの魔法は魔法というか特殊能力だからなあ』『あの人は棒立ちにて無敵なので』


「うんうん、私はドローンいらないので……。こうやってむにゃむにゃ……せつ!」


 せつ! っていうのは切と書くのね。

 むにゃむにゃ詠唱して、指先で空中にサッサッと印を描いて、切、で斜めに切るの。

 そうすると空間を破って眷属が出現する。


 フライングブタさんが『ぶいーっ』と現れたので、勇者部の人たちがワーッと沸いた。


「これは確かに、ドローンじゃどうにもできないなあ」「自分でドローンを作り出す魔法だもんね」「凄い……。再現したい……」


 魔法ではなく陰陽術なので、そっち方面を知りたければ宇宙さんを紹介しないでもない。

 でも多分、それなりに高額な受講料が掛かりますよ……!


 そしてお金と言えば……。


「あの、このお安いドローンの組み合わせ、一応特許取っておいた方がいいですよ」


 私は進言した。

 そうしたら、勇者部の人たちがキョトンとする。


 部長さんらしき眼鏡の男性が代表して質問だ。


「どうしてですか? 僕ら、この技術でお金を取ろうとか考えていなくて。むしろ世の中の役に立ったらなと」


「そう、それです。えっとですね、この配信見てて、勝手にドローンの構造を解析してから先に特許出願して、この格安ドローンで金儲けをしようって人が絶対に出るんで。この技術ってこれからのダンジョン配信をかなり楽にしてくれる可能性あるじゃないですか。そういう必須技術を小金稼ぎに使う人を防ぐためにですね、自由に使っていい特許にするんです」


 なるほどー!と勇者部のみんなが納得した。


「さっすがはづきちゃん……!! 偉大なる配信者だなあ……」


 ユーシャちゃんなんか目をキラキラさせて感動しているではないか。

 ハハハ、ただの女子高生配信者ですよ……。


 作業の息抜きにネットを徘徊していると、特許絡みのお話をよく見たりするんで。

 自分では何も作らないけど、特許ゴロみたいなことをしてる人っているんだよね。


 一応私も、さっき作った式神を飛ばして牽制しておこう。

 格安ドローンで同じ構造のを特許出したらシャットアウトして呪う感じのやつ。


 その後、格安ドローンの特許は見事に出願されたそうです。

 何しろこれ、ダンジョンコアの欠片さえあれば、一桁万円前半で作れちゃうからね。


 なお、私が渡した強力ダンジョンコアを搭載したドローンは自律意思を持って、ユーシャちゃんの相棒みたいになったそうだけど……。

 それはまた別のお話か。


 訓練風景を見せてもらい、その後いろいろなディスカッションをしてですね。


「ダンジョンはちょっと強力になったけど、こっちも技術が発展して難しいところも攻略できるようになってるから。みんなで知恵を出し合ってやっていきましょう!」


「はい、はづきちゃん!」


 私とユーシャちゃんが握手をし、上に飛び上がったスファトリーさんが、もふっとぬいぐるみみたいな手を載せたところで締めとなった。

 動画は大好評。

 勇者部ちゃんねるの登録者もグーンと増えた。


 勇者部のみんなとユーシャちゃんに見送られつつ、私達は帰宅した。

 いやあ、将来有望な配信者だったなあ。


 地に足がついている感じで、突然超常的な進化とかしなさそうな、着実にレベルアップしてく系の……。


「師匠、わらわはあの者とちょこちょこ接触を持つべきだと思う」


「あらスファちゃんどうして」


「今は師匠に世界中の力が集まりすぎていて、このまま魔王殿とぶつかり合えば世界が壊れてしまうからじゃ」


「ははー、そういう考え方が!」


 異世界風の物の見方というのがあるんですねえ。

 確かに、火の大魔将みたいなのと地上でぶつかったら、被害は甚大そう。


 つまりスファトリーさん的には、強い人をたくさん用意して、みんなで魔王を迎え撃とうと。

 そういうことなので。

 いいじゃないですか。


 私は今後の方向性を確認できたのだった。

 それから、スファトリーさんのホテルで引っ越し準備のお手伝い。

 晴れて彼女、イカルガマンションに引っ越すことになりました!


 もうこっちの世界の日常生活の達人だね!


「おや? 師匠。うぉっちチャンネルとやらから連絡が来ておるが」


「おっ! 最近のダンジョン強くなった現象を考察し終えたのかな? ゲスト出演のお願いだ」


 次のお仕事、行ってみましょう!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る