第55話 スタディウィズミー伝説

 期末テストのため、試験勉強をするのだけれど……。

 トライシグナルの先生たちが帰った後、一人で勉強するモチベーションが湧かない。


 ここはもう、配信するしか無いでしょ。


「……お前ら、こんきらー」


※『こんきらー』『こんきらー!』『おっ、今日はいつもの雑談配信?』『静かめ雑談?』


「うん、期末テストが近いので……。勉強するので監視してて……!」


※『承知の助』『ガッテン』『はづきっちを隅から隅まで眺めるぞ』


 おっ、ちょっとボーダーな発言あったかな!?


「とにかく今回は、あまり喋りません! 期末テストが片付かないと落ち着いてダンジョンも潜れないので……」


※『了解ー』『現役高校生は大変だなあ……』『きちんと試験勉強してて偉い』


「おほー、褒められるとモチベーションが上がって助かります」


※『すごい声出してたな今』


「き、聞かなかったことにしてください」


 カリカリと試験範囲の勉強をする。

 七教科くらいある。

 私のいる普通科は、一年生の間は幅広くなんでも勉強するのだ。


 クラスの陽キャたちが数学なんかわからねーとブウブウ言ってた。

 で、来年からは文系と理系に分かれる……。


「暗記系辛い……」


※『もう弱音吐いてるぞ』『詰め込み教育よくない』『がんばれ』


「が、がんばる。これが終わったら、今やってる新しい仕事の話をちょっとだけできると思います……」


※『おお!』『最近はダンジョン以外の仕事が増えてきたねー』『子どもを見守る親の目線になりつつある』


「おかげで、すっごく忙しいんですけどね……。私はダンジョンだけ潜ってればいいと思ってた」


※『それだとリスナー飽きちゃうからね』『飽きさせないために色々やるんでしょ』『配信者、なんでライブとかグッズとか出すんだって話あるけど、それも全部リスナーについてきてもらうためだもんな』『いざって時に同接いないとヤバいもんね』『ついでに経済を回してる』


「はえー。お前らの中にも詳しい人たちがたくさんいる……」


 いつもは私のダンジョン探索を煽ったり騒いだりしてるけど、ちゃんと知性があったんだなあ……。

 必要なときには集合知になって助けてくれるし。


「そなんだねえ……。じゃあ、頑張ります……!」


※『頑張れ』『がんばれー』『これははづきっちにしかできないことだからなー』


「ご声援感謝です!」


 これ以降、20分くらい無言でカリカリと書き物をした。

 コメントが流れていくのをチラチラ見る。


※『チラチラ見てて草』『気持ちは分かる』『短時間集中した方が結果出るぞ』


「おほー、人生の先輩がたが!」


※『おほーやめろwwww』『変な鳴き声を獲得するな』『若い女子があげていい声ではないww』


 変なところで叱られてしまった!

 ともかく、コツコツと作業を進めて行き……。


 ひとまず、今日の範囲は終わり!


「皆さん監視ありがとうございます! どうにかなりそうです!」


※『良かった良かった』『いつでも呼んでくれよな』風花雷火『テストが終わったらクイズ大会ですからね』『ん!?』『えっ!?』『風紀委員長!?』


「あひー!?」


 まったりとしたムードだったコメント欄が、一瞬で騒然とする。

 突如現れた風花雷火委員長!


 本当に本気だったのかこの人!


※風花雷火『脚本が書き上がりました! トライシグナルの方々に今度持って行ってもらいますから、バトラさんと一緒に司会進行をお願いします』


「ぎょえーっ! し、し、司会進行~っ!?」


 さっきまで勉強していた内容が、全部ぶっ飛んでいってしまった。

 何を言ってるんだこの人ー!


 私は大混乱。

 コメント欄は大盛りあがり。


※『はづきっちが言ってた次の仕事ってこれか!』『楽しみすぎる!』『……クイズってどこでやるんだ?』『まさか、ダンジョン……?』


 ダンジョンでしょうねえ……!

 とんでもないことになってきている。


 これは期末テストどころではない。

 だけど期末テストをサッと終わらせて、赤点を完全回避しないとそもそも企画が駄目になるかも知れない!


 そ、それは避けたい!

 私が必死にテスト勉強をする理由が生まれたわけだ。


※『あ、もうトレンドになってる』『はづきっち争奪クイズ大会だって』『すげえー』『夏の大イベントだな!』


 恐ろしい恐ろしい……。


 そんなとんでもないことがあった日の翌日は、カンナちゃんが家庭教師に来てくれる日だった。


「委員長さんが本当に恐ろしいことを……」


「うひゃー! とんでもない! でもやるね、あの人なら絶対にやるわ……」


 カンナちゃんがうんうんと頷いていた。

 やっぱりやるタイプの人なんだ!


「多分だけど、筋をきっちり通す人だから、はづきちゃんのお兄さんに連絡は取ってあると思う。その上で了承をもらってコメント欄で発言したんじゃない? その方がほら、話題になるでしょ」


「なるかなあ……」


「はづきちゃんの最高のリアクションもついてくるから、絶対トレンドに入るって踏んだんでしょ」


「わ、私のリアクションが!?」


 衝撃を受ける私。

 そんなだいそれたものではないと思うんだけど……!!


「今の配信者業界で頂点に位置するリアクション芸人四人っていう切り抜き動画があってね」


「なに、それ……?」


 私は知らないぞ!


「ほら。三人の名だたる配信者が挙げられた後、真打ちではづきちゃんの名前が」


「あひー!?」


 私の知らないうちに!


「ほら、それ! 何かあると衝撃を受けて悲鳴を上げたりのけぞったりするでしょ!」


「む、無意識で思わず……」


「才能だわ」


 褒められて喜ぶべきところなの……?

 いや、冒険配信者としては武器なのかも知れない。

 武器なのか?

 ほんとに?


 解せぬ……と唸る私を、カンナちゃんが揺らした。


「ほらほら、勉強をしましょ! この後の報酬の、はづきちゃんのゴボウ料理楽しみにしてるんだから」


「あっはい。が、頑張ります!」


 全ては期末テストをクリアしてから!

 悩むのはそれからでいいのだ。


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