第138話 チベスナからブタさんになった伝説

 その日、ぶらっとダンジョンに出かけて攻略配信をしてきた。

 やたらと、ムキムキ直立ブタさんであるオルクが出てくるダンジョンだった。


 おおー、頭の中をブウブウ言う声が響き渡ってる~。


 配信に付き合ってもらったリスナーにお礼を言いつつ、私は帰り際に近くのコンビニのイートインで衣装のチェックなどを行う。


「はづきっちが肉まん食べながらAフォンいじってるんだけど」


「やべえ、ピザまんとトンポーローまんとでけえ炭酸飲料用意してあるから間違いなく本物のはづきっちだ……」


「当たり前みたいにコンビニにいるなあ……」


 そんな声を聞きながら、ちょこちょことAフォンに保存してあるハロウィン衣装を修正する。


 おお……まだ頭の中でブウブウ言う声が響き渡ってる……。

 気づくと、チベスナがブタさんになっていた。

 私のハロウィン衣装はブタさん……。


 後日の配信で、ハロウィン衣装の変更に気付いたリスナーが『よりによってwww』と反応した。


※もんじゃ『ちなみにはづきっち。ブタは暴食が象徴する動物でもある……』


「あひー大罪勢に意識を引っ張られている私!」


※『オルクたくさん倒した後で豚まん系のをたくさん食べたからじゃね……?』『はづきっちの意識は食べ物に支配されている……!』


 それは間違いない。

 とりあえずチベスナとブタさんを両方用意しておいた。

 どうせ見た目だけだし、Aフォンをポチッとやると変更できるし。


 配信を終えた後、自分で身につけてみてチェック。

 ふむふむ、チベスナは耳が思ったより小さい。尻尾もそこそこ。

 インパクトは弱めかな……。


 ブタさんは……。

 おお、ヤバい。

 なんか異常に私に似合ってる気がする。


 ブタの耳とブタ尻尾。

 つぶらな瞳と鼻は、私のピンクの前髪に出現するようになってる。


 あまりにもマッチ感が凄かったので、カンナちゃんに画像を送ってみた。


『すごい』


 シンプルな感想返ってきた!


『トライシグナルでもハロウィン出るから見せっこしようよ!』


「ああーいいですねー」


 お披露目の日ハロウィンまであと少し。

 カラオケボックスに籠もり、トライシグナルの三人とハロウィンの衣装の見せあいをした。


「ブタさんです」


「おおーっ」


「あまりにも似合う……」


「ね? はづきちゃんのブタさんすっごく可愛いでしょ!? あ、私はキツネ!」


 カンナちゃんがキツネはイメージ通りかも。

 水無月さんはタヌキで、卯月さんがウサギ。

 おお、イメージ通り……。いや、なんかこう、ハロウィンではなくない……?


「動物コスプレというか」


「はづきちゃん、それ言ったらだめ!」


「あ、でもはづきちゃんのブタさんって暴食を象徴する動物でしょ?」


「水無月さんが詳しい……」


 暇な時にネットをさまよってるそうで、私の事情にとても詳しかった……!

 こうして、ハロウィンは久しぶりになうファンタジーとのコラボになることになった。


 なお、トライシグナルのみんなは歌もダンスも超上手くなっており……。


「ま、また差を広げられてしまった」


「はづきちゃん業界トップな上に歌もダンスも完璧だったら私たちの立つ瀬がないでしょ」


「たくさんの弱点と隙があるからねえ、はづきちゃん」


「うんうん! だからはづきちゃん嫌いな人あんまりいないんだよね」


 そうだったのか……!!

 私は自己評価が大変低いので、あまり他人に嫉妬するとかそういうのは無いんだけど。

 確かに、自分より有名な配信者に嫉妬する人とかはツブヤキックスでよく見かける気がする……。


 私がちょいちょいヘマをするのはそこら辺では好意的に見られていたのだ!

 人生何があるかわからないなあ。


 そしてカンナちゃんから手取り足取りのカラオケレッスンを受け、それでもなにも上達しないままその日のカラオケは終わった。


「いや、はづきちゃんの歌とかダンスは分かりやすい上手さとかそういうのとは、全然別の次元に向かっている気がする……。それはそうと、はづきちゃん分を補給したわ~」


「はっ、私もカンナちゃんのパワーを補給しました」


「何この二人の超仲がいいの」


「カンナって妹がいたらはづきちゃんみたいな子がいいけど、今ははづきちゃんがいるから満足だっていつも言ってるもんね」


 そうだったのか!?



 やってくるハロウィン。

 学校では、クラスメイトが気もそぞろ。

 学外でのイベントとかデートとかに出かける予定があるみたいだ。


 いつの間にか昼を一緒にするようになった猪鹿蝶の三人娘はと言うと……。


「あたしは彼氏ができたんで、今夜はお出かけだね。フヘヘ」


 イノッチがとんでもないことを言ったので、シカコ氏とチョーコ氏が目を剥いた。


「いつの間にー!?」


「裏切り者ーっ!!」


「彼氏……うん、正しくは彼氏候補……これから育てて彼氏にしていく的な……。弟の友達で」


 中学二年生らしい。

 年の差……!!


「えっ、法律的にいいの……?」


 私がぼそっと呟いたら、イノッチが「あたしも未成年だからいいの!」と言ってきた。

 そうらしい……。


「いやいやはづ……じゃない。そんな先のことまで想定してんのー? えっちー」


「ハッ」


 シカコ氏に指摘されてハッとする私。

 そうだった。そんな先まで行かないかも知れないじゃない……。


「じゃあ、あなたはどうするの?」


 チョーコ氏が私に話を振る。

 こ、この状況でなぜ私に!?


「わた、私はほら、引きこもってると思う。陰キャだし。フヒヒヒヒ」


「イノッチみたいな笑い方してる」


「あたしそんな笑い方はしてないと思うけど!? いや、してないんじゃないかな、多分、メイビー」


 シカコ氏は家の手伝い。

 チョーコ氏は野暮用ということで、話は終わった。

 だが、教室から出るとシカコ氏がソソソっと寄ってくる。


「はづき先輩、チョーコは多分、はづき先輩がきら星はづきだって疑ってます。うちは付き合いが長いから分かるんですー」


「あひー、それはまずい」


「学校であひー禁止です! 一発でバレますから!」


「あひ、うぐわー、わかった」


「うぐわーもどうなんだろう……」


 どうせいというのだ。

 こうして、私はチョーコ氏の勘づきに怯えながらハロウィンへと向かうことになったのだった。


 デートとか言う人たち、ここは女子校だっていうのにどこで異性と出会ってるんだ……?

 配信か……?


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