第328話 始まる、男子三人デビュー伝説
帰って来るかなーと思ったカナンさんが、与那国島に向けて旅立ったタイミングでいよいよ新人デビューのイベントがスタートなのです。
春先、夏、そして秋。
イカルガエンタは今年たくさんデビューしましたねー。
兄はその後、当分増やす気はないらしいけど。
配信前の空き時間で、私はカナンさんが与那国行きの小さめ飛行機に乗り込むアーカイブを見ていた。
本当にフットワークが軽くなったなあ。
戻ってきたら、おすすめの旅先に連れて行ってもらおう。
今度はカナンさんと私とベルゼブブの三人だね!
『あっ、こっち配信機材運んでおきましたー』
「ありがとうございます魔王様ー」
なんか分離したベルゼブブが機材運び手伝ってるんですけど。
私も負けてはいられない。
二人でせっせと下働き。
「先輩はイカルガエンタのトップなのに、なんでスタッフの誰よりも事前作業で活躍してるんですか」
もみじちゃんが呆れ半分、感心半分で言った。
それはねー。
私はちょっと今ウキウキしているからです。
やっぱり新しい仲間がデビューするイベントって特別よね。
こころなしか、この廃屋もキラキラ輝いて見える……。
それなりの大きさがあるから、中でダンスをしたりとかもいけるんだよね。
ダンジョン化で拡張してるし。
「えーと、それじゃあそろそろ俺らが行く感じですかね」
「うっしゃ、行こう行こう!」
『うむ、我らの凄いところを見せつけてやるとしようではないか』
「バンさんはもうデビューしてるようなもんじゃないですかー」
『わはははは、だが我は主役はやっておらぬからな!』
「僕はこっちの世界に来た時さ、まさか魔将と一緒に配信デビューするとは思ってもいなかったよ」
「人生色々だよねえ」
男子グループが仲良くおしゃべりしている。
バングラッド氏だけおじさんだけど。
ということで!
いよいよイベント開始です!
画面はシルエットから始まってー。
ちょっとごきげんな感じのストリート系音楽が流れてきて、それと同時にライトアップ!
ダンジョンの中から、三人の男子登場です!
「イカルガエンターテイメントー!! はじめまして! 新人配信者チーム、三棋将! リーダーを務めさせてもらいます、相賀茂鳴憲です!」
そう、カモちゃんがリーダーなのだ。
ここは兄の発案で、やはりこの世界に慣れたこの世界の人間がいいだろうということに。
後は、見た目が王道の陰陽師なので、絵的に映えるだろうという理由だった。
それにカモちゃん、こういうのがとても上手いしね。
※『陰陽師だ!』『顔がいい』『声もよすぎるー』『かっこいいー!』
女子が集まってますよ!!
私の配信だと、男子七割女子三割くらいだけど、ここはその比率が逆転してますねえ。
「紹介していきます! 異世界からやって来たバードマンのエンジニア! トリット!」
紹介されると、トリットさんにスポットライトが当たった。
彼はくるくるスピンしながら飛び上がり、翼を使って空中でさらに縦スピン。
そこからストっと着地した。
「イエーイ! トリットだよ! よろしくぅ!」
※『可愛い系男子!』『子犬系?』『鳥でしょ』『ツボかもー!』
人気だ人気だ。
小柄なトリットさんは、見た目はちょっと可愛い系男子なのは確か。
中身はなかなか肉食系らしいんですけどね。
兄からコンプライアンス研修をバッチバチに叩き込まれたので、今は変なアプローチをしてこない。
もみじちゃんに粉を掛けたら、彼女のリスナー70万人超が許さないですからね……!
そして最後にバングラッド氏。
スポットライトが当たると、彼は腕組みをして仁王立ちになった。
『バングラッドである!!』
※『うおおおおバングラッドの兄貴ー!!』『かっけー!!』『今度対戦リベンジするからなー!!』
おやあ……?
客層が違うぞう……!?
ということで、揃った三人でまずは一曲合わせながらダンスと歌を。
メインボーカルであるカモちゃん、高音担当トリットさん、低音担当バングラッド氏。
完璧じゃないですかね。
と、ここからは配信に。
スポットライトとかの機材を回収に、私とベルゼブブが二人で走った。
ひょいひょいと機材を担いで、小さいものはAフォンに押し込んで回る。
※『雑用係ではづきっちとベルゼブブいるんだけどw!』『ほんとだ、画面の端に映り込んでる!』『お前のような目立つスタッフがあるかw!!』
目ざとい人たちめ。
配信のダンジョン攻略に入ると、さすがにバングラッド氏は危なげない。
というか、ほぼ全てのモンスターを一蹴する。
本気なら正面から私とやり合える人だもんねえ。
今まで近接最強! はビクトリアだったけど、バングラッド氏は明らかに彼女より強い。
今回は手加減してもらっています。
武器は剣一本だし。
ダンジョンの階段を駆け上がりながら、降りてくるモンスターを次々に切り捨てるバングラッド氏。
背後から襲ってくるのも、振り返らないで脇を通して一刺し。
動きに無駄がない。
ゲームやりまくってガハガハ笑ってるだけの人ではないのだ!
トリットさんは吹き抜けになったフロアで大活躍だ。
天井まで一瞬で飛び上がって、追いかけてくる空飛ぶモンスターたちを、キックで次々に撃退する。
腕にはモデルガンを構えて、パンパンとプラスチック弾で牽制する。
とにかく戦闘が速い!
イカルガで一番速いんじゃないかしら。
そしてカモちゃん。
モンスターの攻撃を回避しながら、彼の眼の前に牌が積まれた山が出現する。
リスナーの皆さんが、『!?』となった。
敵が攻撃する度に牌がツモられて、カモちゃんの手配ができていく。
何をやってるんだこの人は。
「はい、ツモ! まずは軽く、緑一色! ……鬼神の陣、発動!」
なんか緑色の牌を揃えたなーと思ってみてたら、それがきっかけになって陰陽術みたいなのが発動したみたい。
周りのスタッフが、「いきなり役満!?」「引きがおかしい」とかざわついている。
なんだなんだ。
私は麻雀は全然わからないんだ。
で、出現した緑色の鬼みたいなのが、周りのモンスターを目から出すビームで薙ぎ払う。
強い強い。
そして何をやっているんだかさっぱり分からない。
この人、もみじちゃんの系譜だ……!!
「一番の王道だと思ったが、一番変化球だったな」
横に並んできた兄が、ポツリとそんなことを言うのだった。
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