第190話 研修生来たる!!伝説
私のフィギュアにカンナちゃんとのプラモ。
色々と長期の企画を抱えてしまった。
リスナーに話せないことが増えるなあ……などと思っている今日このごろ。
これがプロという世界なのだ……!
若干高校一年生にしてその世界に踏み込んでしまい、ヘンテコなストレスを溜めている私。
まさか一年前はこうなるなんて思ってもいなかった。
後輩も一人とホームステイしてる子が一人できたし。
「後輩があと二人増えるぞ」
「あひ!?」
兄が突然凄いことを言い出したので、事務所で物思いにふけっていた私は飛び上がるほど驚いた。
「ふ……二人も!? それはどういう……」
「やはりまたしても何も知らないか」
ちょっとニヤリとする兄。
うおお、この人の手のひらで転がされている……!
何か不穏な気配を感じつつ、私は日々を送ることになるのだった。
ふと、もみじちゃんが何かを知っているのではないかと思った私は、彼女に聞いてみることにするのだ。
あるダンスレッスンの日、ビル内のレッスンルームに顔を出した。
私はなぜかダンスレッスン関係は免除されているので、普段は近づかないんだけど……。
もみじちゃんが先に来て体を動かしていたようで、先生に指導を受けながら真剣な顔で頷いている。
一生懸命なもみじちゃん、いいですぞー。
眼福眼福、とばかりに、しばらくこの様子を眺めた。
そして彼女の手が空いたところで……。
「もみじちゃん、もみじちゃん」
「あっ、どうしたんですか先輩ー」
呼ばれてもみじちゃん、パタパタとやって来た。
シカコ氏だったころはショートカットだった彼女も、ちょっと髪を伸ばしていてショートボブみたいになってきている。
これも大変可愛い。
家の経済事情が好転したので、自分のおしゃれに気を使う余裕も生まれてきたみたいだ。
いいことだいいことだ。
「あのねえ、なんだかお兄ちゃん……もとい社長から新しい後輩が増えるって聞いたんだけど、詳しいことは何も教えてくれなくて……」
「そうなんですか!? うち、全然隠してなかったんだけど……。なんではづき先輩に伝わってないんだろう」
「やはり知っていたか……。誰誰? 私の知ってる人?」
「そうですよー。ちょうど今日もレッスンに来るはずで……ほら!」
ほらと言われて、もみじちゃんが指し示した方向を見る私。
ガラス張りのレッスンルーム入り口で、シャツと短パンに着替えた女子二人が姿を見せたところだった。
片方はすらっと長身で出るとこ出てて、もう片方は私くらいの背丈でなかなかプロポーションがいい。
もみじちゃんと全然違うタイプかあ……。
一人が立ち止まり、私をじっと見た。
なん……だと……?
凄く見覚えがある人なんだけど。主に私のクラスとか、昼食時とかに。
「あひーっ、あ、あ、あなたはまさか……!!」
「よろしくお願いします! 研修生のチョーコです!」
な、なんと知り合いだった!
それどころかクラスメイトで、ここ半年くらいずっと一緒に弁当を食べている仲だった!
なんたる衝撃か!
「あれ? チョーコどうしたの? えっ、もしかしているの!? きら星はづきが……!! マジマジ!? あたしさ、直接はづきっちに助けられてさ、眼の前でデーモンが倒されてー」
こ、この脳天気な陽の側の声は!
「あひ、ま、まさかあなたまで!!」
「えっ!? えっえっえっ!?」
姿を現したイノッチ氏が私を見て、びっくり仰天したようだった。
天を仰ぎ、目をこすり、まじまじと私を見て、そして首を傾げ、思案してからまた「ヒエー!?」とか独特な叫びを漏らす。
「どういうこと?」
「やっぱりイノッチ知らなかったねー」
得意げにもみじちゃんが微笑む。
「シカコ、知っているのか!!」
いい返答だなあイノッチ氏。
それは語る側が一番欲しい反応だぞ。
この一年、様々なコメントに晒されてきて、こういうコメントがとても助かることを知っている私なのだ。
「彼女こそ! イカルガエンターテイメントが誇る日本最高峰の冒険配信者! きら星はづきその人なのですー!!」
「な、な、な、なんだってーっ!!」
めちゃくちゃに驚くイノッチ氏。
目を見開き、口をポカーンと開けて飛び跳ねてから、数歩後ずさってぺたんと尻もちを突き、私を指さしながら「アワワワワワ……」とか言った。
「す、凄いリアクション……これが陽キャの力……」
「もともとイノッチはリアクション芸人みたいなことを素でやるんです」
チョーコ氏が冷静に言ってきた。
そうだったのか……。
高校入学以降、リアクション芸人少女だったイノッチ氏は一念発起。
彼氏を作って青春ラブラブな高校時代を謳歌すべく、グループのガヤ担当、盛り上げ担当と言われた大変個性的な自分を封印して陽キャをやっていたそうなのである!
作られた陽キャだったのか……!
それにしても、新しい後輩がこの二人だなんて……。
全然知らなかった。
「はづき先輩は基本的に全然気付かないので、本当に不思議でした」
「もみじちゃんが隠すのが上手いのでは?」
「そうなんですかねー? でもほら、イノッチも全然気付いてなかったみたいですしー」
「えっ!? もみじちゃん!? シカコが!? アヒェー」
また驚いて、今度は後転してる。
凄いリアクションだ!!
「い、イノッチ氏のリアクションが本当にすごい。今度教えてもらおう……」
ちなみにイノッチ氏も全然何も知らず、冒険配信者になって新しい青春を謳歌しようくらいのつもりでレッスンに参加することにしたそうだ。
何も知らないイノッチ氏……!!
立ち上がったイノッチ氏が、私の前で「ははーっ」と土下座した。
「あひー、お、面(おもて)をあげてー」
「ははーっ、先日は助けてくれてありがとうございましたー! あたしは目が覚めました! ちょっと変わった陰の者だと思ってた師匠がまさかあの天に輝く特等星、きら星はづきちゃんであらせられたとは! 真の陽たる輝きはいたずらに放つのではなく、秘めながらも溢れ出て人を救うんですね!!」
「やだ、イノッチの語彙が凄いことになってる」
何故かドン引きするチョーコ氏。
「あ、ちなみに私は実は二学期の頭くらいから気付いてて」
「あひー」
チョーコ氏は察しが良すぎる!!
「本当に……本当に嬉しい。あなたの一番近くで一緒に歩けるから」
なんか距離を詰めてくるんですが!
ネットリした温度感がある。
伸ばしてきた手が自然と私の指に絡まってくるんですが!
「ピピーッ! チョーコアウト! アウトだよー! ちゃんと先輩であるうちを通して!」
間にぎゅうぎゅうと割り込むもみじちゃん。
「ぐぬう」
弾き飛ばされて、なんかチョーコ氏が呻いた。
うーん、今までに会った人たちとは違うオーラを感じるなあ。
あえて言うなら、大晦日に会った野中さとなさんみたいな。
しかし、とんでもないサプライズだった。
二人のデビューは、もみじちゃんが登録者数20万人達成した時に、記念配信で伝えることになっているらしい。
もうちょっとで達成じゃん。
兄はきっと、四月くらいにデビューを考えているに違いない……。
あの人はすべて計算ずくなのだ。
考え込んでいたら、まだ足元でイノッチ氏がハハーッと恐縮しているのが見えた。
「た、立ち上がってくださいー。ほら、クラスメイトなんだし」
「きら星はづきさんがそう仰るなら……」
揉み手しながら立ち上がるイノッチ氏なのだった。
うおおお、なんだか彼女たちとの距離感が激変したんだが!!
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