第189話 愛ゆえに!はづきの直談判伝説

「お前ら、こんきらー」


※『こんきらー!』『こんきらー!』『なんだ、今回の大事な報告がありますっての』おこのみ『まさかお付き合いしている女子がいるんじゃないだろうな!!』『いそう』『女を沼らせる女、きら星はづき』


「当たらずと言えども遠からず……」


 私が呟くと、コメント欄がどよめいた。


※おこのみ『詳しく教えてください……私は今、冷静さを欠こうとしています……』


「この間カンナちゃんとデートしたじゃないですか」


※『初耳ィ!!』『自分の中だけで完結するなw!』『配信しろ』


「あ、ごめんなさいごめんなさい! で、一昨日みんなになうファンタジー配信者のフィギュアはどこが出してるって聞いたら」


※『シアワセヤだな』『プラモからフィギュアからグッズまで出してるもんな』『ベストラフィングカンパニーよりもずっと老舗だぞ』


「うんうん。なのでアポを取って、立川に行ってシアワセヤ本社を訪問したんですけど」


※『行動力~!!』『無言で凄まじいアクションを起こすなw』『配信しろ』


「ごめんごめん! それでね、カンナちゃんのフィギュア出してってお願いしたら、なんで私がお願いしてくるのって不思議に思われたんですよね」


※『草』『それはそう』『きら星はづきがカンナ・アーデルハイドのフィギュアを出せって言いに行くの本当に面白い』


「そういうことでこの話はなうファンタジーさんともちゃんとやり取りしないとっていうことになりまして。今度げんファン株式会社さんとシアワセヤさんと私の三者会議が」


※『謎の行動力w』『陰キャコミュ障設定どこ行ったw』『愛のためなら自らの弱点と設定を克服する女』


「今回はなうファンタジーさんからも許可をもらっての発表ですねー。カンナちゃんの企画を通してみせますよ!」


※『が、がんばれ!』『こんなにやる気のはづきっちはなかなか見ないな』『ダンジョンの方がよっぽどリラックスしてるもんな』


 そんな話をした雑談配信。

 これは私の退路を断つ意味がある。


 日和ってられないよなあ! ということなのだ。

 私は立体化したカンナちゃんフィギュアをこの手に抱くべく、企画に邁進した。


 兄に師事して企画書の書き方を習う……。


「なうファンタジーでも企画書を作ったものだ。新宿のアルタービルの大型ビジョンをジャックしてだな。俺は独自のストーリーを作っていたから……」


「えっ、お兄ちゃんあそこに大画面で映ってたの!?」


「配信者でありながらそれを知らないのはお前くらいじゃないのか……?」


 そんな事を言われながら、企画書づくりについて指導されたのだった。


「物覚えがいい。お前は対人関係だけ苦手だから、企画書をかっちり作っていくぞ。この二時間くらいはお前のために確保した。時間稼ぎはマネージャーと受付がやってくれる」


 社長室の横で、「ギャピー」と悲鳴を上げながら激務をこなす受付さんがいる。

 が、がんばれ……!


 私はみっちりと企画書の書き方を教えてもらい、自分で書き上げ、採点してもらった。

 よし、これで勝負に挑む……!!


 私は再び立川のシアワセヤ本社ビルを訪れた。

 会議の前に、一階のおにぎり専門店で腹ごしらえしていく。

 大きめおにぎりを四つ食べた。

 おいしい。


 ふと横を見ると、見知った顔が……。


「あっ、げんファンの営業さん……」


「あっ、き、きら……」


 向こうが恐縮してきた。

 私もペコペコ頭を下げる。

 お互いお腹が空いてはパワーが出ないんだなあ。


 そういうことで、二人でシアワセヤに向かった。

 ここで、会議室にてプレゼンをする。


「と、と、というわけで、ええと、カンナちゃんのフィギュアを作って欲しいです!」


「パワーのある企画書だ」


 シアワセヤの開発トップらしい人がなんか重々しく頷いてる。

 横にいる男の人は、デザイナーさんらしい。


「ちょっといいですか」


 デザイナーさんが挙手した。

 鋭い目つきで私を見ている……!

 な、なんだというんだ!


「あ、はい、ど、どうぞ!!」


「ありがとうございます。カンナ・アーデルハイドさんは必ずフィギュアでなければならないんですか?」


「そ、それはもちろんです! 手の中にどっしりする形あるフィギュアだと、カンナちゃんが一緒にいるーっていう感じがしますから!」


「なるほど。ではもう一ついいですか。きら星はづきさんと二人セットというのはどうですか」


 その時!

 私とげんファンの営業さんに衝撃が走る────!!


「そ、それはどうしてですか」


「失礼ですが、カンナ・アーデルハイドさんの登録者数は15万人。なかなかの人気ですが、なうファンタジーの中ではまだ中位にも入っていません。彼女だけを特別にフィギュア化するなら、仲間のトライシグナルのお二人もするのがセオリーになるでしょう。ですが、まだお三方はそうなる実績が乏しい」


 き、厳しい意見~!!


「ですが!!」


 デザイナーさんの目がガッと輝く!


「きら星はづきの親友としてのカンナ・アーデルハイドが、そのきら星はづきとのコンビで商品化となれば! これはいけます!! フィギュアで……。いや、美少女プラモデルで商品化できます!!」


「美少女プラモデル!!」


 私とげんファンの営業さんに衝撃が走る────!!


「うちとしてはありがたいのですが、イカルガさんはいいんですか?」


 営業さんに聞かれたので、最もだと思って兄に連絡してみた。

 Aフォンを通じてずっと聞いてたらしくて、


『フィギュアはバンダースナッチとベストラフィングカンパニーに商品化権があったが、プラモはまだだ。行けるぞ。許可しよう』


 ということになった。

 こ、これはーっ!


 私がプラモデルデビューしてしまう……!!


「許可をいただきありがとうございます。今からどんな造形、可動にしていくか……腕が鳴りますよ」


 デザイナーさんが凄みのある笑みを見せるのだった。

 プロだなあ!


「ではよろしくお願いします」


 シアワセヤさんの開発トップの人と握手を交わす私。

 私とカンナちゃんのセットで、一万円台半ばくらいになるだろうという話になっていくのだった。


 うおおお、グッズというのはやっぱり、いいお値段がするんだなあ!

 三つは買うぞ。


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