第17話 直接的お誘い伝説
事故物件ダンジョン。
長ネギ、殺虫剤、レーザーソード。
色々使ってダンジョンのモンスターと戦ってみたんだけれど……。
「じゃあ次はゴボウをですね」
※『うおおおおおお』『きたああああああ』『伝家の宝刀』
あっ、今までとは比べ物にならない速度で流れるチャット。
そして強く輝くゴボウ!
みんなこれに期待してたんだなあ……。
私はもしかすると、ゴボウとともに生きていくしか無いのかも知れない……!
その配信者の特徴にもなりうる道具って、まさしく当人と強く結びついた伝説みたいになるんだそうで。
私にとって、まさかそれがゴボウ……?
いやいやいや!
ゴボウで活躍する配信者なんて他にいないじゃん!
風紀委員長風神雷火は鞭と魔法だし、八咫烏はラーフと呼ばれる、スポンジの弾丸を発射する大型ライフル。
カンナちゃんは剣と魔法の王道だ。
そして私がゴボウ……?
いやいやいやいやいや。
※『葛藤してる』『はづきっちと言えばゴボウだもんな』たこやき『受け入れよう』
ううっ、し、仕方ない!
世の中、これこそ自分の象徴! みたいなものが無い配信者の方が多いんだし。
それに、チャンネル一万人を超えた私の登録者数って、個人勢としてはとんでもないレベルなんだし。
『ウボアーっ!!』
ダンジョンの壁から湧き上がってきた、平たいモンスターが襲いかかってきた。
こいつは、フロアイミテーター。
壁や床、天井に擬態して、通りかかる冒険配信者を襲う。
「読んでた! あちょーっ!!」
『ウグワーッ!』
ゴボウでポコポコ叩いたら、フロアイミテーターが光になって消えていく。
うーん、威力が段違いだ。
ここは事故物件ダンジョン最後の部屋だから、このままずんずん突き進んで終わらせちゃおう。
この後はどうやら、もっと大きな仕事が私を待っているっぽいし。
多分、企業案件……。
この私が?
企業案件?
ついこの間まで、学校に一人も友達がいなかった私が!
いや、今も一人も学校に友達いないけどね!
ダンジョン配信は人生が変わるなあ……。
※『よそ見しながら戦ってる』『あれは人生を見つめてるんだ』『陰キャほど自省するからなあ』
私の内心を読んでくる!
「心読むのやめてください! せ、セクハラ……いや、これはなんか違うな。マインドハラスメントですよ!」
※『マイハラ!』『こいつ、心を直接……!』『新語作ってて草』
そんな話をしながらも、和気あいあいと突き進む私。
このままボスである怨霊をやっつけて終わりかなー……なんて思っていたんだけど。
「ウグワーッフロアイミテーター!!」
なんか、入り口の方で叫び声が聞こえるんだけど!?
※『新しい配信者が参加してるな』『これってはづきっちの受けた案件だったんじゃ?』『横入りか』『迷惑系配信者かな』
迷惑系!?
それは困る。
迷惑系配信者というのは、正式な依頼も受けていないのに、他人が受注したダンジョン攻略に勝手に入ってきちゃう個人勢のこと。
大体、無理やりコラボを狙って目立とうとしてたり、炎上からの売名を狙ったりしてるんだけど……。
みんな変な人たちなんだよね!
怖い怖い。
私は普通の女子高生だぞ?
変な人に対抗できるわけないじゃん。
「む、無視して進もう……。きっとフロアイミテーターがお掃除してくれるから」
※『迷惑系はスルー』『基本ね』『迷惑系ってよくダンジョンで死んでるってマ?』
「死ぬの!? せめてひどい目に遭って帰ってくれれば……」
※『さっきお掃除とか言ってたのに』『根が善良なんだよね』『そういうタイプの方が安心して推せる』
推し!?
わ、私が推し?
「ウグワーッ! た、助けてー! エロゲーみたいな展開になってるぅーっ」
※『ざわざわ』『女の子の声じゃね?』おこのみ『この展開、以前にも……!!』
古参おこのみ!
エッチな事にばかり反応するこの人が気にするということは。
そっか、これってカンナちゃんの時に似てるのか!
そう思ったら、私の体は勝手に動いていた。
道を戻りながら、ゴボウを振りかぶる。
「いっ、今、たす、たす、助けます!!」
※『コミュ障っぽいところは出てるのに、勇ましい』『推せる』『いけいけいけいけいけ』
たどり着いたそこでは、天井と床と壁の四方から出現したフロアイミテーターが、触手みたいになって絡みついているところだった。
真ん中には、青いショートカットでメガネを掛けた女の子がいる。
彼女の服はもう脱がされそうになっていて、大ピンチ!
これじゃ配信できなくなっちゃうよ!?
「誰だか知らないけど! そのままだとエッチ過ぎるって、アワチューブが配信止めちゃうから!」
そしたら死ぬ!
なので、私は迷いなくゴボウを振り切った。
ゴボウに触れられたフロアイミテーターが、二体まとめて消し飛ぶ。
「た、助かった! 炎の魔本に告げる! 焼き払え!」
メガネの彼女の周囲に炎が生まれる。
それが、フロアイミテーターを薙ぎ払った。
「あっぶない……!! ありがとう、助けてくれて……」
メガネの彼女は床に落ちた後、私に向かって微笑みかけた。
「あのまま拘束されてヤニが切れたら、ニコチンの禁断症状で死ぬところだった」
「そっち!? な、なんかまた個性的な人がいるんですけど!」
※おこのみ『ご存知ないのですか!? 彼女こそ!』『NAA(ネクスト・アドベンチャラー・アカデミー)三期生三人娘の一人!』『水無月ミナちゃんです!』
うわーっ!
おこのみみたいなのがあと二人も!
いつのまに増殖したんだ。
※『コメント揃ってて草』『練習したのか』『あー、切り抜きで見たところだわ!』
「はいご紹介ありがとうございまーす。私、水無月ミナでーす。はづきちゃんのリスナーさん、どうもよろしくう。今日は、カンナに紹介されて会いに来ちゃったんですよね。一応、会社には許可もらってます」
なんかダウナー系のテンションの人だ。
「あっ、ど、どうも!」
私はペコペコ頭を下げた。
※『水飲み鳥の動き』『新しいファイトスタイルを身につけたな』『見ろよあの体のキレ』『残像が見えるな』
うるさいぞお前ら!?
顔を上げたら、私より頭一つぶん上に、水無月さんの顔があった。
うおーっ、背、高っ!!
「改めて、助けてくれてありがとうねー。それでね、はづきちゃんにはこういうお誘いが……」
水無月さんが見せてくれたのは、彼女のAフォン。
そこには、冒険配信者団体、なうファンタジーから最新のツブヤキがあった。
【三名の配信者がデビュー! カンナ・アーデルハイド! 水無月ミナ! 卯月桜! 三人のデビュー配信日はこちら! それから、ビッグゲストも……】
「お、お、おおおおおお!?」
驚愕する私。
ついに正式デビューするんだ、カンナちゃん!
「そのスペシャルゲストとして、あなたをお招きします、きら星はづきちゃん」
「な、な、な!?」
※『『『『なんだってーっ!?』』』』
私とチャット欄の心が、今、一つに!!
あ、ダンジョンのボス怨霊は二人で倒しました。
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