第355話 打ち上げロケットテスト伝説

 急ピッチで打ち上げロケットのテストが進んでいるという話を聞いて、なんだか嫌な予感がする私ですよ!!


 事の起こりは迷宮省からの連絡。

 大京元長官こと、スレイヤーVさんの発案で、強力な配信者を宇宙に送り出してそこで侵略してくる敵と戦う計画みたいなのが進行してるそうです。


 なぜイカルガエンタにそんな連絡を……?


「ハハハ、頼りにされているな」


 兄が無責任に笑う。

 ま、ま、まさか私がー!?


 かなりこなれてきたオリジナル楽曲のダンス練習を終えたあと、ベルっちと額を突き合わせてボソボソと相談する。


「どうもこの国は私を宇宙に打ち上げようとしているのではないか」


『うーわーっ、普通の女子高生を訓練もなしに宇宙に行かせる国がどこにあるのか』


「感謝祭の練習で訓練時間なんか取れないもんねー」


『いきなり種子島の打ち上げセンターへ行けとか言われそうだよねえ』


 あーやだやだ、こわいこわい、と愚痴を言い合ったらスッキリした。

 まさかいきなり私をロケットで飛ばすなんてことは無いでしょう。

 ははは、そんな、まさか。


 通信衛星などの問題に関しては、魔法やアバター制作に関わっていた人たちの活躍でなんとかなりつつある。

 世界は電波じゃなくて、魔法で通信をするようになってきているわけだ。


 法律が追っつかなくて、このままではケータイ会社が潰れるんじゃないかっていう話もあるけど。

 どうなるんでしょうねえ……。


 そんな中でも、イカルガエンタ感謝祭の準備がもりもり進む。


 イノシカチョウのライブ準備はほぼほぼ完璧だそうだ。

 ビクトリアは今や声優との二足のわらじだからね。

 トークも絡めて単独ライブだ。


 カナンさんとファティマさんのコンビでしょ。

 三棋将の三人でしょ。


 そして大トリが私。

 私ィ!?


 いいのか……?


「お前しかいないだろうが」


 何を当たり前の事を言っているんだ、ときょとんとする兄。

 最近毎日イカルガに来るので、兄が家にいた頃くらいのペースで顔を見るなあ!


 受付さんとファティマさんの間の三角関係にいるはずなのに、この人は全く変わらない。

 恋愛に興味が無いのでは……?


 まあ、この三角関係事情に関しては、ルンテさんを通して情報が入ってきたりする。


「ファティマさんはぐいぐい押してましたけど、社長はどんなにプッシュしても何も理解していない顔をしてますからね。枯れたエルフでもあれほどの朴念仁は珍しいです! 受付さんはよく彼と婚約状態まで持って行きましたね」


「ははあ、やっぱり兄と受付さんは婚約状態に」


「ありますね、指輪してますし。状況が落ち着いたら結婚するんじゃないでしょうか。ところではづきさん、私も相談に乗ってほしいことが……。求愛されておりまして」


「な、なんだってー!!」


 社内恋愛だー!


 ルンテさんは配信にも出てるけど、基本的には一スタッフなので恋愛沙汰が明らかになっても何ら問題はない……。

 いいんじゃないでしょうか。


 彼女からすると、自分の半分未満の寿命しか無い人間は儚いので、絶対将来的にペットロスみたいなことになると心配していらっしゃる様子。

 ルンテさんの実年齢が四十代(人間にしてハイティーンくらい)なので、あと百年くらいは平均して生きるとして……。

 三十代男性はやめておいたほうがいいのではないでしょうか!


 などという不思議なアドバイスをしたりなどした。

 いや、私恋愛経験ゼロなんですが。


 有り余るアニメとラノベから得た知識を使ってですね。


 そしてそして、翌日にスレイヤーVさんと会ったりなどする。

 私が彼の配信者としての師匠であり、アバター制作したママなんで、たまーに会って色々教えてるんですね。


 近くのレストランの個室で、スレイヤーVさんの奥さん二人とお子さん五人(うち赤ちゃん二名)と一緒に……。

 一人はこの間いなかった留学してる女の子ですね?


「なるほどな……。配信しながら、これではあっけないなと思っていたが。ペース配分はそうやって行うものなんだな」


「はい。えっと、わ、私の場合はですねえ、ちょこちょこ合間合間で談笑とかおやつ休憩を挟みながら、それで90分以内に収まるように攻略をしてて……」


 活発な方の奥さんが、こいつマジか、みたいな目をしてる。

 マジですマジ。

 ダンジョンと自分の実力差があると、自由自在にペース配分できます……!!


 そして、大京さんのご長女さんがなんか尊敬の眼差しで私を見てくる。


「まさか、パパのお師匠さんがあのきら星はづきちゃんだったなんて……。ボストンでも、はづきちゃんはリアル配信者だってみんな尊敬してますよ!」


「あっ、はい、どうもどうも……!」


 握手を求められて、私はペコペコしながら握手した。

 彼女は一時帰国してて、向こうの凄い工科大学でバリバリ研究とかも手伝ってるらしい。


 ……ということは年上!?


「はづきちゃんになら話していいと思うんだけど、ロケットの話は聞いてるでしょ? あれは技術的な問題からすぐ完成とは行かなくて。年明けまでは掛かるみたい。衛星をやられて通信も難しくなったから、技術者を一箇所に集めなきゃだし」


 昔に戻ってしまったようだという話だった。

 なるほどなあ。


 大京さんが笑いながら、


「少し安心したかな? つまり、君が訓練をする時間は十分に取れる。俺が宇宙に出てもいいのだが、今回は魔王の力も併せ持った君が適任だろう」


 ベルっちのこともご存知でしたか!

 観念して分身したら、二人のお子さんがキャーッと喜んだ。


 その後、大京さんのご長女さん、向こうではケイトと呼ばれてるらしいんだけど、彼女とザッコでやり取りできるようになったのだった。

 よしよし、これで恐ろしいロケットの情報が入ってくるようになった……。


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