第232話 現代魔法で遠い地方に降り立つ伝説

「あっ、はづきちゃーん! お久しぶりですー。覚えているかなあ、DIzです~」


「あっ、どうもどうも、きら星はづきと申します、この度はどうぞよろしくお願いいたします……」


 スラッとした感じで、黒い髪をストレートにした女性がDIzさん。

 前髪に一筋、緑色に輝くメッシュが入ってる。

 日本美人って雰囲気の風貌なのに、どこかこう、西洋的とも言うイメージで、それで凄くおっとりしている。

 なるほど、ライブダンジョン随一の清楚系……!!


「イカルガエンターテイメントの受付補佐です。本日はよろしくお願いします」


 見習いさんも名刺を出してペコペコしている。


「こちらこそ~。それじゃあ、私のことなんだけど、他の配信者さんも探索者さん……私のリスナーさんの呼び名なんだけど、みんな私を『だいきち』って呼んでるので、はづきちゃんもそう呼んでくれると嬉しいなあ」


「はっ、心得ましただいきちさん」


「固いよ~! はづきちゃん凄い配信者なのに、凄く腰が低いー」


 コミュ障なので、砕けたコミュニケーションが苦手なだけです!!

 お前ら相手はいい加減付き合いも長いので、かなり適当になってるけど。


「じゃあ行きましょう~。みんなで配信もスタートして……こんだいず~! 右手にマイク、左手にAフォン、今日もあなたのためにダンジョンをジオシーカー! DIzです~!」


「おおー!」


 これが熟練の配信者の配信!

 私は大変感心してしまった。


※『おいはづきっちw!』『こんきらー! なんでそっぽ向いてるんだw』『挨拶しないでヌルっと始めるなw』


「あ、ごめんごめん。こんきらー。今日はですね、ライブダンジョンのDIzさんと一緒にちょっと遠くのダンジョンまで出掛けます。みんな知ってる? DIzさんと言えば……」


※『ジオシーカーか!』『長距離探査魔法だろ?』『だいきちのあれは次元が違うんだよ。ダンジョンの写真から場所を特定して、そこがダンジョンのど真ん中だろうがドンピシャで降り立つんだ』『つええ』『異能だろそれ』


「だいずはですねー。小学校の頃に学校の先生が地理を100%当てないと帰してくれなかった授業があって、それが今この力に」


※『過酷な経験が役に立つことってあるんだw』


「これ、ダンジョンに巻き込まれた人の動画があるんですが、これをAフォンで拡大してですね、ぐるりと360度見回してみます。えーと、山、右手。標識が……」


 だいきちさんがどんどんランドマークを見つけていくぞ。

 私と見習いさんは、横でほうほう、と感心しているばかり。


「これ、多分岩手県のここですね」


「えっ、もう特定できたの!?」


「うんうん、今回は分かりやすかったです! 行ってみよう!」


「お、おおー!」


「じゃあ……ジオシーカー!」


 だいきちさんがそう宣言すると、私たちの体がふわっと持ち上がった。

 足元に、記号化された地図が見える。

 だいきちさんが岩手県を拡大していき……。


「ここ!」


 ストーン!

 と降り立った。


 いきなり、見たことがない町なのだ!

 降りた左手側に山が見えて、周囲にはそこまで背が高くない建物がちょいちょい。

 あとは家。


 Aフォンで場所を確認すると……。


「い、岩手県だあ。東京から一瞬で岩手に!!」


※『ライブダンジョンが誇る最強の移動魔法の使い手……さっすが』『これ、実際は地図当てゲームなんだけど、だいきちレベルの配信者が使うと現代魔法に昇華されるらしい』『はえー』


「ただ、すっごくAフォンの力を使っちゃうんで、この間海外で配信した時はついに充電が切れちゃって大変だった~」


「Aフォンって充電切れるんだ……」


 どんだけパワーを使っているのだ。


「じゃあここからは、はづきちゃんお願いしまーす」


「ほいほい、僭越ながらわたくしが……」


 私、出番なのだ。


 ここはダンジョン化した集落のど真ん中。

 まずは巻き込まれた人を見つけて外に出して、それから異世界人を探す……。


『もがー!!』


「あっ、なんかフクロウの頭をした大きい熊が!」


『もがもがー!』


「あちょー」


 振り下ろされてくる爪とか体当たりを、ゴボウでぺちぺち受け止める。


『もが!?』


※『はづきっちの受けは、柳のように受け流す……ではなくて豪の受けだよなw』『あれオウルベアだろ? グリズリーよりでかいんじゃね? なんで力で負けないのw』『同接パワーでオウルベアの連撃を無理やり抑え込む……!』


「あちょっ」


 ゴボウのしなりでモンスターの攻撃を全部弾いてから、ニューっと腕を伸ばしてお腹の辺りをストンと突いた。


『ウグワーッ!!』


 一瞬でばしゅーっと霧みたいになって消え失せるモンスター。

 後にはダンジョンコアの欠片が残った。

 回収回収。


 どうやらこのモンスター、木の上に逃げた集落の人を襲おうとしていたみたい。

 ぞろぞろと人が降りてきた。


「じゃあ出口まで案内しますー」


「はづきっちじゃん!!」「はづきっちが助けに来たの!?」「もう安泰じゃないか……」「ありがたやありがたや、ナンマンダブナンマンダブ……」


 おばあちゃんには数珠持って拝まれてしまった。


「はい、じゃあ出口まではだいずが案内しますね~。こっちこっち」


 周辺のランドマークをチェックして、地形を推測するのがめちゃくちゃ得意なだいきちさんなのだ。

 のんきな感じのまま、集落の人たちを連れて去っていった。


 さて、私たちはここから、モンスター討伐と異世界人探しだ。


「ついてきて下さいね受付さん」


「は、はい! かなり怖いですけど頑張ります!!」


 うんうん、頑張って欲しい。

 私は人を勧誘したりとか、めちゃくちゃ苦手だからね……!


 そうこうしていたら……。


『もがーっ』


「くっ、オウルベアめ! だが私も気高き森の民! 潔く戦い散ってみせよう! 済まない、仲間たちよ! 私は異世界で何も成せずにここで……!!」


 なんかめっちゃ喋ってる人がいる!!


「異世界の人っぽい! 助けますねー!」


※『第一異世界人発見だな!』『はづきっちは持ってるからなあ……』『一回目でいきなり異世界人ぶち当てるんだw』


 うんうん、日頃の行いの賜物ではないかと。

 じゃあ行ってみましょう。



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